ジョブ型雇用と人材育成(前編) 

08 2月 2021

ジョブ型雇用で人材育成の何が変わるのか?

ジョブ型雇用において、人材育成という観点からどのような変化が起こるのか。メンバーシップ型雇用における育成のあり方と何が変わるのだろう。その前提として、会社と社員の関係性の変化が挙げられる。

メンバーシップ型雇用では、異動・配置といったキャリアプランは会社主導で決められるものであり、教育研修の機会も定期的に会社から与えられる。新卒で入社した会社で、何年後に自分がどのポジションにいるのかは想像しづらい一方、いつどのような研修を受けるのかは分かりやすい。

一方、ジョブ型雇用では、職種別の採用が基本となり、「キャリアは自分で作るもの」「自身のエンプロイアビリティを高める」といったマインドセットが求められる。会社と個人がお互いに選び合う関係性が軸となるため、トレーニングプログラムの受講や異動なども自ら希望して行う。

市場からの引き合いが高い人材は、自身が求める経験や学習の機会をより提供してくれる会社を選ぶ。同時にまた、「会社は必ずしも守ってくれない」という前提で、スキル・能力を高めていく。企業にとっても個人にとっても、学びという点からの緊張感が高くなるのがジョブ型雇用であるといえる。

メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用で求められるマインドセットの違いを前提に、人材育成のアプローチや施策はどのように変わっていくのかを概観する。

 

7-2-1の原則から見る変化

人材育成でよく知られる7-2-1の法則(ロミンガーの仮説)というものがある。人の成長は、7割は業務経験、2割は上司の指導、1割は研修という、個人の能力開発についての影響度合いを提唱したものだ。このフレームワークに沿って、ジョブ型雇用での人材育成がどのように変化するのかを見ていきたい。

(1)ジョブ型雇用での業務経験

ジョブ型雇用では、業務経験は職種別で積んでいくことが基本となる。業務経験と各人のキャリアパスが紐づいていることが大切であるが、メンバーシップ型から移行中の会社では職種別のキャリアパスが組まれていないことが多い。業務経験を設計する際には、下記3つが合わせて検討できているかもチェックしてほしい。

  1. 会社はキャリア機会を見える化できているか(ジョブポスティングやキャリアパスモデルの提示)
  2. 当人がキャリアパスを個別に描けているか
  3. 上司がキャリア開発を支援できているか

上司がキャリア開発を支援するという点では、キャリアカンバセーションのような形式で、目標設定面談や評価面談とは別に、メンバー各人が自身のキャリア形成について上司とオープンに相談できる機会の提供も求められるだろう。

一方、職種をまたぐローテーションは、経営幹部候補として選抜されたメンバーのみが対象となる。ローテーション先ではタフアサインメントが与えられ、それをクリアして残っていくのか、もしくはクリアできず候補者から外れるのか、といるシビアな世界だ。経営幹部として組織を俯瞰してみる視点を身につけさせるという、育成目的でのローテーションであると同時に、配属先では常に結果を求められる。その意味で、軸足となる専門性や経験は必要で「根無し草」的に他部署を経験させると訳ではない。GEのリーダーシッププログラムは有名だが、職種内(経営企画・管理部門、コマーシャル部門、人事部門等)のローテーションが基本で、かつ、プログラムの卒業後は自律的にキャリアパスを選択していくシステムになっている。

(2)ジョブ型雇用でのライン長のマネジメント

ジョブ型雇用では採用・配置・育成において、ラインマネジャーが担う責任が重くなる。ラインマネジャーは、各人のキャリアパスに応じ、また職務に求められる業績達成に向けて、メンバーの一人ひとりをケアする。昨今、OKR(Objectives and Key Results)に代表されるように、速い環境変化に合わせて小まめにメンバーとコミュニケーションを取りながら、目標設定・育成・評価することが求められてきている。上司のコミュニケーションスキルは、人材の流動化が促進されるジョブ型雇用では、従業員リテンションの観点からも重要だ。ラインマネジャーにはメンバーを適切に導いていくスキルはもちろん、「この人から学びたい」と思われるかもより問われる。ラインマネジャーがキャパシティーオーバーにならないよう、外部のコーチやメンター活用した、ラインマネジャーの支援策も積極的に検討するべきだろう。

 

本シリーズ後編では、マーサーが行ったジョブ型雇用のサーベイ結果から読み取れる教育研修のトレンドを取り上げる。

著者
盛田 智也

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