数学的観点から見た採用活動
22 7月 2020
通年採用をする企業が増えている。
今まで日本における採用の中心は新卒での一括採用であり、通年採用を行っていた企業が多くはなかった。しかし、近年では事業構造や組織体制の変化に対応するため、通年でキャリア採用を行っている企業が増えてきている。また、留学生や帰国子女の秋採用の増加、新卒獲得の厳しさが増して採用予定数に届かない、内定辞退者の補てんが必要になるなどの理由から、新卒市場においても通年で採用活動を行う企業も増えてきた。この動きを加速させるように、2019年4月には経団連が新卒学生の通年採用を拡大する方針を発表している。
このように、通年採用は今後拡大していく事が想定され、企業が年間を通じて新卒・中途問わず、自由に採用活動を行う事となるが、通年採用が拡大すると通年採用ならではの課題も出てくる。新卒一括採用であれば、一度に多くの学生と面接することができるので、その中でベストな人を選べばいい。しかし、通年採用であれば年間を通じて断続的に応募があるため、もっといい候補者がいるかもしれないと思うと、採用決定に踏み切れないというケースもあるだろう。結果として優秀な人材の確保ができず、逃した魚は大きかった、と後悔することもあるかもしれない。
このようなケースについて、どのように選ぶのがベストであるかを解説したい。これは、数学では「秘書問題」や「結婚問題」と言われる問題である。
例えば、以下の条件でn人(nは既知)だけ面接し、最良の1人だけを採用する最善の方法を考える(通年採用であっても面接できる人数は限られているため、厳密にはnは確定していないが、ここでは既知として見込みの人数を設定する)。
- 面接者は候補者の優劣を正確に評価できる。
- 面接は無作為な順序で1人ずつ行われる。
- 毎回の面接後、その候補者を採用の合否をその場で決定する。合否の判定にあたっては、それまで面接した候補者と比較して決定する。
- 不採用にした候補者を後から採用することはできない。
このような場合の最適な答えは、計算を省略し結論だけ記載すると、「最初のn/e人は不採用とし(eネイピア数※)、それ以降に面接した人で、それまでより良いと判断したら採用する」ことだ。
※ e(ネイピア数)は高校数学で登場した数値でe=2.71828…という無理数であり、1/eは約37%となる。
つまり、「全体の候補者から最初の37%を不採用とし、その後、それまでより良い候補者がいればその候補者を採用する」ということである。
ここで、具体的な例示として以下のケースを考えてみたい。
- A、B、C、Dの4人を面接する。
- Aの候補者が最も評価が高くA、B、C、Dの順で評価が低い(事前に分からないものとして面接する)。
この時、先ほどの計算に従うと4人×37%=1.48人となり、最初の一人を不採用としその後の候補者で、それ以前に面接した人より良い人がいれば採用する事が最良の策となるというものである。実際に、以下の4パターンで面接すると最も評価の高いAの候補者を選択できる方法はPtn2であることが分かる(表参照)。
Ptn1: 1番目の候補者を採用
Ptn2: 1番目の候補者を不採用とし、2番目以降の候補者がそれまでの候補者より良ければ採用
Ptn3: 2番目までの候補者を不採用とし、3番目以降の候補者がそれまでの候補者より良ければ採用
Ptn4: 4番目の候補者を採用する
今回の検証は、無条件に最初の数名を不採用としてから、実質的な面接をスタートするという方法であり現実的ではないかもしれない。また、最良の一人を選ぶという方法であり、最良ではなくても「よりよい応募者を採用する確率を最大にする」場合や複数人を選ぶとなればまた答えは変わってくる。
しかし、今回の示唆として「もっといい人がいるのでは?」と待ち続けると、結果的に優秀な人材を逃してしまうという当たり前の結果であり、どこかのタイミングで決断することが必要であるということが言えるだろう。また、その決断のベストタイミングは意外と早いのかもしれない(全体の37%)。