コロナ禍による確定拠出年金への影響と今後 

09 6月 2020

2019年度(2019年4月~2020年3月)の市場環境は、今年2月前半までは米国で株価が市場最高値を付けるなど、国内外の株式は堅調に推移しました。しかしながら、2月半ば以降、当初は中国国内の問題に限定されると考えられていた新型コロナウイルスの感染が急速に全世界に拡大し、各国で都市封鎖まで行われたことによって市場心理は急速に悪化、内外株式市場は大幅に下落しました。四半期でみると2020年1-3月期は約20%の下落と、リーマンショックが起こった2008年の10-12月期以来の大幅下落という非常に厳しい結果に直面することとなりました。

その後、各国で史上例を見ない大胆な財政・金融政策が打ち出されたこと、また新型コロナウイルスに対する収束期待もあり、株式市場は足元まで急速に値を戻していますが、確定拠出年金加入者のお手元に届く、「お取引状況のお知らせ(残高のお知らせ)」で、今年3月末時点の残高を改めて目にし、ご自身の資産が減少して不安になっている方もいらっしゃるかもしれません。
 

確定拠出年金加入者の投資行動

今回のコロナ禍で株式市場は大きく下落しましたが、こうした状況下で確定拠出年金の加入者にはどのような投資行動がみられたでしょうか。

<図1>は、確定拠出年金向けの投資信託で、販売額上位20ファンドのうち、バランスファンド及び株式ファンドについて、2020年3月における口数増減を示したものです。これをみると、バランスファンドのほとんどが残高を減らす一方、株式ファンドについては全てのファンドで口数が増加していることがわかります。

<図1>確定拠出年金残高上位ファンドの2020年3月口数増減(バランスファンドと株式ファンド)

(注)上記において口数は、当該投資信託の純資産額÷基準価額で算定。
(出所)各社公表資料よりマーサー作成

この結果から、確定拠出年金加入者の投資行動でどのようなことが読み取れるでしょうか。

一つの仮説は、バランス型ファンドを保有していた加入者が、株式市場の大幅下落に直面して逆張りで株式ファンドに乗り換えた、ということです。しかしながら、おそらくこのような加入者はいたとしてもごくわずかであったと考えられます。というのも、多くの場合、バランス型に投資する加入者層と、株式ファンドなどの単品商品に投資する加入者層は別であり、機動的に売買するような加入者は、バランスファンドではなく、預金等の元本確保型商品を待機資金として利用する傾向にあるからです。

むしろありうべき仮説は、株式市場の下落をチャンスだとみて株式を追加で購入する加入者がいた一方で、バランス型に投資をしていた、資産運用にそれほど習熟していない加入者が、市場の下落による損失を怖がって売却をしたということで、それぞれ別々の加入者の行動である、すなわち加入者行動の二極化が生じた、ということです。

4月に入って株式市場は上昇に転じていますので(今後どうなるかはわかりませんが)、このような投資行動の結果、加入者間の運用結果についても大きな差異が生じることが想定されるのです。
 

今後の確定拠出年金の運営

上記の結果は、全体としてみた場合の現象であり、事業主ごとにその状況は異なってくるものと思われます。しかしながら、上記事例でみたように、資産運用に習熟していない加入者は、自己責任で運用しろといっても、なかなかうまく運用できない状況にあり、こうした層が長期的視点に立って運用目標を達成することをいかにサポートしていくか、というのがどの事業主の皆様にとっても大きな課題であると思います。

こうした課題は確定拠出年金の世界では長年にわたって存在し続けており、一朝一夕に解決できるソリューションはありませんが、今後従前よりも改善を図っていける可能性が生じています。それは、今般の事象で日本でも幅広く認知されるに至ったzoom等のテレビ会議システムや、You Tubeの活用等、ITを活用した投資教育ツールの進化がみられるようになってきていることです。これまでの投資教育は、集合形式による対面で行われるのが主流でしたが、こうした新しいツールを活用することで、事業主の皆様にとってはコストの削減となる一方、加入者にとっても参加するハードルが下がり、より効果的な情報提供を行えることが期待されます。運営管理機関の方々と相談し、自社にあった方法で投資教育の改善を図っていく、ということについては今後検討の余地があると思います。

また、今回の市場の下落局面では、バランス型の売却をした加入者が少なからず存在した、と述べましたが、こうした加入者あるいは実際に投資行動に移さなかったけれども不安を感じた加入者にとっては、結果的には自身のリスク許容度に照らして、過大なリスクを取っていた、ということになります。そうした意味で今回の事象は、自身のリスク許容度を測定する良いリトマス試験紙となった、ということです。もしこのような加入者が多いようであれば、商品ラインナップを見直してみる必要があるかもしれません。確定拠出年金でラインナップされているバランス型の多くは、資産配分が固定されていますが、今回の市場の大幅変動局面では、市場の状況に合わせて資産配分を変更する、リスクコントロール型で下落幅を限定できたものが存在しています。こうした投資信託に限らず、加入者の投資行動、投資結果を踏まえて、自らのプランの商品ラインナップが加入者の方々にとって適切なものとなっているか、改善を図る余地は無いか、ということについて、今一度再検討を図ってみる余地があるのではないかと思います。

今回のコロナ禍が今後どのような影響を及ぼすのか、依然として不確実な状況ではありますが、今回の事象を踏まえてなんらかの方策を取る、そのことによって、きっと加入者の満足度を高めることになると思います。

著者
青木 大介

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