リモートワーク時代のチームビルディング 

27 5月 2020

突如として現代社会に登場した新型コロナウィルスにより、我々はまさにVUCAと言われる世界をこれでもかというくらい経験せざるを得なくなっている。歴史を振り返ってみると、こうした混沌とした先行きの見えない状況であればあるほど、リーダー待望論は勢いを増していく。しかし、VUCAと言われる現代社会はスーパースター1人の力で状況を打破することが難しい場面も多々あるだろう。そこで重要になってくるのは1人のスーパースターに依存するのではなく、いかにチーム力を最大化できるかどうかであり、それが生き残っていく上での成否の分かれ目となっていく。

これまでFace To Face コミュニケーションを前提としてチームを構築していたリーダーの中には、リモートワーク環境下でチームがうまく機能していない、あるいは新たなプロジェクトが組成された状況でチームビルディングをどうしていけばいいのか、ということに頭を悩ませているリーダーも多いのではないだろうか。

筆者は、リモートワーク時代のチームビルディングにおいて、昨今当たり前のように取り上げられるようになっている「心理的安全性の担保」は大前提とした上で、リーダーには3つの能力・マインドセットをインストールすることが必須になると考えている。

1. 言語能力:率直かつ具体的に伝える

Face To Faceが可能な環境からリモートワークの環境に変化したことで、我々がいかに五感をフル活用してコミュニケーションを図っていたのかということがわかったのではないだろうか。特に日本人はハイコンテクストなコミュニケーション文化と言われ、以心伝心や阿吽の呼吸といったものが当たり前のように思われていたが、リモートワークの環境下ではそれだけではなかなかうまくいかないということが浮き彫りになったと思う。Face To Face環境では、例えば働いている様子を見て進捗が順調かどうか、声をかけるべきかどうかを見極めていた人もいるかもしれないが、リモートワークではそれはできない。我々はハイコンテクストからローコンテクストへの転換を迫られている。ローコンテクストなコミュニケーションで必要とされているのは、1つ1つのコミュニケーションにおいて率直かつ具体的に意見を伝えることである。受け手の聴く・理解する能力に委ねるのではなく、話し手が必要な情報を受け手に的確に「伝わるように」話す能力が求められる。これはリーダーがメンバーに伝えるという場面に限らず、メンバーがリーダーや他のメンバーに情報共有するような場面でも同様である。誤解して頂きたくないのは、空気を読む力や察する力を捨てなさい、ということではなく、リーダーが成果創出という役割を果たす上でローコンテクストなコミュニケーションに対応できる伝える能力の必要性が高まるということである。

2. 実験マインド:脱完璧主義。試して学び進む

リモートワーク環境が訪れて何が起きたのか。自分がやらなくてもどうにかなってきたこと、慣れていないことであってもやらざるを得ない、という場面に何度も直面しているのではないだろうか。きっとこれからもその場面は増えていくだろう。そんな時に完璧を求めて情報をひたすら集めてから始める、ということでは何も前に進まず遅れを取るだけである。実験するというのは、一度でうまくいくことを期待しない、完璧を目指さないということであり、まずやってみるということである。リーダーがどれほど賢明であっても新たな環境下では失敗は否応なく発生する。何が正しいのかわからない新たな環境下に置かれた場合、成功への一番の近道は小さく・たくさん失敗することである。このやり方だとうまくいかない、ということがわかれば別の方法を試してみればいいだけなのである。その中で成功体験も生まれてくるだろう。そして、この実験アプローチをリーダーが率先してやることが重要である。同僚の前でみっともない姿をさらしたい人はいないだろうし、失敗を認めたがる人もまずいないだろう。それをリーダーが率先して見せていくことでメンバーの心理的ハードルが下がり、組織としての失敗に対する寛容さが形成され、チームとしての実験機会がさらに増えることが成長する上で最適なプロセスであると思う。完璧ではないがまず一歩を踏み出すことができるリーダーのあり方が肝になってくるだろう。

3. 違いへの感度:想いを馳せ、受容する

従来のオフィス環境では、基本的に就業時間には仕事の話、アフターファイブでプライベートの話、という切り分けた時間の使い方や生活になっていることが普通だったのではないだろうか。しかし、昨今の在宅リモートワーク環境では、会議中に宿題をやっている子供が画面に映ったり、時には会議をしている部屋に乱入してきてしまったり、普段とは違う呼び名で家族から呼ばれていることがわかったり、オフィスでは見ることができなかった普段とは異なる同僚の顔に遭遇するような機会もあったと思う。我々は今、仕事時間とプライベート時間の境界線が曖昧になった、「ワークライフボーダレス」と表現できるような環境に置かれており、その中で1人1人が工夫して時間をやりくりして必死に仕事をしている。チームのメンバーがどんな環境下で仕事をしているのか、何に困っているのか、自分とはどんな違いがあるのか、そんなことにアンテナを立てて多様性や複雑性を受容していくことができるリーダーが、最適なチームを構築することができるだろう。人間は誰しもがアンコンシャスバイアスを持っている。普通に生活していると自分の当たり前が他の人にとっても当たり前と認識してしまうことが多々あるが、もしかしたら違うかも?と想像を働かせることが第一歩である。

今後は、リモートワーク一本でもなくFace To Face一本でもなくハイブリッドな形での働き方、チームの動き方になっていくだろう。上記に挙げたインストールするべき3つの能力・マインドセットは、リモートワーク環境が訪れたことで必要性が浮かび上がってきたが、そもそもはFace To Faceなのかリモートワークなのかに限らず本質的に重要な要素である。今回の危機を機会と捉え、新たなリーダーシップを発揮しチームに還元することで、より良いチームにアップデートされていく。その結果として顧客への価値提供が最大化していく、そんなチームだけが未来をつかみ取れると思っている。

著者
渡部 優一

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