リモートワーク時代に“いる”人材 

18 5月 2020

Withコロナの昨今、多くの企業がリモートワークへの移行を迫られている。
実際に、各種機関が出しているリモートワークに関する調査によると、調査対象企業等による差異はあるものの、多くの企業がリモートワークに一定程度移行している*

* 例えば、2020年2月27日-3月4日の期間でマーサージャパンが実施したオンラインサーベイの結果によると、日系大手企業や外資系企業を中心に本社ホワイトカラー系業務などに対してリモートワークを導入している企業は約8割であった。

Beforeコロナの頃からリモートワークに関する議論はもちろんあったものの、実際は様子見をしている企業も多く、あくまで働き方改革の一環として「推奨」というニュアンスに留まっていた。
だが、現状下でそれは「原則」に変わった。オフィスは閉鎖、出社時は上長承認が必須、どうしても出社しなければならない社員には手当を支給、といった例も珍しくない。

世の中に数多ある施策と同様、リモートワークにも当然メリット・デメリットの両方が存在する。
メリットとしては通勤負担のゼロ化や生産性の向上、デメリットとしては自己管理やコミュニケーションの難しさ等が挙げられる。
従前は、このデメリットに着目して導入に二の足を踏んでいるケースも散見された。
しかし、四の五の言わず導入するより他なくなった今、実際にやってみると「案外何とかなる」と思っている方も多いのではないだろうか。

With / Afterコロナの時代に、このリモートワーク化の流れが止まることはもうないだろう。
固定電話が携帯電話やスマートフォンに、手紙やFAXがメールやチャットに、手帳がオンラインカレンダーに変わったように、一度「案外何とかなる」と思ったものは、なかなか元には戻らないからである。

リモートワーク下での働き方について、多くの役員・管理職・非管理職の方々のお話を伺って再認識したことがある。
それは、リモートワークの下では、「仕事をしている人」と「あまりしていない人」が残酷なまでに明確化されるということである。

従前であれば、

  • 通勤地獄を潜り抜けて出社する
  • 机に座る
  • 上司の言い付けをそのまま実行する
  • 部下の様子を眺める
  • ミーティングに出席する
  • 時折雑談をする
  • そのまま終業時間まで過ごす、残業して努力している姿を見せる

ことで、仕事らしきものが成立していた。
換言すると、会社に“居る”ことが価値になっていた。

しかし、リモートワーク下では、状況が全く異なる。

  • 通勤地獄自体がない
  • 座る机は自宅もしくはシェアオフィス
  • 業務上の指示がなければやることがない
  • 部下の様子を眺められない
  • 成果物の叩き台を作り、主体的にファシリテーションしなければ、ミーティングが前に進まない
  • 下らない雑談ができない
  • 会社で多くの時間を過ごしたという努力を見せることができない

つまり、従前の仕事らしきものは残念ながら成立せず、主体的に自分の価値を周囲に認めさせるような行動が必要である。
換言すると、会社に“居る”だけでなく、“要る”ことを自ら証明しなければならない。

With / Afterコロナの時代、どの企業も生き残りに必死である。
これまで揶揄しながらも見て見ぬふりをしていた、例えばWindows1000 / 2000(窓際族なのに年収1,000 / 2,000万円)といった人材は、もはや抱えられない。
努力主義から職務・成果主義、Pay for time / Place(同じ場所で働く時間の長さに対して報いる)からPay for Job / Performance(職務・成果の良し悪しに対して報いる)への移行がより一層進む。
雇用環境は売り手市場から買い手市場に移行し、正規のみならず非正規やフリーランスの活用も増えていく。
そのような中、“居る”人材はどうしても淘汰されざるを得ない。
(なお、“居る”人材になってしまったのは、必ずしも本人の責任ではなく人材市場や会社の構造による部分も大きいと思われるが、ここでその議論には立ち入らない)

一方で“要る”人材、例えば

  • 問題が希少で解決策が過剰という環境下で、自ら問題を定義できる人材
  • 問題を定義したから後は良きに計らえではなく、具体的な解決策に落とし込める人材
  • 対面のみならず、一度も会ったことがない人や目の前にいない人とも信頼関係を築き、動かせる人材

は、他社からの引き合いが絶えず、今の会社に所属し続ける意味を考え始める。
選ばれる会社でなければ、優秀人材の流出が進み、採用もおぼつかなくなる。
“要る”人材から“要る”と思われる会社たりうるためには、経営哲学や仕事、風土、処遇に至るまで、抜本的な見直しが求められる場合もあるだろう。

“居る”人材と“要る”人材。
“居る”会社”と“要る”会社。

大変な時代だと思う。
しかし、「今、ここで、自分に何が出来るか」を考えるしかない。
“要る”人であり続けるために日々研鑽を重ねるとともに、“要る”会社であり続けるために何が出来るか、クライアントの皆様とともに考えていきたいと思っている。

著者
河本 裕也

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