性別による職域分離の度合いを測る
26 2月 2020
政府は「2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする」という目標を掲げている。職場での指導的地位に占める女性の割合、つまり女性管理職比率の現状は図1の通りで、国際的にみると日本の水準は低い。経済産業省と東京証券取引所は女性活躍推進に優れた上場企業を「なでしこ銘柄」として選定している。女性活躍の度合いは企業評価指標のひとつとして定着しつつある。
図1. 女性管理職比率と就業者に占める女性の割合の国際比較
資料 ILOSTAT(http://www.ilo.org/ilostat/)2020年2月
4R配属が本質的な女性活躍を妨げる
「4R配属」という言葉を耳にしたことのある方も多いのではないだろうか。4Rとは、人事(HR)、広告宣伝(PR)、経理財務(IR)、お客様相談室(CR)と英語名にすると「R」が付く、女性が配属されやすいと言われる部門を指す言葉である。4R部門は女性比率が高く、管理職においても女性登用が進んでいるケースが多い。よって、数字上は女性活躍推進に貢献しているようにみえる。
しかし、これらの部門への女性配属自体が、女性が集まる多様性の少ない環境にキャリアを閉じ込め、幅広い知識や経験を得る機会を奪ってしまうことで、長期的には上級管理職へのステップアップを阻んでいるのではないか、と言われている。つまり、特定の部門への偏った女性配属が、本質的な女性活躍を妨げるおそれがある、ということである。
部門(職種)ごとの女性比率の偏り(職域分離)の実態
実際に、部門(職種)ごとの女性配置の現状をみてみよう。図2は2014年から2018年にマーサーの総報酬サーベイに参加した企業の職種ごとの女性比率と女性管理職比率である。ただし、人数が一定数に満たない企業と職種は集計から除いた。集計の対象とした1044社のうち877社(84%)は外資系企業である。ここでは、職種を部門として捉え、部門ごとの女性配置の偏りを比較する。
図2. 職種ごとの女性比率と女性管理職比率
図2の職種名を典型的な部門名と紐づけると、4R部門の中では特に広報系と財務・会計系の女性比率が高いことがわかる。特に、広報系は女性管理職比率も突出している。一方、女性比率が最も低い職種はIT系で、広報系との差は約35ポイントもある。このグラフから個別企業の状態を知ることはできないが、サーベイ参加企業の全体として、部門における女性配置には偏りがあり、職域の分離が発生しているといえる。
本質的な女性活躍推進を測る新たな指標 職域分離度
見せかけだけではない本質的な女性活躍を推進するためには、企業単位の女性比率や女性管理職比率を見るだけは不十分ではないだろうか。本コラムでは新たな指標として“職域分離度”を紹介したい。
大湾(2017)は職務配置(職種・部署)の偏りが部長相当職以上への昇進を妨げるおそれがあることを指摘している。よって、女性管理職比率を長期にわたる取り組みの結果指標とみなしたとき、職域分離の度合いは女性管理職比率を高めることに関連するプロセス指標として、一定の役割を果たすものと考えられる。
職域分離度
=性別による部門配属の偏り度合いを示す。値が大きいほど分離の度合いが高く、性別によって職域に偏りがあることになる。
職域分離度の算出方法
図2と同様に、自社の部門(職種)ごとの女性比率を見れば、職域分離が生じているか確認できる。ところが、昨年と今年のどちらの方が分離の度合いが大きいのか、各年の職種ごとの比率を見て判定するのは難しい。職種Aと職種Bの女性比率の差は縮まったが、職種Aと職種Cの差は広がった、ということが起きるため、企業内の分離度をひとつの数値で表したい。分離度の指標があれば、昨年と今年を比較できるようになる。
そこで、本コラムではダンカン指数を用いて、職域分離度を表すことにする。以下に職域分離指数の計算例を示す。なお、この例は堀(2003)を参考に作成した。
表1. 男女それぞれの職種別人数比率
職種A | 職種B | 職種C | 職種D | 職種計 | |
---|---|---|---|---|---|
男性 | 40% | 30% | 20% | 10% | 100% |
女性 | 20% | 30% | 25% | 25% | 100% |
職種A | | 40 - 20 | = 20 |
職種B | | 30 - 30 | = 0 |
職種C | | 20 - 25 | = 5 |
職種D | | 10 - 25 | = 15 |
(20 + 0 + 5 + 15) × 0.5 = 20
まず、表1を作成する。表1は男女それぞれの職種別人数比率である。例えば、男性のうち40%が職種A、30%が職種Bなどと記入する。全職種を合計すると、男女それぞれ100%になる。表1は男女の人数比とは無関係で、男性のうち何%、女性のうち何%がどの職種なのかを見ている。次に、職種ごとに比率の男女差の絶対値を求め、合計した後に0.5を掛けると職域分離指数が計算できる。表1の例では、職域分離度指数は20となる。職域分離度指数は0から100までの値をとり、値が大きいほど分離度が高い。
業種ごとの職域分離度
2014年から2018年の総報酬サーベイデータを用いて、職域分離度(性別による部門配属の偏り度合い)について分析を行う。図3は職域分離指数の分布を表す。職域分離指数を横軸に、企業数の割合を縦軸にとる。サーベイ参加企業の半数程度は指数が23から45までの間に位置している。職域分離指数の業種別平均値を図4に示す。指数の平均値が最も低い業種は「卸売・小売」で、最も高い業種は「化学」である。図4からは、女性比率が低い業種ほど、分離指数が高い傾向を読み取れる。
図3. 職域分離指数の分布
図4. 業種ごとの職域分離指数と女性比率・女性管理職比率の平均値
貴社の職域分離度は業種平均と比較してどのような状況だろうか?
もし、貴社の女性比率が業種平均並みかそれ以上であっても、職域分離指数が業種平均より高い場合、貴社の女性活躍は特定部門に偏ったものになっている可能性がある。女性比率と職域分離指数について、貴社の実態と業種平均とを比較することで、女性活躍推進の取組みを見直すきっかけのひとつとなれば幸いである。
参考文献
大湾秀雄(2017)「働き方改革と女性活躍支援における課題 - 人事経済学の視点から - 」『独立行政法人経
済研究所』No. 17.
堀春彦(2003)「雇用環境の変化と女性労働の実態 - 女性雇用の実態」『女性雇用政策の現状と課題』.