デジタル化とは何か?
23 2月 2018
ここ数年、ビジネス関連の雑誌・書籍において"デジタル"というキーワードで特集が組まれていたり、コンサルティングの現場においても"デジタル"というテーマ設定のもとで様々な検討がなされている。
初めて"デジタル"という言葉を聞いた時には以下のような疑問がでてきたのだが、同じような疑問を持たれている方は多いのではないかと思う。
「デジタル化とはそもそもなんなのであろうか?」
「従来のシステム化とは具体的に何が違うのであろうか?」
本コラムでは、私なりの解釈を交えて、"デジタル化"やその影響について概説していきたい。
デジタル化とは?
先月、マーサーが例年HR領域のナレッジパートナーとして参加している世界経済フィーラムの2018年年次総会(通称:ダボス会議)が開催され、経済、政治、学究等、各界のリーダー達によって、世界・地域・産業の課題について様々な議論がなされた。
昨今、"デジタル"というキーワードが社会・ビジネスを変革するドライバーとしてさまざまな領域で議論されているが、技術革新による社会構造の変化という観点から、第四次産業革命という言い方もされ、本会議の中でも、大きなトピックス・イシューとして議論されている。
ダボス会議の中で出ていた発言の代表的なものとしては、
「今、生まれた子どもはきっと免許を取る必要はない」 ダラ・コスロシャヒ氏(Uber Technologies Inc. CEO)
「AIは電力などより重要」 サンダー・ピチャイ氏(Google CEO)
など、小市民である筆者の立場からすると、若干空想めいた発言に聞こえるが、技術は飛躍的に進歩しており、そのうちこのようなことは絵空事ではなく、現実になっていくのであろうと思われる。
ここで具体的に"デジタル"とは何かについて例を挙げていきたい。
代表的なものとしては、ここ最近世間を騒がせている仮想通貨の基礎技術となるブロックチェーンに代表されるFinTech、AIに代表される制御をヒトに代替する技術、RPAに代表される動作をヒトに代替する技術など様々である。
また、上記の技術を支えるものが、従来は機械やコンピューターの性能であったが、それ以上に重要視されるものが、データであり、およそ人間が処理できないボリュームのデータを使い、従来であれば到底不可能であった制御やインサイトの発見につながっており、その点が従来発想できなかった変化の基礎になっていると思われる。
デジタル化による影響
上記の技術革新や現実社会への適用により、過去起こった産業革命と同様に、かなりのスピードで我々の社会を変容させつつある。
そして、このような技術発展に伴い、人事に関連して議論されていることとしては、素晴らしい進歩がもたらされる一方で、短期的には、大半の人を雇用などの面で不安にさらす可能性があるという点である。
2018年のダボス会議にて、カナダのトルドー首相は、
「新しい技術は個人的な生活には有益だが仕事には脅威を与える」
と述べており、マクロ視点で見ると、労働マーケットに対しては当然ながら大きな影響があることも考慮しておく必要がある。
具体的に労働マーケットのどの部分に影響があるのか?
世界経済フォーラムによる2016年のレポート「The Future of Jobs」では、AI・ロボティクスなどのテクノロジーの進化により、2020年までにアドミニストレーション系のバックオフィス部門や製造部門の雇用が大きく減少(約640万人分)し、マネジメントなど人間独自の経験・判断が必要となる職種の雇用が増加(約90万人分)するという予測が提示されている。
つまるところ、事務系ルーティンワークは、基本的には機械に置き換わり、創造性や交渉など、高いスキルが要求される職業・仕事が残っていくということである。
このことは、システム化が進展した第三次産業革命期(1990年代からのコンピューター・ICTによる自動化・効率化、インターネットの発展など)にも同様のことが言われていたと考えられるが、従来は作業がシステムに置き換わるために必要とされた期間(具体的にはシステムの構築・プログラムの開発)が大幅に短縮され、かつより柔軟な仕組み・ツールが提供されることで、より変化のスピードが速くなったと考えられる。
具体的に発生している事象
デジタル化の考え方や影響について簡単に説明をしてきたが、日本においても2016年に比較的分かりやすい形で変化を実感できる出来事がおこっている。
2016年4月に日本生命保険に入社された、「日生ロボ美」ちゃんである。
各種メディアでも報道されているのでご存知の方もいらっしゃると思うが、「日生ロボ美」ちゃんは外観はノートパソコンに非常に似通っており、現時点で入社2年目の若手社員である。
非常に優秀な社員で、従来の社員20人分の請求書インプット業務をこなすことができると言われており、集中力を切らすことなく、24時間365日勤務可能なタフ社員である。
働き方改革の旗印のもと、残業時間削減が経営課題として取り上げられ事がある昨今、労働時間を気にせず仕事をすることができ、かつ不満を持つことなく仕事をしてくれる「日生ロボ美」ちゃんは、社会トレンドも相まって、企業にとっては理想的な社員の姿と考えられる。
正確に言うと、「日生ロボ美」ちゃんは、RPAで、請求書インプット業務の自動化を記憶・学習している仕組みである。
ここで認識すべきことは、我々の身近なところでもテクノロジーの進化により、仕事が機械に置き換わっている事象が既に起こっているということである。
現段階では、完全に取って代わるには不足している要素があることは否めないものの、RPAにAIの要素が付加されることで、更に新技術の適用範囲が拡大することになり、ニンゲン社員よりも優秀な「日生ロボ美」ちゃんが登場することも、現実的に起こりうることだと思われる。
これからの人事が考えるべきこと
このような変化が起こりつつある中で、人事部門は何を考え、どう行動すべきか?
1点目は、新技術に対応可能な人材の確保である。
ここでの人材とは、自分たちのビジネス活動や業務に対し、AIなどの新技術をどう適用していくかを考えることができる人である。
つまり、「日生ロボ美」ちゃんに、
「何をさせると効果があるのか?」
また、
「その仕事をさせるためには、自分たちの仕事・役割をどう変えていく必要があるか?」
を考え実現していくことのできる人材である。
しかし、AIを使いこなせる人材については、国内外で需要が高まっており、AI関連のエンジニアは常に枯渇状態となっている。報酬相場もかなり高い水準になっており、アメリカ・シリコンバレーでは、それほどの経験が無い場合でも年収30万~50万ドルになっていると聞く。日本では、まだその水準にはなっていないものの、このような人材の獲得が企業にとって喫緊の課題になっていくことが想定される。
そして、2点目は、デジタル化が進展するにつれて、社員のポートフォリオが大きく変化していくことへの対応である。
従来はヒトが行っていた仕事を機械が行う。ヒトは何をすべきか?それをするためにはどのようなスキルが必要か?そのスキルはどのように獲得していけるのか?
これは人事部門だけが考えることではなく、ビジネス部門や社員本人が自分のこととして考えることでもあり、こうった思考を前向きに、かつ自律的に考えていけるような環境づくり、コミュニケーションが必要になってくると思われる。
かくいう、筆者も「日生ロボ美」ちゃんに淘汰されないよう、デジタル社会で生き残るために必要なスキルを獲得していかなくてはいけないと切に思う。