LGBT社員に向けた福利厚生制度について 

01 7月 2016

2015年11月に渋谷区が同性のパートナーシップに対する証明書の発行を開始したことはご存知の方も多いかと思う。また、ここ最近、「LGBT」という言葉を耳にする機会も多くなってきた。 企業のダイバーシティーに対する取り組み推進の一環として、今後、性的少数者(以下「LGBT」)社員に対する支援に目を向ける動きが進むと思われるので、その中でもとりわけ生活に直結する「同性婚」にまつわる福利厚生制度を中心にまとめてみた。

まず、前提となる公的制度について押えておきたい。 日本の公的な「婚姻」の定義は、両性の合意にのみ基づいて成立」(憲法第24条)とあり、婚姻の成立は「異性同士」であることが前提となっているので、「配偶者」は異性のみとなる。

「配偶者」になると、所得税で配偶者控除の対象となる他、法定相続人となることもできるので、税法上の恩恵を受けることができる。社会保険についても、法人に雇用されている者の配偶者であれば、健康保険や厚生年金は「被扶養配偶者」としてカバーされ、自営業者であっても国民年金の遺族基礎年金を受給することができる。

その際、社会保険では、「婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者」として内縁の配偶者を同様に扱っているが、届け出さえすれば「配偶者」となる状態を指すので、「異性」であることが前提である。したがって、現行の公的の婚姻制度においては、同性婚によって所得税の配偶者控除、相続、健康保険や厚生年金の被扶養者など、公的な恩恵は受けることができない。

一方、国が現行の制度を維持する中、自治体が同性のパートナーシップを認め、証明書を発行する動きが出てきた。現時点では法的な効力はないため、証明書があっても所得税や社会保険などの権利は得られないものの、冒頭で述べた東京都渋谷区を皮切りに、世田谷区、兵庫県宝塚市、三重県伊賀市、沖縄県那覇市がパートナーシップ条例によって証明書の発行を行っている。そのほか、横浜市も検討中となっている。

このような自治体の動きの他にも、複数の大手企業が、配偶者がいるときに適用する制度を、同性のパートナーがいる社員にも拡充するようになってきている。公表されているものを抜粋したのが、表1である。

(表1)

ゴールドマンサックス

内容
事実婚関係にあるパートナーを法的婚姻関係にある配偶者と同等の扱い(国民健康保険料補助、転勤時のパートナー転居費用、看護休暇など)
導入時期
-
 

日本IBM

内容
同性婚時の結婚祝い金支給(2012~)
弔慰金・パートナーの家族の介護休暇・転勤時の赴任旅費など(2016年1月~)
導入時期
2012年
 

日本マイクロソフト

内容
就業規則を改定、配偶者に関する記述を「配偶者またはパートナー」に変更。
結婚祝い金、弔慰金、慶弔休暇の適用
導入時期
2015年4月
 

第一生命

内容
結婚や出産時などの休暇許可、社宅貸与の基準について、同性パートナーを家族とみなして判定
導入時期
2015年11月
 

ソニー

内容
慶弔、育児・介護休暇、結婚祝い金、単身赴任の際の別居手当などを福利厚生の対象に
導入時期
2016年2月
 

パナソニック

内容
同性同士でも結婚に相当する関係を認める方針策定
導入時期
2016年4月
 

損保ジャパン日本興亜

内容
住宅手当、慶弔休暇、従業員弔慰金、介護・育児休業、福利厚生施設利用など、配偶者とみなして制度適用対象に
導入時期
2016年7月
 

 

上記表の導入時期を見ると、外資系企業が先陣を切り、自治体の動きをきっかけに日本大手企業が追って導入を始める流れとなっている。内容は、慶弔休暇、結婚祝い金、転勤時の補助など、法定外の制度がメインになっているが、中には育児・介護休業を認めたり、被扶養配偶者の国民健康保険料の補助をする企業もあるので、社員の多様性に沿った形で、民間企業としてできうる限り平等な処遇をしよう、という姿勢が見て取れる。

その他、企業の福利厚生制度と密接なかかわりがある保険についても、LGBTに配慮した取り組みが始まっている。生命保険の死亡保険受取人は、「原則として配偶者ならびに2親等以内の血族」としているところが多いが、同性のパートナーを保険金の受取人に指定することを可能にした保険会社が増えてきた。(表2)

各保険会社によって、認定や手続きの方法は異なるが、いずれも住民票やパートナーシップ証明などの書類提出や、所定の手続きをすることで、受取人の範囲を同性パートナーに拡大することを可能にしている。

(表2)

ライフネット生命
手続き内容
同居を証明する住民票やお互いの直筆書面など提出
アクサ生命
手続き内容
保険会社所定の手続き
日本生命
手続き内容
渋谷区の証明書提出
第一生命
手続き内容
渋谷区の証明書提出
アスモ少額短期保険
手続き内容
自治体の証明書あるいは保険会社所定の確認書提出
オリックス生命
手続き内容
渋谷区の証明書提出
ジブラルタ生命
手続き内容
自治体の証明書提出
プルデンシャル生命
手続き内容
住民票の提出と、保険会社所定の確認手続き
メットライフ生命
手続き内容
渋谷区の証明書提出
 

「LGBT」に対する施策は日本ではまだ始まったばかりで、また、にわかに脚光を浴びたようにも感じる。そのため制度を作っただけで終わるなど、この動きが一過性で忘れられることも懸念される。今後は、導入した企業においては、社員全体の理解や意識改革、該当社員が利用しやすい仕組み作りなど、制度を運用するための施策も必須である。まだ導入していない企業も、世の中の流れとしては何らかの「LGBT」施策の導入を求められることになろう。

そのような世の中の流れや、企業のニーズに応えるべく、我々コンサルタントもより多くの情報を提供し、より良い制度の導入のサポートをしていきたいと思っている。

(参考資料)
日本経済新聞
労政時報「LGBT社員の人事マネジメント」(第3892号/2015.7.24)
東洋経済オンライン「業界初、同性カップル向け死亡保険の中身」(2015.11.2)
日経ビジネスオンライン「あなたの仕事仲間にもLGBTは必ずいる」(2015.8.24)
Works「新たな人事課題との"つきあい"方」(2014.6)
著者
三条 裕紀子

    関連トピック

    関連インサイト