マイナス金利下の年金運用について 

12 5月 2016

国内株式の下落および円高の進行等、新年度に入り年金資産運用を取り巻く環境は、不安定さを拭えないままでの船出となりました。一方でマイナス金利下において国内債券の運用をどうすればよいのか、このまま投資し続けてよいのか、というのが昨年度に引き続いて年金のお客様の大きな検討課題となっています。

まず、日本国債の利回りをみると、日銀によるマイナス金利導入の発表以降、特に期間の長い債券の金利が急低下しており、3月末の時点では、指標となる10年国債までも金利がマイナスに落ち込んでいるという状況となっています(図A)。

 

こうした状況下、国内債券の長期的な期待リターンはその最終利回りで近似できることから、国内債券の魅力度は低下していることは否めず、国内債券代替商品への投資によって、収益上乗せを図ることが選択肢となってくると考えられます。

この場合、債券特性をある程度維持した商品という観点では、β戦略として内外クレジット商品などへの投資、α戦略として、アンコンストレインド債券運用あるいは絶対収益追求型債券運用といった、運用機関のスキルの活用を図るプロダクトが候補となるでしょう。

一方で、国内債券代替投資を考える上では、そもそも国内債券に投資する意義は何だったのか、マイナス金利になったことによってこうした意義が失われてしまったのかを確認しておく必要があります。この点について以下でみていきたいと思います。

1. リスクヘッジ効果

低金利環境では、投資家はハイリスクハイリターンの商品に過剰に投資する傾向にあり、その後金融市場にショックが生じて大きなダメージを被ってきた、というのがリーマンショック時のみならず、金融市場で繰り返されてきた歴史です。こうした時に、最も信用力の高い主体として政府が発行する国債などの債券は、安全資産としてポートフォリオ全体の下支えの機能を果たしてきました。

国内債券代替投資は、追加でのリスクテイクを行ってリターンの上乗せを図るということを意味し、多くの場合、株式市場下落の影響を増加させる可能性があります。今後金融市場にショックが生じた場合に、基本ポートフォリオ策定時の想定を大きく超えて脆弱性の高いポートフォリオとなっていないかという点については確認が必要でしょう。さらには年金の場合、負債に対するヘッジ機能というのも重要な役割です。

2. リターンの確保

国内債券の今後の値動きは、益々日銀の金融政策の動向およびその観測に左右される状況となるでしょう。今後マイナス金利政策がどうなるかについては予断を許しませんが、仮に追加でのマイナス金利拡大が行われた場合、従前の金利がゼロを下回らないという制約が外れるため、金利低下の余地が広がったとの見方をすることもできます。この場合、国内債券のリターンはマイナスとならないどころか、大きなプラスとなる可能性もあるということになります。

また、追加でのマイナス金利拡大が行われない場合であっても、イールドカーブが順イールドであれば、ローリング効果(償還が近づくにつれて利回りが低下し、債券が値上がりする効果)によって、マイナス金利の状況にあっても、リターンがプラスとなる可能性があります。

なお、債券市場について不確実性が高まっている一方、年金のお客様が自ら環境変化をとらえて機動的に動くことはなかなか困難なことから、国内債券のアクティブ運用を活用する余地は今後増加していくと思われます。

以上みてきたように国内債券の投資意義については、現在の限定的なマイナス幅であればその意義を完全には失っていないとの見方もできるのではないかと思います。マイナス金利というのは我が国で経験したことがなく、今後の金融政策の動向を含め極めて見通しにくくなっているのは事実です。ある程度状況が見えてきた段階で中長期的にどうするかを決定する、すなわち"wait and see"というのも一つの戦略と言えるのではないでしょうか。

著者
青木 大介
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