支度料と赴任・帰任手当 

16 May 2014

たまたま同じ音を持つ別の語ということで「同音異議語」という言葉がある。また同じ語のようで実は異なる意味をもつ語ということで「同綴異義語」または「同形異義語」があるが、実際、世の中には同じ言葉を使っていても実は異なる意味を持っていたり、異なる解釈をしたりすることがあるようだ。

例えば、旅行ツアーのパンフレットを見ていると飛行機の便の扱いで「ノンストップ便」、「直行便」という記載を目にすることがある。誰もが両方とも同じ意味で解釈するのではないであろうか。しかし、「ノンストップ便」は読んで字のごとく目的地までどこにも寄港せずに正にノンストップで飛ぶ便を示すのに対し、「直行便」は寄港地の有無に関わらず、同一便名で運航されるものを直行便と呼ぶのが一般的のようである。このため成田から香港へ行くのに途中、台北に寄港(経由)する便であっても直行便となる。

海外駐在員処遇に関する会話においても、似たような問題がときどき起きることがある。

例えば、会社が海外駐在員に対して支給している「支度料」、「支度金」、「赴任・帰任手当」、「設営手当」と呼ばれる手当の名称とその手当の支給目的の違いから、同じ手当の名称で会話をしていても齟齬をきたすことがある。

「支度料の金額はいくらか?」と聞かれてA社では50,000円程度と答え、B社では270,000円前後と答えたとする。A社では他社と比較して見劣りするので、手当の引き上げを検討するかも知れない。逆にB社では他社と比較して手厚いと考えて、手当の引き下げを検討するかも知れない。このようなやり取り、思いは近隣企業、同業他社や業界団体内での情報交換の場において、生じるところではないであろうか。つまり、同じ単語、表現、名称の手当であっても、その手当の支給目的により設定される手当の水準(金額)は前例のように全く異なる結果となって表れる。よって、このような手当の水準(金額)について他社と情報交換する際には、手当の名称で決めつけるのではなく、必ずその手当の支給目的など詳細を伝えたうえで話をする必要がある。

当社が定期的に実施している調査において支度料の金額を聞く場合には、「赴任・帰任に際して準備費用の実費弁済的に支給される手当」と注釈を付けて手当の名称によらず、その手当の支給目的に応じた正しい金額を把握するように努めている。

手当の支給目的を明確にし、各社で使われている手当の名称を見ていくと、「赴任・帰任に際して準備費用の実費弁済的に支給される手当」を支度料と言ったり、赴任・帰任手当と言ったりと同じ意味で異なる名称を使っている状況が見えてくる。会社によっては「支度料には任地着後の生活セットアップ費用も含む」と補足していることもある。現状では支度料を赴任時と帰任時にそれぞれ支給しているケースが多いようである。

処遇の手厚い会社では、赴任・帰任時の支度料とは別に赴任・帰任手当も支給するケースもある。このようなケースでの手当の支給目的としては、支度料を渡航前の準備費用(例:スーツケースの購入代など)として支給し、赴任・帰任手当は任地、本国に着いてからの生活セットアップ費用として支給しているようである。

最後に、気になる支度料の支給水準であるが、これも各企業により家族の帯同状況別、役職・資格別、赴任期間別などの切り口で設定方法は異なっている。役職・資格、家族帯同状況を問わず海外駐在員本人一人当たりの支給水準を見ると、概ね200,000円~290,000円(=月例給与相当額)の範囲で設定されている。

海外駐在員データをみる際、または他社との情報交換の際の一助としていただきたいと思う。

著者
祝 敏秀

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