日本企業の要員計画を高度化する組織設計の視点
08 10月 2026
日本企業の人員構成は、管理職・専門職層の比率が相対的に高く、サポート層が薄い傾向が見られます。本稿では、市場データをもとに人員構成の特徴を捉え、質・量・単価を踏まえた要員計画と組織設計の視点を解説します。
日本企業の組織構造から見えてくる課題
人的資本経営やジョブ型人事制度への関心の高まりや労働力不足の深刻化を背景として、多くの企業で要員計画の重要性が改めて認識されている。
一方で、その実態を見ると、各部門からの増員要望を積み上げ、人事部門が全体の人員を調整する「ヘッドカウント管理」にとどまっているケースも少なくない。
本来、要員計画は単なる人数管理ではない。経営戦略の実行に向けて、どのような役割・スキルを持つ人材を、どの程度配置し、その結果として人件費がどう変動するのかを一体で捉える取り組みである。
言い換えれば、要員計画とは「質・量・単価」を統合的に捉えるべき経営テーマといえる。
しかし実際には、人材の「質」や「単価」まで踏み込んだ議論が十分に行われないまま、前年踏襲の人員調整が続いている企業も見られる。
こうした状況の中で、要員計画をより実効性の高いものへと見直すためには、まず自社の組織構造の特徴を客観的に捉えることが必要である。
本稿では、市場データを手がかりに、日本企業の人員構成の特徴を確認した上で、これからの要員計画に求められる視点を考えたい。
キャリアストリーム別に見た日本企業の人員構成
日本企業の人員構成の特徴を把握するため、主要8か国(日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、カナダ、中国、イタリア)の市場データをもとに、キャリアストリーム別の構成比率を確認した。
本分析では、マーサーが毎年実施している「総報酬サーベイ(TRS)」の各国データを集計・可視化したプラットフォーム「Workforce Insights(WFI)」のデータを基盤としている。なお、これらは参加企業ベースの市場データであり、各国企業全体の実態をそのまま表しているものではない点には留意が必要である。
また、本稿で用いる「キャリアストリーム」とは職責や役割の大分類(Management:管理職層、Professionals:専門職層、Para-professionals:定型実務・サポート層など)を指し、「キャリアレベル」とは各ストリーム内における職責・難易度の階層を指している。
図1・図2は、そのうち日本とアメリカのデータを抜粋したものである。
図1 日本におけるキャリアストリーム別の人員構成比率
*「MD」は市場データ、「YC」は自社データを表す。
図2 アメリカにおけるキャリアストリーム別の人員構成比率
*「MD」は市場データ、「YC」は自社データを表す。
この比較から、日本市場では、管理職層および専門職層の比率が相対的に高く、サポート層の比率が低い傾向がうかがえる。
- Management(管理職層):26.0%(8か国中第1位、アメリカは20.8%)
- Professionals(専門職層):57.8%(8か国中第1位、アメリカは40.5%)
- Para-professionals(サポート層):15.2%(8か国中最下位、アメリカは37.3%)
日本では、実務の中核を担う専門職層に加え、管理職層の構成比率も相対的に高い。一方で、定型実務やサポート業務を担う層の比率は、他国と比べて低い水準にある。
さらに、キャリアレベル別の詳細な内訳(図3)に目を向けると、日本市場特有の構造的な特徴がより明確になる。
図3 日本におけるキャリアスレベル別の人員構成比率
図3が示す通り、日本企業では管理職層(M1~M6)の比率に加え、専門職層(P1~P6)の中でも日系企業における主任クラス・管理職(Management)層の手前の水準にあたる「P3(シニアプロフェッショナル)」の層が厚い。
もっとも、この分布だけで直ちに背景や要因を特定できるわけではなく、実務上、将来の管理職候補として経験を積む層に加え、ポストの制約などにより上位ポストへの移行が進みにくい層が含まれている可能性も考えられる。
人員構成の背景と、要員計画上の論点
では、なぜ日本企業では管理職層やP3の層の比率が相対的に高くなりやすいのだろうか。
その背景の一つとして、長年にわたるメンバーシップ型雇用の運用が影響している可能性がある。年功的な処遇や横並びの昇格運用が続く中で、ポストや職務の違いを十分に反映しないまま、一定の年次や経験年数を踏まえて上位等級へ処遇する運用が残ってしまっているケースである。
その結果として、管理職比率が相対的に高くなり、その直前の層であるP3にも人員が厚く分布する構造につながっているのではないか。
もっとも、ここで論点にしたいのは、管理職比率や専門職比率の高さそのものではない。
問題は、各部署で求められる職務要件やポストが曖昧なまま運用されている点にある。その結果、高い報酬水準にある人材が、本来期待される意思決定や専門性の発揮に十分な時間やリソースを割けていない可能性がある。また、個人の保有能力や職務価値に応じた最適な人材配置が行われにくくなっていることも課題である。
要件定義が曖昧なまま人員が配置されている組織では、高単価な管理職やシニア層が、現場の定常業務や細かな調整業務を抱え込みやすい。結果として、組織全体が高コストになりやすく、生産性の観点でも課題を抱えやすくなる。
従来型の要員計画が人数の確保に偏り、現場で本当に必要な役割や職務価値、業務分担の設計にまで踏み込めていなかった場合、こうした構造上の課題を見落とすおそれがある。
要員計画を見直す上では、単に「何人足りないか」を問うのではなく、どの役割にどの水準の職責を持つ人材が必要なのか、またその周辺業務を誰が担うべきかまで含めて設計することが重要である。
要員計画を高度化するための視点:職務価値の可視化と役割設計
こうした構造的な課題に対応するためには、要員計画を「人数の確保」にとどめず、職務価値も踏まえた配置設計へと見直す必要がある。
その際に重要になるのが、個人ではなく職務そのものの価値を見極める視点である。
例えば、各ポストに求められる役割、責任、影響度、難易度を整理し、どの職務にどの程度の期待が置かれているのかを明確にすることで、必要なポスト数や人材要件をより論理的に検討しやすくなる。
近年では、こうした考え方を踏まえて、職務評価を起点に組織設計や報酬体系の見直しを進める企業も見られる。例えば、東洋合成工業株式会社の事例^1 でも、職務をベースに人事制度を見直す取り組みが紹介されている。
こうした検討では、職務の価値を一定の観点で整理し、ポスト間の相対的な位置づけを可視化する手法が有効になる。マーサーでは、その一例として、 IPE(International Position Evaluation) を用いることがある。
IPEの活用により、職務の価値を役割・責任・影響度・難易度などの観点から整理することで、組織内のポストの相対的な位置づけを可視化しやすくなる。
このようなアプローチを通じて、どの役割にどの程度の職責が求められるのかが明確になると、必要な管理職ポストの数や専門職の要件をより客観的に見極めやすくなる。
結果として、現場の感覚的な増員要求に合わせるのではなく、事業の実行に必要なポジションの数と質を、一定のロジックに基づいて検討できるようになる。
データに基づいて、自社の「現在地」を捉え直す
これまで見てきたように、要員計画を実効性のあるものにするには、属人的な判断や前年踏襲による場当たり的な人員調整から脱却し、自社の組織構造の「現在地」を客観的なデータで把握することが重要である。
例えば、マーサーの Workforce Insights を活用すれば、自社のキャリアストリーム構成や管理職比率を可視化し、国内外の市場ベンチマークと比較しながら、自社の組織構造の特徴を把握しやすくなる。
また、総報酬サーベイ(TRS) などの市場報酬データと組み合わせることで、「どの職種・等級に、どの程度の人員を配置した場合に、人件費がどのように変動するか」といった観点もあわせて検討しやすくなる。
こうした外部データを用いることで、要員計画は単なる人数管理ではなく、質・量・単価を連動させた経営判断へと近づいていく。
言い換えれば、要員計画は「人を何人置くか」を考えるものではなく、「事業成長を支える組織をどう設計するか」を考えるものへと変わっていく。
日本企業において要員計画の見直しが求められているのは、単に人手不足への対処のためだけではない。
限られた人材をどこに、どのように配置するかが、今後の競争力を左右する要素になりつつあるからである。特に、管理職やシニア層が担うべき役割と、サポート業務の分担が曖昧な企業ほど、要員計画の見直し余地は大きいと考えられる。
まずは、自社の人員構成を客観データで捉え直し、人数合わせの管理から脱していくこと。あわせて、管理職・専門職・サポート層の役割分担が事業の実態に照らして妥当かを確認することが重要である。
それが、要員計画を事業成長につながる取り組みへと変えていく第一歩になるのではないだろうか。