マーサーは、マーシュへ

母親ペナルティの背景に迫る -分析で原因を見極め、施策につなげる 

18 9月 2026

労働力の減少や人材の流動化などの影響で人材確保が難しくなる中、女性が出産後も働き続け、能力を発揮できる環境整備は、企業にとって重要性を増している。また、出産・育児を機に働き続けることが難しくなり、昇進に遅れが出たり、昇進をためらうケースが増えたりすると、将来の管理職候補や専門人材の厚みにも影響する。育児休業や短時間勤務などの制度は広がってきたが、復職後に昇進が遅れる、賃金が伸びにくくなるといった問題は依然として残りうる。

子どもを持つ女性の時間当たり賃金が、子どもを持たない女性より平均的に低い現象は、「母親ペナルティ(マザーフッド・ペナルティ)」と呼ばれる1

ただし、平均賃金に差があるという事実だけでは、どのような施策が必要かは分からない。賃金差の背景にはさまざまな原因がありえるため、自社における原因を特定することで、適切な施策を打つことができる。

本稿では、子どもを持つ女性と持たない女性の賃金差の原因仮説を整理した上で、統計分析によって主要因を見極め、有効な施策につなげる考え方を示す。

母親ペナルティを生む三つの原因仮説と施策案

子どもを持つ女性と持たない女性の間に観察される賃金差には、大きく三つの原因仮説が考えられる1

一つ目は、出産前から存在する属性(学歴や職種など)や志向の差である。例えば、家庭を重視する人は、相対的に子どもを持つことを選びやすいかもしれない。このような志向を持つ人は、管理職を目指しにくい可能性が高い。その結果、出産そのものが賃金に影響していなかったとしても、子どもを持つ女性と持たない女性の間に賃金差が生じうる。この場合、より高い役割や昇進に向けた意欲を引き出すことが施策として考えられる。

二つ目は、母親になった後に働き方の制約が変化する場合である。例えば、長時間勤務や急な顧客対応が成果につながる仕事では、時間に制約がある人は担当できる業務や役割が限られやすい。その結果、成果の総量だけでなく、時間当たりの成果や賃金にも差が生じる可能性がある。母親になったことで能力が下がるわけではない。ただ、長時間勤務や突発的な対応を前提とした仕事では、育児による時間制約が生産性に影響しうる。そのため、業務の属人性を減らし、情報や顧客対応をチームで共有するなど、制約下であっても成果を出せるように仕事の設計を変える必要がある。

三つ目は、職場のバイアスによって処遇が変わる場合である。例えば、「母親は仕事への意欲や能力が低い」と決めつけ、評価や処遇で不利に扱われる可能性がある。一方で、「子どもがいるから負担の大きい仕事は望まないだろう」と、本人の意向を確認しないまま重要な仕事や昇進機会から外す場合もある。いずれの場合も、本人の意向や実際の成果によらず仕事の機会を狭めたり、評価や処遇を不当に低くしたりすれば、経験の蓄積やその後の賃金上昇を妨げる。このようなバイアスがあるならば、配置・評価・昇進のプロセスを点検するとともに、評価者への研修を行うことが有効である。

原因が異なれば、企業が打つべき施策も異なる。他社で効果のあった施策であっても、自社で生じている賃金差の原因と合わなければ、同じ効果が得られるとは限らない。自社における主要因を見極め、それに合った施策を選ぶ必要がある。

表1:原因仮説別に見た賃金差の仕組みと施策の例

原因仮説 賃金差が生じる仕組み 考えられる施策の例
出産前から存在する差 属性、志向などに出産前から差がある 高い役割や昇進への意欲を引き出す
働き方の制約の変化 時間制約によって担当業務や役割が変わる 仕事の設計を見直す(属人性の低減、情報共有)
職場の
バイアス
先入観や過度な配慮によって、
成果にかかわらず機会や処遇が低下する
配置・評価・昇進のプロセスを点検し、評価者研修を行う

平均賃金の比較だけでは原因は分からない

三つの原因を見分けるには、子どもを持つ女性と持たない女性の平均賃金を比較するだけでは不十分である。出産前から存在する差をできる限り取り除き、その上で、母親になった後に生じた差の中身を確認する必要がある。

まず、年齢、勤続年数、学歴、職歴、職種などの条件を統計的に揃え、子どもを持つ女性と持たない女性の賃金を比較する。これにより、出産前からの条件が同じような人同士で比べたときに、子どもの有無による賃金差がどの程度残るかを確認できる(図1参照)。

ただし、データで確認できる条件を揃えるだけでは、人事データでは把握しにくい本人の能力や志向などの違いが残る。そこで複数年のデータを使い、同じ人の出産前後を比較する分析手法もある。これにより、出産前から存在した個人差と、母親になった後に新たに生じた変化を、より丁寧に切り分けることができる。

次に、母親になった後に生じた差が、働き方の制約によるものか、職場のバイアスによるものかを見極める。 そのために、成果に関わる指標を確認する。それらの指標に変化がみられる場合は、働き方の制約が時間当たりの成果を通じて、賃金に影響した可能性がある。一方、評価、昇進、賃金の差がみられ、それが成果に関わる指標では説明しきれない場合は、職場のバイアスが影響している可能性も考えられる。

このように、出産前から存在する差を切り分けた上で、母親になった後に生じた差が成果で説明できるのかを確認することで、賃金差の原因を絞り込み、優先すべき施策を判断できる。

図1:母親ペナルティの要因分解イメージ

現状把握から、適切な施策の実行へ

近年、人的資本に関する開示の義務化が進んでいる²。現状が可視化されることで、改善に向けた説明や対応を求める圧力は高まるだろう。ただ、前述の通り、結果的な現象を見るだけでは有効な施策は分からない。勘に頼った施策や他社事例への安易な追随は、人事や現場の負荷を高める一方で、期待した効果が得られない可能性がある。自社に蓄積された人事データを活用し、その課題がどこから生じているのかを見極めた上で、自社に合った施策を選ぶことが肝要である。また、データによる裏付けは、施策に対する納得感を高め、現場での実行を後押しすることにもつながる。資本市場や労働市場で選ばれるためには、データ活用を通じた施策の立案と実行が重要である。
1:Budig and England(2001)“The Wage Penalty for Motherhood,” American Sociological Review、Gough and Noonan(2013)“A Review of the Motherhood Wage Penalty in the United States,” Sociology Compass などを参照

2:内閣官房・金融庁・経済産業省「人的資本可視化指針(改訂版)」(2026年3月)などを参照
著者
上田 大世

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