グローバル化時代の海外派遣者処遇制度 

© 2017 Yiu Yu Hoi

10 10月 2019

専門商社で10年間勤めた友人が突然、ベトナムに移住した。聞くと、東南アジアを出張で回っている内にベトナムでの仕事や友人が増えたことで興味を持ち、現地に進出している日本企業に転職したのだという。

企業活動がグローバルに拡大するにつれて、私たちの働く場も全世界に広がっている。それを支える海外派遣者処遇制度のあり方も、海外拠点における事業運営のスタイルが進化するにつれて、多様化し始めている。

これまでの日本企業の海外派遣者処遇制度は、日本人を、日本から海外拠点へ派遣し、いずれ日本に帰任させること、つまり本社のある日本が派遣の出発点であり帰着点でもあることを前提としてきた。したがって、報酬や福利厚生制度は、日本勤務時の水準をまずは“補償”した上で、海外勤務に伴う負担やニーズを加味した手当を“付加”する、という枠組みであることが多い。

しかし、海外事業の競争力をより強化する上で求められるのは、その市場や事業に精通した人材である。それは今日本の本社にいる社員とは限らないし、まして日本人とも限らない。異動のパターンも、日本と任地の往復ではなく、海外拠点間を転戦する方が合理的であるケースも増えてくるであろう。

こうした多国籍人材による海外拠点間の異動というケースに対しては、本国の制度や生活は制度上の前提としてもはや機能しづらい。派遣先での勤務を基準においた上で、任地での役割に応じて格付し、派遣対象地域の市場に合わせて報酬水準を設定するなどの新たな枠組みが必要となる。また、任地国内のみで働くローカルスタッフよりも報酬や福利厚生の水準を引き上げて制度上の魅力を高めるなど、さまざまな観点に目配せすることが求められる。

近年、若手の優秀人材を国籍問わず早期に選抜し、各地の海外事業の現場を異動させることで、中長期的な人材競争力を強化しようとする企業も増えている。これらの企業では、国内制度とも、現地制度とも、通常の海外派遣者処遇制度とも異なる新たな枠組みを適用して、優秀な人材の確保と定着を目指している。今後、海外事業を牽引できる人材の厚みを増していくためには、制度のバリエーションも広げていくことが不可欠となるだろう。

グローバル化時代の海外派遣者処遇制度は、派遣目的や事業特性、確保したい人材の特性などに応じて、柔軟な発想で枠組みを整備していくことが必要だ。日本から赴任し、日本へ帰任する日本人と、拠点間を異動する多国籍人材。いずれにしても明確なコンセプトと正しい情報を持ってそれぞれに適した仕組みを構築していきたい。

冒頭の友人は今、日本の本社から来た日本人としてではなく、東南アジア地域における業界内の専門家(で、たまたま日本人)としてベトナムで働いている。彼に相応しいのは、どんな制度だろうか。

著者
檜垣 沢男

    関連トピック

    関連インサイト