ライフシフトから考える老後の資産ポートフォリオ
20 12月 2021
『ライフシフト』とは副題の「人生100年時代」でも知られるリンダ・グラットン氏の著書である。氏は本著の中で「2007年に産まれた子供の約半数は100年以上生きる」と主張し、我々が人生100年時代をどう生きるべきか、様々な示唆を与えてくれている。日本でもベストセラーとなったので、読まれた方も多くいると思う。マーサー取締役執行役員の白井とHarvard Business Reviewで対談も行っているので、是非一度読んでいただければ幸いである。
Intangible asset(無形資産)の定義とその重要性
老後への備えというと、いわゆる「老後2千万円問題」でも注目を浴びたように、十分な貯蓄の用意というのが真っ先に頭に浮かぶが、グラットン氏は本著で、「Intangible asset(無形資産)」へ目を向けることの重要性を説いている。
このIntangible assetは本著の中では3つの項目に分けられている。
Productivity: 生産性。いわゆる働いて稼ぐ能力(スキルや信用など)
Vitality: 活力。心身ともに健康で活動し続けられる能力
Transformational: 変身資産。自己認知や多様な人的ネットワークなど。
いわば老後の生活を金融資産にのみ頼るのではなく、長く働き続けて就労キャッシュフローを得るためには、これらの無形資産への投資と活用が重要になる、ということだ。と、ここまではライフシフトをお読みになった方であれば皆知っていること。この応用編として、有形資産を加えた老後の資産ポートフォリオという考え方を試してみよう。
まず老後の有形資産として大まかにLiquid asset(流動性資産)とIlliquid asset(非流動性資産)に分類してみる。
Liquid asset: 有価証券、預金、等
Illiquid asset: 社会保障(公的年金、医療)、退職金、保険、不動産、周囲からの支援、等
こうしてみると、老後への向き合い方では、上記の5つの資産クラスのどれに振り分けるのかを考える、老後資産ポートフォリオの構築とも捉えられる。例えば、以下のようにトータル30を振り分けるパターンである。
FIRE | 普通モデル | 生涯現役モデル | |
Productivity | 3 | 6 | 8 |
Vitality | 6 | 6 | 7 |
Transformational | 1 | 6 | 7 |
Liquid asset | 10 | 6 | 2 |
Illiquid asset | 10 | 6 | 6 |
30 | 30 | 30 |
5分類による資産ポートフォリオの構築
一方、資産ポートフォリオの構築では、いくつか考えるべき特徴が挙げられる。
Intangible assetは明確な減衰性が存在する: 特にVitalityは衰えることを前提にポートフォリオを考える必要がある
Intangible assetは高リスク: スキルや健康などは短期間で損なわれる可能性があり、「生涯現役モデル」のようにこちらに高めに振る場合は、流動資産への振りが低いことも相まって、適切な保険なりをかける必要が生じる
Intangible assetは相続不可: 2の通り、健康が悪化して亡くなった場合は、Intangible assetは全て失われる
各アセットクラスにはある程度の相関が存在する: 例えば内燃機関関連のキャリアを積んだ人にとっては、EV(電気自動車)関連株とProductivityの間には負の相関が認められるかもしれない。ということは双方に振り分けることでヘッジ機能が期待できる
特にIlliquid assetは他の資産クラスを比較して「固い」: ゆえに、ある程度のIlliquid assetを持つ場合は、他でリスクを取りやすい(例えば、経済的に余裕のある家族がいる場合は、リスクの高い選択を選びやすい)
これ以外にも様々な特徴があるだろう。各資産に相関があるということはポートフォリオ理論に基づき、効率的フロンティアを構築できるのかもしれない。そこを詰めて考えるよりも、老後資産全体のポートフォリオを見た上で、投資行動を考えることが肝要といえる。例えば、退職金の原資となる確定拠出型(DC)の企業年金制度であるが、よく投資教育などで分散投資の重要性を耳にしたことがあるかも知れない。DCの残高という比較的狭い世界の中で分散を考えるよりも、老後資産全体のポートフォリオの中での分散を考えれば、他の資産クラスが比較的固いということも鑑みると、リスク資産に全振りするのも合理的ではないだろうか。DCの資産運用には税制メリットもあることと併せて鑑みるとなおさらだ。
2021年12月14日現在、年の瀬に「人生100年時代」における個々の資産形成について、あるいは組織として働き続ける従業員と共に成長するために何ができるか、本コラムで考えるきっかけになれば幸いである。