確定拠出年金制度(DCプラン)進化への道のり 

14 3月 2019



日本では、少子高齢化に伴う公的年金財政の悪化、バブル崩壊後の経済環境の悪化による企業年金財政の悪化(2000年の退職給付会計の導入による財務面での財務戦略上の課題)、雇用の流動化・多様化への対応の必要性(人事制度面の課題)といった社会状況を背景に、2001年に確定拠出年金法が施行され、公的年金の上乗せとして、退職後の生活資金に備える私的年金制度として同じく2001年に確定拠出年金制度(DC プラン)の運用が開始されました。

その後、2012年末に第二次安倍政権が誕生し、日本再興戦略が策定される中で、国の成長戦略の一環として、「金融・資本市場の活性化、公的・準公的資金の運用等」におけるアクションプランとして、年金制度改革が行われました。DCプランに関しては、2017年から段階的に施行されていた「確定拠出年金法等の一部を改正する法律」が、2018年5月に全面的に施行されるに至っています。

しかしながら、日本においては、DCプランが、公的年金を補完し、退職後の十分な所得を確保するための主要な年金制度にはなっていません。今回のコラムでは、3回シリーズで、今後、DCプランが、意味のある制度となっていくためには何が必要かということについて、第1回は、国の政策からの観点、第2回は民間企業(経営、実務担当者)からの観点、第3回は制度加入者の観点から、DCプランを日本より20年先に導入している米国の事例を参考にしながら考えてみたいと思います。

2016年現在
  日本 米国
総人口 1億2,690万人 3億2,300万人
国内総生産(GDP) 539兆円 18.7兆ドル
     
確定給付年金(DBプラン)    
資産残高 70兆円 2.9兆ドル
年金資産 対GDP比(%) 13.0% 15.5%
 
加入者数 965万人 1,387万人
 
確定拠出年金(DCプラン)    
制度開始年 2001年 1981年
資産残高 11.8兆円 5.69兆ドル
年金資産 対GDP比(%) 2.2% 30.4%
加入者数 634万人 8,000万人
年間拠出限度額(2019年現在) 66万円 19,000ドル
確定拠出年金税制    
拠出時 非課税 非課税
運用時 非課税(注) 非課税
給付時 非課税 非課税

出所:厚生労働省、総務省、内閣府、Department of Lbour, Private Pension Plan Bulletin Analysis

(注)年金資産に課税される特別法人税は、1999年度以降課税凍結となっています。

 

米国では、DCプランは、1981年に実質的に制度の運用が開始あされています。制度開始当時は、DBプランが年金制度の柱であり、また、DCプランが開始された当初は、加入者が投資する運用商品も銀行預貯金が多くを占めていました。制度開始後40年弱を経た現在、右図が示す通り、制度の資産規模をみると、米国の私的年金制度としては、DCプランが主軸となっています。では、どのような過程を経て、現在の状況に至っているかをみてみましょう。

米国では、1981年に制度の運用が開始された後、レーガン政権(1983年)、クリントン政権(1994年)、ブッシュ(子)(2006年)政権で大きな年金改革が行われました。レーガン政権では、公的年金の支給開始年齢が65歳から67歳に引上げられ、老後の備えに自助努力が必要であるという意識を高める契機となりました。また、クリントン政権では、現行の社会保障制度の一環として公的保有型個人年金口座(DCプラン)が創設され、クリントン政権時代にDCプランが広く普及することになりました。また、同政権下では、長期的な視点にたった年金財政の収入拡充のため、年金受け取りへの課税が強化されました。ブッシュ(子)政権では、DBプランの健全性(積立)の強化と、DCプランの近代化を柱に改革が行われ、DCプランに関しては、拠出掛金の上限額引上げ(実質的減税)、制度への自動加入、ディフォルト商品の見直し、ディフォルト商品設定に伴う事業主の受託者責任について等が法制化されました。

米国の事例をみると、年金制度の柱がDBプランからDCプランに移行され、DCプランの資産残高がDBプランの倍以上になるまでに成長した背景には、DCプラン加入対象者の拡大、及び法制(とりわけ税制)改革が挙げられます。また、法制改革においては、退職後の所得確保のため、個人の自助努力を促進するだけでなく、個人金融資産が米国の経済成長を支える成長マネーに向かう循環を確立するという事も視野にいれて改革がなされています。この意味では、年金改革は成長戦略の1つと言えます。

日本のおける今回の年金改革では、様々な改革が行われました。しかし、DCプランに関しては、最も重要かつ必要とされる点に手がつけられませんでした。それは、拠出掛金限度額の引き上げです。政府が拠出限度額引き上げに積極的でない根本的な理由には、拠出・運用・給付という入口と出口の両方で非課税という優遇税制があり、このような状況で拠出限度額を引き上げると税収減につながるという財政当局の抵抗があるといわれています。拠出限度額が低めに抑えられていることにより、企業はDCプラン以外の退職給付制度を併用せざるをえず、DCプランが米国のように退職後の所得に備えることを可能にする年金制度という水準にまで進化しているという状況にないというのが現状です。国の政策という観点からは、国の成長戦略を促進するため、個々人の退職後に備えた資産形成を促進するため、バランスのとれた包括的税制改革を行うことが急務と言えます。

著者
秋和 由佳

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