人生100年時代、定年なき世界における退職給付制度
26 2月 2019
現在、政府の諮問機関である未来投資会議において、70歳までの雇用確保要請の法制化が検討されている。高齢者の多様なニーズに応じモチベーション高く活用していかなければという近い将来の必要性は分かりつつも、人件費や役割設定などの問題から、定年延長か再雇用か、それをどういうスケジュールで実施していくかにつき悩んでいる企業も多い。
いわゆる「人生100年時代」、今後ますます長寿化が続いていくと予想されている中、将来的には70歳を超えて更に雇用確保を求められる事も考えられる。そうなると、例え非正規であっても同一労働・同一賃金の導入により正規社員との経済的な差異がなくなっていく今、実質的には定年の廃止と同じと考えてもよいだろう。
定年がない世界においては、従業員が自身の状況に応じて自主的に引退時期を決定していくことになる。この引退時期を決めるにあたってのファクターとして、健康状態や仕事への対応力ももちろんだが、財産、つまりは引退後の経済的な安心感があるかが大きい。企業としても、ある程度の年齢で従業員に引退するよう促していくことが、健全な新陳代謝のうえで必要となる。ここで重要になってくるのが、企業の退職給付制度である。
定年がない米国において広く採用されている401(k)制度では、従業員が拠出した場合にのみ、会社が追加拠出(マッチング拠出)をする仕組みがとられている。従業員拠出に対して同額を追加拠出する会社もめずらしくない。これはまさに、従業員に財産形成へのインセンティブを与えることで、自主的な引退を促すことを意図したものといえる。
日本においても確定拠出年金(DC)制度で従業員拠出は認められており、その拠出額が所得控除されるため、税制上有利な形で財産形成できる。ただし、あくまで会社の拠出ありきで、従業員拠出はその範囲内に限られており、かつ、DCの総拠出額の上限も米国と比較するとかなり低いため、従業員の引退後の財産形成促進効果は米国と比較して限定的といえる。一方、確定給付企業年金(DB)制度においても従業員拠出は認められるが、拠出額は生命保険料控除となり節税効果は限定的であり、さらにDC制度と組み合わせた場合、DCの総拠出額は半分となってしまう。
そこで注目したいのが退職一時金制度である。退職一時金制度はDC/DB制度といった企業年金制度と違い、自由度の高い設計ができる。例えばDC制度において従業員拠出をした従業員に対し、その従業員拠出額にパフォーマンスに応じた係数を乗じた額を退職一時金として積み増す、といった設計も可能である。また、DC制度と組み合わせても、DCの総拠出額はそのままとなる。定年がない世界での退職給付制度としては、DC制度の節税効果をフルで活かしつつ、人事施策上の意図を持って設計された退職一時金を組み合わせる、というのが有力な選択肢となるかもしれない。
このように、従業員の出口戦略としての退職給付制度を再検討したうえで、定年廃止を前提としたシミュレーションを実施してみるのはいかがだろうか。シミュレーションの結果、人員・人件費の推移が事業継続上折り合いがつかない場合は、雇用打ち切り年齢をパラメータとして、最適な解を見つけていく。冒頭の70歳までの雇用延長における対応策の検討の出発点としては有効だろう。