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AI時代のサクセッションとアセスメントー「後継者選び」から「経営チームデザイン」へー 

07 8月 2026

AI時代、企業の競争力を左右する要素の一つは、「答え」そのものよりも、「問い」を立てる経営チームの力である

AIが市場や競合の分析を行い、短時間で一定確度のある答えや選択肢を提示する時代になった。では、これから企業の競争力は何によって決まるのだろうか。

AIによる分析や表層的な解釈だけでは、企業間の差はつきにくくなる。むしろ問われることは、自社にとって本質的な問いは何か、どの前提を疑うべきか、何を変革し、何をあえて変えないのかという経営の意思である。

AI時代に企業の差を生むものは、本質的な問いを立て、進むべき方向を定め、それを実行へつなげる経営チームの力である。マーサーが企業のサクセッションやアセスメント支援の現場で見てきたことは、従来のように「優れた個人を選ぶ」発想だけでは、AI時代の経営課題に十分対応しにくい、という現実である。

理由は大きく2つある。第一に、AI時代に求められる経営の役割が高度化・複雑化し、従来の固定的な役割分担だけでは捉えきれなくなっている。テクノロジー、組織、人材などが絡み合う中で、あらゆる要素を一人の経営人材に過不足なく求めることは現実的ではなくなった。

第二に、環境変化が速く、「これが正解の役割設計」とすることが困難となっている。変化に応じて、役割分担や人材の組み合わせを見直し、迅速さと柔軟性を担保する必要がある。

だからこそ今後は、個の評価に加え、役割を分解・再構築し、強みや弱みの補完関係まで見据えて経営チーム全体をデザインする視点が一層重要になる。

こうした変化は、サクセッションやアセスメントの考え方にも及ぶ。問うべきは、「誰が次のCxO候補か」だけではない。変化し続ける経営アジェンダに対し、どのような知見、経験、視点、判断軸を持つメンバーを組み合わせるべきか。つまり、「誰を選ぶか」から「どのような経営チームをデザインするか」へと発想を転換する必要がある。

本稿でいう「経営チームデザイン」とは、AI時代の経営アジェンダに応じて、必要な役割分担と人材の組み合わせを構想し、継続的に見直していくことである。

AI時代には、「経営人材」の見極めに加えて、「経営チーム」のデザインがより重要になる

本稿でいう経営チームとは、CxO、事業責任者など、経営アジェンダの形成と実行を担う中核メンバーを指す。

チームで経営する重要性は以前から変わらない。しかし、AIが経営判断の材料づくりを担うようになったことで、経営チームに上程される提言の性質は変わる。

そのため、経営チームが問うべきは「答えが正しいか」だけではない。どの問いが立てられたのか。どの前提が置かれたのか。何が考慮され、何が見落とされているのか。AI時代の経営には、その背後にある問いや前提、解釈の偏り、実行上の障害を見抜く力が重要になる。

最終的な意思決定と説明責任は、引き続き経営チームが担う。ただし、その判断の質は、経営チームの内部だけで完結するものではない。現場や顧客の文脈、専門知見、リスク情報を適切に取り込み、組織として総合的に判断できる経営チームが、AI時代の競争力を左右する。

こうした環境では、経営チームの役割そのものも固定化されたものではなくなる。例えば、エンジニアを多く抱える企業では、人材戦略とAI活用をより一体的に設計する必要性が高まり、役割の再編を進める事例も見られる。メルカリでは2026年の体制変更として、人材・組織領域とAI領域を近接させ、両者を横断して推進できるよう経営の役割設計を見直した1

この事例は、役職の兼務そのものというより、旧来の役割分担を見直したうえで、AI時代の経営アジェンダに合わせて経営チームの役割設計と担う人材の配置を更新した例として捉えられる。これからは「誰がどのポストに就くか」に加えて、「どの役割をどう再定義し、誰が担い、経営チーム全体をどう設計するか」が競争力を左右する。

もっとも、役割を再定義するだけで十分というわけではない。重要なことは、個々人が持つ強みや判断・行動の傾向を見抜き、状況に応じて最適な組み合わせを見直せることである。

1メルカリ プレスリリース(2026/6/1)https://about.mercari.com/press/news/articles/20260601_chrocaio/

AI時代には、個人の能力に加えて、補完し合う経営チームの力が重要になる

こうした時代だからといって、戦略構想力、意思決定力、変革推進力、協働力、人材育成力といったコンピテンシーが不要になるわけではない。むしろ重要性は高まる。ただし、これらを一人の経営人材に過不足なく求める発想のままでは、後継者選定が難航しやすい。

AIが一定水準の答えを提示しやすくなるほど、経営に求められる力は、何を問うべきかを見極め、論点を設定し、組織を動かす力へと重心が移る。重要なことは、一人ひとりがどのような強みを持ち、それを経営チーム全体としてどう組み合わせるかである。ここでいう強みとは、経験やスキルだけではない。自社の事業文脈を踏まえて論点を再設定する力、異論を引き出して意思決定に反映する力、構想を実行につなげる力などである。

AI時代の経営人材要件を見直すとは、AIリテラシーを加えるだけでは足りない。構想を描く力、それを自らの言葉で語る力、実装する力、異論を引き出す力、不確実性の中でも意思決定する力などを見極め、それらを経営チーム全体としてどう補完し合うかを考えることである。

著者
吉川 悠人

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