増加する事業のカーブアウト(分離)・売却〜HR部門に求められる視座
04 11月 2022
コーポレートガバナンスが日本企業における売却を後押しする
わが国においては、日本の成長の長期低迷を背景として、2014年以降、企業の成長・発展、より具体的には業績と競争力の伸長の観点から、コーポレートガバナンスの整備を急いだ。特に、2020年に出された「事業再編ガイドライン」では、戦略レビュー・事業ポートフォリオレビューの重要性とその実践方法について、コーポレートガバナンスの観点から幅広く論じている。
これまで日本企業は、買収には意欲的でも、売却には総じて積極的でなかった。具体的には、上場企業が行った100億円以上のM&Aについて、データがとれる1996年から2021年での26年間をみると、売却件数合計は、買収件数合計の1/3程度に過ぎない。この点、国内M&Aも海外M&Aも違いはない。今後はコーポレートガバナンスの後押しによって売却が一段と活性化し、必要とする買い手による取得が進むものと考えられる。その時、買収に比べて不足している売却の経験値を上手に獲得することが、多くの日本企業にとってポイントとなる。
売却を高く、遅滞なく、手離れよく行えば「三方一両得」が実現
典型的な日本企業は、過去においては売却をネガティブに捉え、避けてきたと言えよう。しかし、本来あるべき道は、コア・ノンコアの判断をタイムリーに行い、ノンコアとなった事業を状態が良いうちに、さらには価値を高めて、円滑に売却することである。すなわち、売却は「高く、遅滞なく、手離れよく」行うところに大きな意義がある。また、こうすれば、売り手にも、買い手にも、その事業の従業員にもメリットのある「三方一両得」が実現し、日本の構造改革にも大いにプラスとなる。
売却を「高く、遅滞なく、手離れよく」行う最大のポイントは、ディールを始める前に準備を尽くし、終始売り手主導でディールを進めることである。具体的には、売却合意前の「交渉の視点」と、合意後の「実行の視点」を混同することなく、従業員の雇用関係と従業員関連の債務・制度・インフラについて、しっかりと見通しを持つ必要がある。売却の意思決定自体はコーポレートガバナンスの問題であるが、実際に「高く、遅滞なく、手離れ良く」売却するには、人事実務の研究が欠かせない。
ディールの裏と表である、買収・統合とカーブアウト(分離)・売却への習熟が企業の成長の要
また、これを具体的な売却に伴う有事の対応と呼ぶならば、実は先行して平時から対応しておくことがあり、こちらも大変重要である。子会社のこと、海外のことになると途端に分からない状態、あるいは自社独自のしがらみを多く抱えた状態から売却を行うには、より大きな工数とエネルギーをかけて準備しなければならないからである。
売却と買収は、ディールの裏と表である。売却の研究を深めれば、買収もさらに上達するだろう。企業がスピード感をもって、しなやかに成長するには、「買収・統合」と、「カーブアウト(分離)・売却」の両側に通じていることが欠かせない。
書籍『カーブアウト・事業売却の人事実務』(2022年10月発行、中央経済社)の詳細も併せてご確認ください。