待ったなしの事業改革(ビジネストランスフォーメーション) 

12 1月 2022

世界経済における日本経済のプレゼンス低下が叫ばれて久しい。事実、過去30年を振り返ると新興国のみならず、欧米諸国に比べても日本の経済成長率は低い。また、成長率だけでなく、各企業の稼ぐ力である利益率についても日本企業は欧米グローバル企業に比べて低いと言われている。

図1はGDP総額と、1994年~2019年までの増加額を示している。日本は世界第3位のGDPではあるものの、1994年以降の増加は他の欧米諸国と比べても決して高くない。

 

図1:主要国の実質GDP成⻑(1994‐2019) 

出典:https://unstats.un.org/unsd/snaama/Basic

 

図2は1人当たり名目GDP(2019年)上位40ヶ国・地域を示したグラフである。日本は40ヶ国中、33位に留まっている。

 

図2:1人当たり名目GDP(2019)上位40ヶ国・地域 

グローバルレベルで進むダイナミックな変化と業界再編

このような状況下で2020年、新型コロナウイルスのパンデミックが世界を襲った。結果として、グローバルレベルで急速なデジタル化が進んだ。また、脱炭素化の流れは不可避となり、様々な技術革新により業界を超えた再編が日々刻々と起こっている。このような世界レベルでの大きな変化に対応すべく、日本企業においても、事業ポートフォリオの見直しや、グループ内事業再編が行われ、事業売却・事業清算等も行われるようになった。

欧米のグローバル企業では、以前より、株主からの期待に応えるべく、事業の持続的な成長を目指し、常に事業ポートフォリオ、コア・ノンコアの峻別の検討を徹底して行い、企業買収・合併(M&A等)と同時に、既存事業の売却等を果断に行い、企業の変革の取り組みを実施してきた。

売却・リストラクチャリング・事業再編等に足踏みする日本企業が求められるマインドセット

一方で、これまで日本企業は、事業成長を目的とした企業の買収(M&A)に対しては積極的に実施してきたが、売却・リストラクチャリング・事業再編等に対しては、中長期的な視点かつ戦略的に取り組んでいなかったと捉えられるケースが散見される。そもそも事業の売却やリストラクチャリングについては、先陣・経営陣や、様々なステークホルダーへの関係性・気遣い・忖度から、「ネガティブ」なものとして受け止める傾向が強く見られた。とりわけ、もはや時代に合わないものの、「祖業の売却」となると意思決定がなかなかできないことがあるとも言われている。

結果として、日本企業においては、一部事業が利益を稼いだとしても、採算の悪い事業の業績が足を引っ張り、全体として利益・利益率が上がらないという悪循環が見られた。さらに、問題のある赤字事業の業績はますます悪化し、売却のタイミングを既に失い、もはや手の施しようのない状態になってから、リストラクチャリングや清算・撤退を実施することで、企業の財務に多大なダメージを与えるケースがあったのも事実である。

これは、日本という国家の視点で考えた場合でも非常に大きな損失である。事業売却を適切なタイミングと適切な価格で実施できるのであれば、少なくとも当該事業の社員の雇用は守られる。しかし、売却すらできず、清算・完全撤退するような状況になれば、社員とその家族の雇用にまで大きな影響を及ぼすことになる。

従い、事業売却は決してネガティブなものと捉えるべきではない。たとえ、ある企業にとっては、当該事業がノンコア事業と判断されたとしても、他の業界・企業においては、これからの自社の成長戦略に不可欠であり、さらに投資すべきコア事業と判断されるケースがあるのである。

事業を成長させるための事業売却・事業再編・人事ガバナンス

欧米グローバル企業では、事業買収(M&A)担当だけでなく、事業売却の専門部隊を有しているケースがある。事業売却により資金を得て、それをさらに戦略的事業に投資する、という一連のプロセスが作られているのだ。

グローバルレベルでの大きなダイナミックな変化、業界再編、また、環境をはじめとするESG経営がますます重要視される中で、日本企業がグローバル競争に打ち勝つためには、常に事業変革(ビジネストランスフォーメーション)をし続けることが肝要となる。つまり、中長期的な事業戦略に基づき、買収、事業統合、事業再編、事業売却、リストラクチャリング等を駆使し、事業を成長させる視点が求められている。

日本企業がややネガティブなものとして認識すると同時に、これまであまり積極的に実施してこなかった事業売却・事業再編・人事ガバナンスに焦点をあて、今年2月より4回シリーズのセミナー「ビジネストランスフォーメーション」を実施する。本セミナーにおいては、クライアント企業をお招きし、各社がどのような改革・取り組みを実施してこられたのかをご紹介していきたい。

著者
鈴木 康司

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