リモートワークを、Afterコロナを見据えた継続的な競争力向上に繋げるためには 

5月 18, 2020

コロナウィルス感染拡大防止の観点から、企業においてリモートワークの導入が進んでいる。長期化が想定されているコロナウィルスとの戦いの中で、我々はマネジメントを工夫し、各種制度、業務フローを見直し、ITインフラを増強しながら、それに順応してきている。一方で、いまだに対面が困難な場合における補完的な位置づけで、リモートワークを捉えている企業も多い印象を持つ。本コラムは、付加価値創出に向けたリモートワークの積極活用をテーマとする。

リモートワークは立ち止まって考えると特別なことではない。メリット・デメリットを単純化すると、人的リソースを選ぶ際の場所的制約がなくなり(どこで働いている人でも活用できる)スピード・柔軟性が向上する。一方、デイリーでの対面の接点がなくなり(同じ空間で働かなくなる)、コミュニケーションにおける情報が制限される(音声と顔の粗い画像だけになる)ということに過ぎない。その影響を、課題解決型、オペレーション型、総合処理型、と3つのチームの類型に応じて考察する。

課題解決型

最初に考察していきたいのは、課題解決型のチームである。企業における特命プロジェクトチームなどが該当する。多くの場合、業務の非定型度合いは高く、標準的な業務プロセスや作業フォーマット等は存在しない。メンバーは課題解決に必要な領域のスキルに習熟した者が選ばれ、個々の業務における自律性は極めて高い。マネージャーは、メンバー個々への細かな業務指示・支援は不要で、方向性の提示、全体の進捗管理、コーチ的な関与に基づく成果の最大化が主な役割になる。自身もプレイヤーとしての業務を担う場合も多い。

このようなチームはリモートワークに対する親和性が高い。よくリモートワークのデメリットとして挙げられる、「デイリーでの対面の接点」の必要性が低い。日頃接点が少ない中で動いているケースも多く、非言語情報に頼らずコミュニケーションすることにも慣れている。多くの現場において、ほとんど違和感なくリモートに移行しているのではないか。同時に、リモートワークのメリットも最大限に享受可能なのもこのタイプである。

まず、業務遂行のスピードを飛躍的に向上させることが可能である。移動が不要になったことで使用可能な時間が飛躍的に増え、よりアジャイルに会議等を行うことができる。さらに、チームを構成するメンバーの選定の幅が広がる。これまでは、無意識に物理的に集まれるメンバーを中核にチーム編成を考えるケースが多かったが、その必要はなくなる。言語的な障壁、時差の問題は残るが、グローバルで最適な人材でチームを構成することへのハードルも下がる。将来的には自動翻訳の進化により言語的な障壁はさらに下がり、雇用の多様化により企業の内外の区別も小さくなることが予想される。世界中、企業内外から最適な人材を選定し、チームを組む、という形になっていくだろう。もちろん、初期的な人間関係構築、雑談など偶発的なコミュニケーションを通じた創発等、一部出会うことで効果が高まる領域は対面の活用が有効だ。しかし、リモートワークを積極活用することで、スピード、アウトプットの両面で大きなメリットを得ることができる。

オペレーション型

次に考察していきたいのはオペレーション型チームである。給与計算業務など、シェアードサービスの対象となる業務が該当する。多くの場合、業務の定型化度合いが高く、標準的な業務プロセス、作業フォーマット等が整備されている。業務における習熟に必要な期間は短く、担当者は定められた手順に基づき業務を遂行し、その範囲外については適時判断を求める。マネージャーは、常に相談に乗れる状態を維持しながら、適時細かな指示・支援を行う。そのため、自身の担当業務を持たず、マネジメント専業となる場合が多い。

このような業務の場合、業務プロセス上の制約がボトルネックになり、リモートワークが難しいケースが多い。印鑑、紙での処理、セキュリティー等の問題が、場合によっては国のルールに基づき存在している。しかしながら、それらの制約が制度・ルール的に、技術的に解消された場合は、リモートワークとの相性は良い。業務は高度に定型化されており、担当者は業務に習熟しているため、恒常的な指示・支援は必要ない。事務的な内容を取り扱うため、コミュニケーションの情報が制限されることの影響も少ない。今回の危機を期に環境が整えばリモート化が進み得るだろう。

しかし、このようなケースでは、使用者側のコンプライアンスの問題(過重労働 等)と労働者側のフリーライド(サボリ 等)の問題がつきまといやすい。そのため、性悪説に立ち「同じ空間で監督することが必要」となりやすい。しかし、高度に定型化されている業務については、処理量や所要時間等を可視化できるものが多い。可視化した上で、事前に処理内容と時間を合意し、事後的にそれを確認するマネジメント、それを評価するルールにて、解決できるはずである。

リモートワークで享受できるメリットはコストである。オフィスに通うということを前提としなければ、雇用し得る人材の範囲は広がる。需給のバランスにおいて供給側を増やすことにより、調達コスト、人件費コストの双方で削減が可能になる。労働単価の安い国から調達する、ということも視野に入ってくる。もっとも、そもそも自社で持つべきか、人が担うべき業務なのかの検討対象になる業務でもある。なんらかの理由で社内に残っていたものも、今回の危機を期に制約がなくなりBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)がさらに加速する可能性もある。

総合処理型

最後に考察したいのは総合処理型のチームである。例えば、短期・中期の人員計画を担う、人事企画などが該当する。多くの場合、柔軟性が担保される範囲で一定の定められた業務プロセスや作業フォーマットが存在するが、担当者の判断等によって業務品質がある程度変わってくる。業務への習熟にそれなりの時間がかかることに加え、習熟度合のバラツキも発生しやすい。マネージャーは状況を見ながら任せる範囲を判断、難しい場合は細やかな指示・支援を行い、必要に応じて自分もプレイヤーの役割を担うことになる。

この形態のチームはリモートワークの適用にハードルを感じやすい。多くの日本企業が直面しているのはこのケースなのではないか。日本企業においては、「仕事」を定義しないことが主流であり、業務プロセスや作業フォーマットの形式知化がほとんどなされておらず、属人的に業務が遂行されているケースも多い。さらには、総合職・ローテーション育成、新卒採用といった伝統から、個々の習熟と自律にバラツキも大きい。それを、マネージャーが場当たり的に調整し、チームで補完している。このような状況では、リモートによるデイリーの接点の減少は大きなデメリットになる。今回の危機においてITインフラを整備し、現場のマネージャーの工夫でリモートワークを可能にしたとしても、この構造を変えない限りは、リモートワークは本質的には根付かず、特別な理由がある場合に活用することはあっても、元の仕事の仕方に戻っていく可能性が高い。結果、業務スピードの向上、人材確保・活用の地理的な範囲の拡大といったメリットも享受できず、企業の競争力を損ねることが懸念される。

業務プロセスや作業フォーマットの整備は、定型度合が高い業務と比較して限界がある。優先して、手を付けるべきは、個の自律と習熟を前提としない人材マネジメントの改革であろう。就社から就職、中途採用市場の拡大、キャリアの自律等のトレンドにも表れているように、個の自律と習熟を前提とした人材マネジメントは日本企業が直面する本質的な課題の一つである。リモートワークという武器を上手く活用し、競争力を高める上でも、根本では同じ課題に直面する。直面する危機に対処、乗り越え、その後さらに競争力を高めるためにも、その解決に着実に取り組むことが重要である。

著者
金井 恭太郎

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