リモートワークの普及は進んだが、機能している企業は少ない? 

5月 13, 2020

緊急事態宣言が発令されてから1か月余りが過ぎた。外出自粛の流れを受けて、多くの企業においてもリモートワークの導入が進められている。4月21日に経団連から発表されたレポートによれば、97.8%の企業がリモートワークに取り組んでいるとされており、調査対象企業の偏りはあるものの、一定程度、リモートワークの導入が進んできているといえそうだ。

その一方で本質的にリモートワークが機能している企業はどれくらいあるだろうか?

以下は、リモートワーク実施企業に勤める知人に、筆者が個人的にヒアリングしたリモートワークの現状だ。

  • リモートワークが導入されたものの、業務上の指示もなくやる事がない
  • パソコンの動作が常に監視されており、息苦しい。オフィス勤務の方がよっぽど楽
    (パソコンのマウスを自動で動かす仕組みを自作した、という人もいた)
  • 子供が家にいるため、日中は集中して作業することができない
  • 印刷や押印が必要な書類があるため、週に何度かは出社せざるを得ない

中には、リモートワークによって通勤時間が減り、1日を効率的に過ごす事ができている、という前向きな意見も存在したが、リモートワークが上手く機能しているケースはかなり少数、といった印象だ。

では、リモートワークを機能させていく上で、一体何が問題になっているのだろうか?

初期段階の人間関係構築や複数人でのブレスト等、そもそもリモートワークが機能しづらい業務が存在するのも事実だが、本稿では、業務全体としてリモートワークを機能させていくために、という観点での私見を述べさせていただきたい。

ITツールの導入=リモートワークの導入ではない

リモートワークを導入する、となれば企業が真っ先に着手するのはITツールの導入であろう。

PC環境、ネットワーク、セキュリティの整備だけでなく、Web会議やチャットといったコミュニケーションツールの導入、場合によってはチームでのタスク管理ツールの導入も有効かもしれない。

たしかにリモートワークにおいてITツールの導入は必須だが、これらを導入したからリモートワークを導入できている、と考えるのは早計だ。

例えば、いくらITツールを導入したとしても、業務が電子化されていなければリモートワークは実現し得ないし、社員がITツールを使いこなすリテラシーを持っていなければ、宝の持ち腐れである。マネジメントがITツールを通じて、メンバーに作業指示をできなければ業務は成立しない。

ITツールはあくまでもリモートワークを実現するための基盤に過ぎない。

リモートワークを機能させていく上では、目指す働き方に対して、業務/規程・ルール/人材/組織風土等の側面での課題の洗い出しと対応に取組む事が最も重要だと筆者は考える。

※ Mercerでは、リモートワーク導入において検討すべき事項について、「リモートワーク導入のチェックリスト」を作成しているため、詳細はこちらをご参照いただきたい。

そのITツールの使い方は正しいのか?

加えて、「ITツールの使い方」という観点でも言及させていただきたい。

ITツールは非常に便利だ。今パソコンにログインしているのか?どこにいるのか?といった情報はもちろんのこと、近年のテクノロジーでは、今どれくらい集中しているか?といった個人の細かな情報まで把握する事ができる。

一部の企業ではリモートワーク導入に際して、これらの情報を把握し、監視するマネジメントが実践されているようだが、本当に望ましい姿なのだろうか?

オフィスで皆の仕事ぶりが見えていた時代からすれば、マネージャーが部下の状況を知りたくなる気持ちも理解できるし、従来の労働者・使用者の関係性から、多くの企業が社員を拘束している「時間」に対して処遇せざるを得ない背景も十分に理解できる。

しかしながら、上述したケースの様に、そういったマネジメント自体がリモートワークによる業務効率を阻害している事は想像に難くない。

むしろ、テクノロジーを最大限活用し、今までよりもスピーディかつ円滑に情報共有やコミュニケーションを図り、場所や時間を選ばずにフレキシブルに働く方が、企業にとっても個人にとってもはるかに有益ではないだろうか。

当然のことながら、個人に自由を与える裏側には、結果に対する責任も伴う。したがって、この様な個人の自律を前提としたマネジメントへ転換していく事は、企業にとっても個人にとっても大きなチャレンジである事は間違いない。

それでも、このコロナショックによる働き方の転換を少しでも前向きに捉えるのであれば、ITツールの使い方についても今一度考え直す必要があるだろう。

著者
江口 智彬

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