リモートワークの本質的なメリットと企業が目指すべき評価システム 

3月 26, 2020
新型コロナウィルスの影響により、リモートワークの利用がこの一月間で爆発的に拡大した。考え方は人それぞれだ。リモートワークをしてみたら「思ったより生産性が上がる」という人もいるだろうし「ずっと家に籠っているのは気が滅入る」という感想も良く聞く。リモートワークにしたいが「会社としての準備が整っておらずできない」または「リモートでの作業効率が著しく悪く現実的でない」という場合もあるだろう。

リモートワークの課題~ポスト・新型コロナウィルス感染拡大

今回、リモートワークが爆発的に増えたのは、新型コロナウィルスというある種の外圧が要因だが、この1、2年、徐々に注目は高まっていた。「働き方改革文脈」の中では一つのワークスタイルとして取り上げられている。また、「今夏に予定されていた東京オリンピックの混雑」に対する有力な施策でもあった。これらの意味でリモートワークは従前より追い風を受けていた訳であるが、コロナ以前は大きくは利用が増えず、日本企業には活用に懐疑的な会社・人も多かった印象だ。「事前の届け出が面倒で使いにくい」「回数制限が厳しくて利用しづらい」「リモートでの業務環境の品質があまり整っていない」「PC作業のログ管理がされており気が休まらず会社に来てしまう」等の声は様々な会社で耳にする。全体的にリモートワークは取り入れたが、その使用に対して抑制的な会社がかなりあるのだ。つまるところ「得られる効果」と「実施に向けての課題や懸念」を天秤にかけた時に、漠然と後者が大きいと感じている会社・人が相当程度多いのだろう。

本質的なメリット

その理由を考察してみよう。一般的にリモートワークのメリットとして「生産性が上がる」という話が出るが、疑問を感じる人は多いと思う。本当に「会社で作業をする」ことと「家で作業をする」ことで単純に効率が変わるのだろうか? 人に邪魔されないため生産性が上がる部分もあるが、人目が無いため気が緩みさぼってしまう可能性もある。機微情報のやりとりも難しくなる。作業効率そのものにはプラスもあればマイナスもあり、単純に良い悪いとは言い難い。そのため「得られる効果」が大きいと思えず、逆にリスクがあると感じるのではないだろうか?


確かに個々の作業の効率自体は大きく見れば変わらない。ただ、他にメリットがある。最も大きな効果が確実に出るのは移動時間だ。通勤時間が無くなることでワークライフバランスが改善される。また、顧客の理解が得られれば、社外での会議の移動時間が減り、就業時間内の生産性が上がる。また、在宅で育児・介護に携わらなければいけない優秀な人材に対して就労機会を与えることもできる。今まさに顕在化しつつある話だが、超高齢社会を迎えるにあたって、介護によって通常の通勤を伴う勤務が難しい人が増えるのは間違いない。要介護人数が増えつつある一方で、女性の就労が増加しており、従来のように介護を専業主婦任せにすることもできなくなっている。すなわち、働きながら育児・介護ができる環境を社会全体として作る必要があるが、それはすなわち、リモートワークの普及ということにつながる。これらの移動時間の削減によるワークライフバランス改善や生産性向上、また、育児・介護に携わらなければならない優秀人材の活用が、リモートワークの主な「得られる効果」であり、中長期的には非常に重要性、必要性が高い。

実施に向けての課題や懸念

IT環境、業務・書類の電子化レベル、セキュリティも課題・懸念と成り得るが、これらは投資すれば解決できる問題が多い。組織を変革するという意味で、最も大きな課題・懸念は、今までの業務管理や評価のコンセプトのリモートワークへの適用に無理があることだ。日本企業における業務管理・評価の基本は定量評価を除くと「仕事ぶりの観察」である。一生懸命か、協力的か、文句を言わないか等の観察を通じて、就業時間中、真面目に仕事をしているか(していそうか)を見ているのだ。業務指示が曖昧なことも多い。会議では比較的職位が上のもの2、3名が抽象的に言いたいことを言って、下の職位のものがそこでのコメントと空気を慮ってドキュメントを作成する。これらのワークスタイルを前提とするとリモートワークは非常に難しい。仕事ぶりを直接見ることができず「さぼるのでは?」と心配になるし、Fact to Faceの会議で、空気感を含めて「ふわっ」とした業務指示で済ますことが難しく、仕事が進めにくいと感じる。これらの業務管理・評価に対する懸念が、リモートワークの拡大を躊躇させる潜在的要因に思える。

業務管理・評価に求められるリテラシー

しかし、やり方を少し変えれば、これらは解消する。すなわち、業務管理・評価の対象を「仕事ぶり」から「タスク・アウトプット」にすれば良い。ただし、これに伴って、マネージャーのリテラシーを強化する必要がある。具体的には、「アウトプット仮説の構築、タスクブレーク、品質・進捗管理、コミュニュケーション」等が開発すべきリテラシーだ。リモート環境においては、アウトプットの仮説構築やタスクブレークを通じて、具体的な指示を出すことができないマネージャーは生き残ることが難しくなる。また、必要とされるITリテラシーの最低レベルも上がる。現状、中高年の管理職には、メールの閲覧と最低限の返信程度しか出来ないものもいるが、パワーポイント、エクセル、ワード、アウトルック、Windows、Webミーティング等の基本的なソフトウェアに関しては、最低中級以上のレベルが必要になるだろう。リモートでは各スタッフが閉塞感を感じることもあり、コミュニケーションをデザインする力も重要だ。

これから必要となる人事変革

これらの変化は最終的には雇用の在り方そのものの変革も必要とする。日本の労働法は工場労働者、炭鉱労働者等の比較的代替可能な労働者の保護がベースとなっており、時間管理の概念が非常に強い。今までの「仕事ぶりの観察」というコンセプトも、就業時間を必ず把握するため、労働時間管理に親和性が高い。しかし、リモートワーク環境が「当たり前」になるとしたらどうだろう?理屈上は時間管理できる、ということになるが、そうするとPCの前に張り付けるためにログ管理が必要という話になり、息苦しさを感じるだろう。また、在宅の育児・介護をしているもののリモートワークは、時として細かい断続労働になることが想定され、管理する側も管理される側も時間管理が難しい。介護ばかりでなく、一般的に、夕方一度仕事を早めに切り上げてまた夜に仕事をしたいということもあろう。このように、在宅での勤務は、本来自由な裁量の付与というニュアンスもあり、市場価値に基づきタスク・アウトプットに対してPayする(時間にPayしない)、という考え方を採り入れる方が、ワークスタイルに対して親和性が高い。従って、労働者保護は「時間管理をしっかりする」という方向ではなく「タスク・アウトプットに対するPayが不公平と感じた時に職場を変えやすい」という方向ですべきだろう。


今後、社会全体としてリモートワークは進めざるを得ない。いや、進めるべきだ。その際は、業務管理・評価・報酬のコンセプトをタスク・アウトプットベースに変え、同時並行的にマネージャーをリスキルして必要なリテラシーを高めることが必要だ。行政としても時間管理ではない労働者管理・労働者保護の施策を是非打ち出していただきたい。

著者
白井 正人

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