賃上げ(給与改定)のグローバルスタンダード
12 2月 2020
日本型雇用制度からの脱却に向かう流れは勢いを増し、期待や不安を飲み込みながら、大きなうねりとなって日本全体を動かしつつある。
2020年1月21日、経団連から2020年春闘における経営側指針として「経営労働政策特別委員会報告」が発表された。
この中で経団連は、日本では慣行として行われてきたベースアップは容認しつつ、引き上げに当たっては“職務や成果を重視した配分“を適切として、これまでの年功序列の横並び賃上げからの脱却を促している。加えて、新卒一括採用や終身雇用、年功型賃金など、日本型雇用システム全体の見直しの必要性に明確に言及したことも話題を集めた。
さて、上記を日本型の賃上げ(給与改定)とするなら、賃上げ(給与改定)のグローバルスタンダードはあるのだろうか。本稿では、賃上げ(給与改定)のグローバルスタンダードをご紹介したい。
賃上げ(給与改定)を決定する要素とは? 昇給決定要素の日系vs外資系比較
日本最大規模のマーサーの報酬調査結果(最新版)によると、日系・外資系の区別なくほとんどの企業が、すでに、「個人業績」を賃上げの決定要素に含めている。
一方、日系・外資系で差が大きかったのは以下の項目である。
日系企業では、決定要素に含まれていた勤続年数や職位は、外資系では考慮されないケースが多く、外資系で重視されている給与レンジ内での位置づけ・人材市場における報酬競争力を、決定要素として挙げた日系企業の割合は外資系の5-6割にとどまった。
表1:賃上げ決定にあたりどんな要素を考慮にいれていますか?(複数回答)
賃上げ(給与改定)の決定要素 | 日系企業 | 外資系企業 | ||
回答数 | 回答割合% | 回答数 | 回答割合% | |
会社業績 | 51 | 53% | 342 | 69% |
個人業績 | 93 | 97% | 483 | 98% |
勤続年数 | 26 | 27% | 25 | 5% |
景気動向(インフレ率) | 24 | 25% | 174 | 35% |
職位 | 63 | 66% | 207 | 42% |
給与レンジの中での位置づけ | 45 | 47% | 390 | 79% |
人材市場に対する報酬競争力 | 32 | 33% | 309 | 63% |
回答組織数 合計 | 96 | 493 |
グローバル企業で一般的な賃上げ(給与改定)のアプローチとは?
グローバル企業で一般的に見かける賃上げ(給与改定)では、「昇給マトリクス」と呼ばれるテーブルに基づいてその配分を決定する。(表2)
表2:昇給マトリクスの例 *数字はすべてサンプル
縦軸:給与レンジ中での位置づけ(もしくは)市場報酬水準に対する位置づけ
横軸:業績評価レイティング
昇給マトリクスでは、全社昇給予算を制約条件として、昇給予算を給与レンジ内の位置づけと業績評価に応じて分配する。
マトリクス状に上記2項目を並べ、原則として、水準給与を下回っており業績評価が高い左下枠(緑セル)に最も高い昇給率を割り当てる。一方、水準給与を上回っておりかつ業績評価の低い右上枠(紫セル)に対しては昇給を抑制するように、各マスの昇給率の配分の設計を行う。
各マスの昇給率差をどの程度にするか、マイナス昇給を許容するか等の設計によって、緩やかな配分からアグレッシブな配分まで、傾斜配分の程度を調整することができる。グローバル企業では、ビジネスモデルや経営戦略を反映して事業や職種に応じてテーブルを作り分ける場合もある。
日系企業の中でも、昇給マトリクスを用いた昇給決定アプローチを採用する企業は増えており、もはや新しい取り組みというほどのインパクトはないものの、これからの報酬を考える時、賃上げ(給与改定)の仕組みの再考を避けては通れない。
もし、これから検討を始めるのであれば、上記枠組みの各マスへの貴社実在者の分布実態の把握を、最初の一歩とすることを推奨したい。