多様な人材のエンゲージメントを高める - 自社の人材を顧客のように捉える 

29 8月 2019

マーサーの「グローバル人材動向調査2019」では、企業に入社する理由が、性別や世代により異なる傾向が見られた。ジェネレーションYにとっては「専門能力開発」や「昇進の機会」が特に重視されるが、ベビーブーマーにとっては、これらの点よりも、「健康に対する福利厚生」や「競争力のある給与」の方が重要と捉えられている。また、女性は男性よりも「柔軟な就労時間」に対するニーズが高い傾向も見られる。

日本企業も、かつては新卒・男性が企業の人材の多数を占めていた時代もあった。だが今、周囲を見渡せば、女性や日本以外の国籍の人材、あるいは60歳以上のいわゆる「シニア人材」も多数含まれており、また、ひと口に「男性」と言っても世代や職種が異なると、一括りにできない様々な人材が目に入るのではないだろうか。日本企業においても、国籍や性別、ジェンダー、年齢、価値観の多様化は避けられない。

したがって、経営層に求められることは、この多様な人材の貢献意欲(エンプロイー・エンゲージメントと呼ばれる)を引き出し、組織の成長を実現することと言ってもよいのではないだろうか。

では、人材が持つ多様なニーズに応え、エンプロイー・エンゲージメントを高める上で、報酬や評価、人材育成、福利厚生等を含む自社の人材マネジメントは、最適化できているだろうか。かつての新卒・男性向けに最適化された仕組みを多少見直せば、十分なのだろうか。

もし多様な人材のエンプロイー・エンゲージメントを高める人材マネジメントを実現する上で難しさがあるのであれば、ひとつのアイデアとして、マーケティングの手法を取り入れることを提案したい。

マーケティングの定義は様々だが、ここでのポイントは、顧客に価値のあるものを創造・提供するという点のみだ。

マーケティングでは、多様な価値観を持った人々から顧客を定義し、購買行動、さらには熱烈なファンへと態度・行動変容させるための手法が考案されてきた。この顧客を「自社の人材」に置き換えようというのが本稿のアイデアだ。マーケティングで、顧客を定義し、ニーズの理解に努め、どのような価値をどんな手段で提供するのか検討するように、自社の人材を改めて定義し、どのようなニーズを持っているか改めて考え、熱烈なファンに変容するための施策を考えてみようということである。

少し具体的には、まず、自社の従業員の世代や性別、価値観・ライフスタイル等について、定量分析とアンケート・インタビュー等の定性的な情報を組合せて分析し、複数のペルソナを定義する。次に、それぞれのペルソナに対して、企業生活における入社や昇格等の様々なタイミングで、どのような施策が提供され、それがニーズを満たしているのか検討する(いわゆるエンプロイー・ジャーニーマップ)。検討の結果、ニーズを満たしていないとされた事項について、対応策を実行していくといった流れだ。

人材マネジメントの仕組みは経路依存性があるため、歴史ある企業ほど、新卒・男性向けに洗練されたものになっている可能性が高い。様々な価値観を持った人材をペルソナとして具体的に想定し、その人材が自社で働くときにどのような経験(エクスペリエンス)をしているのか想像することで、エンプロイー・エンゲージメントを高めるための新たな気づきがあるのではないだろうか。

著者
伊藤 靖弘

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