変革の時代に求められる人材マネジメント 

23 5月 2019

情報通信技術・デジタル化・AI(人工知能)の急速な進展により、戦略や事業ポートフォリオを中長期目線で見直す企業が増えているが、それを支える人材マネジメントはどのように見直せば良いのだろうか?

マーサーが約7300名(経営幹部800人、人事担当1600人、従業員約4800人)を対象に行った2019年の「グローバル人材動向調査」では、高成長を実現している企業とその他の企業の相違を含め、人材マネジメントに関する4つのトレンドを提示している。その内の1つに、「仕事を将来価値に合わせる」というトレンドがある。

もう少し具体的に言うと、「仕事を再定義し、将来の価値が創造される場所に人々を異動させることによって、仕事の新しい成長に繋げる」という内容のものであるが、このトレンドに即した人材マネジメントを実現するためには、”ヒト”の最適化を考える前に、まずは”仕事”の最適化を考える必要がある、ということになる。

昨今の事業環境の変化を踏まえ、戦略や事業ポートフォリオを中長期目線で見直す企業は多いが、それと併せて、既存の自社の仕事を抜本的に見直し、仕事を定義しなおすことは、人材マネジメントのみならず、企業の生産性・効率性を高める上でも重要である。例えば、

  • 今後、自社の戦略を実現する上で必要となる仕事は何か?
  • 今後、自社の企業価値向上に貢献する仕事は何か?
  • 既存の仕事で将来の企業価値向上に貢献しない仕事は何か?
  • 既存の仕事でRPA、AI等による自動化との親和性が高い仕事は何か?

といった観点で仕事を整理し、新しい仕事を再定義することで、より付加価値の高い仕事を生み出すとともに、既存のムダな仕事をそぎ落とすことができる。デジタル化技術が創造的破壊をもたらすという環境の中では、こういった”仕事”の最適化を行うことが、企業の生産性・効率性を高める人材マネジメントの前提として必要なのである。

その上で、最適化された”仕事”を担う、”ヒト”の要件を明確に定義し、”仕事”と”ヒト”を上手くマッチングさせることで、企業の生産性・効率性を高める人材マネジメントが可能となる。”ヒト”の要件を定義する際には、当該仕事を遂行する上で”ヒト”に求められる知識・スキル・業務経験等を、出来るだけ具体的に定義することが望ましい。また、”仕事”の人材要件を満たす”ヒト”を見つけ、マッチングさせるためには、社内外の”ヒト”の属人的データ(各人が保有する知識・スキル・業務経験や、志向性・価値観等)を収集し、管理できるタレントマネジメントシステムの導入・整備も必要となるだろう。このような基盤を整えることで、多様な”ヒト”を活かす人材マネジメントが実現できる。

加えて、人材マネジメントの仕組みをより中長期的・持続的な企業の成長へ繋げるためには、”企業”と”ヒト”との間で信頼関係を築くことも重要である。”企業”が目指す方向性を”ヒト”と共有し、共通の価値観を醸成することに加え、一人一人の”ヒト”の志向性や価値観に”企業”が向き合い、真摯に応えることで、

  • 多様な”ヒト”を自社に惹きつけ、シナジーを創出する
  • 優秀な”ヒト”を自社に定着させ、ブランド力を高める

といった、人材マネジメントによる自社競争力の向上が実現できる。そのためには、企業が目指す方向性や価値観をミッション・ビジョン・バリューと言った分かりやすい形で明確化し、浸透させるとともに、社内の”ヒト”の多様な志向性・価値観をタレントマネジメントシステムで把握し、”仕事”のマッチングに活かすことも必要となるだろう。

人材マネジメントの在り方に一律の正解はない。しかし、変化・競争の激しい事業環境においてより効果を発揮する人材マネジメントの在り方を検討することは、企業の競争力強化を実現する上で、益々重要になってきていると感じる。

著者
関根 彰彦

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