ダイバーシティからインクルージョン、そしてエンゲージメントの向上へ 

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16 4月 2019

近年、日本では、女性の雇用者数が着実に増えている。その背景には、少子高齢化による労働人口の減少や、女性の大学進学率上昇による労働意識の向上、経済の低成長による男性収入の低下などがある。

これは、育児休暇制度の普及や保育所の整備などにより、女性が働き続けることが可能になったこともあるが、女性の非正規雇用の増加によるところが大きい。女性の就業は進んでいるものの、職務は補助的な役割に留まり、能力発揮やキャリア形成という点においては課題が多いのが現状である。

日本は今後、労働力不足に直面する可能性が高い。そのため、日本企業にとっては、性別や国籍、年代や働き方の違いに関わらず、多様な人材を組織に受け入れ(=ダイバーシティ)、また、一人一人を組織の一員として尊重し、意思決定や活動に参画させ(=インクルージョン)、そして、能力や貢献意欲を引き出す(=エンゲージメントの向上)ことが、その競争力を高めるために不可欠である。

ただ、インクルージョンやエンゲージメントを高める取組みは多岐にわたり、また相互に複雑に絡み合うため、個別の取組みをバラバラに実施しても効果が見えない。これらの取組みを企業の競争力向上につなげるためには、以下の3つの観点から、その目的やアプローチを検証する必要がある。

1. 職場での信頼関係構築に役立つか

職場において、社員一人ひとりが自然体でいられる、すなわち、自分の考えを自由に発言でき、そして傾聴してもらえるという安心感や信頼関係があることがインクルージョンを促す大前提である。これは、グーグル社が公表した生産性向上のカギである「心理的安全性」(psychological safety)と同じである。

2. 働く時間・場所の柔軟性を向上させるか

日本では、従来、「3つの無限定性」(職務内容・勤務地・労働時間の無限定性)を受け入れられる社員に頼った組織運営がなされてきた。しかし、近年、育児・介護をしながら働く社員の増加、共働き世帯の増加、健康やメンタルを害する社員の増加などにより、「3つの無限定性」を受け入れられる社員は減ってきている。

個人がいつ、どこで働くかについての柔軟性を高めることや、仕事の標準化やプロセス改善を進めることにより、多様な事情を抱える人材の参画意識を高め、誰にとっても働きやすい組織へと変わることができる。

3. ニーズの多様さや個別性を尊重しているか

人材マネジメントの仕組みにおいても、近年、社員の多様なニーズをより広い視野からとらえ直したり、個々人のキャリアや能力開発、健康などを積極的に支援したりする取組みが増えている。

例えば、2010年ころより、欧米企業の一部で導入されている、“ノーレイティング”は、社員にクイックにフィードバックを与え、個々の社員の成長やキャリア開発支援を重視する。

また、報酬の面では、報酬を金銭的なものだけでなく、より多面的にトータルリワード、さらにはトータルバリューととらえ、その会社で働くことの意義を伝えること、キャリアや能力開発の機会を提供することなどを含めて“リワード”ととらえ、社員のエンゲージメントを高めようとしている。

インクルージョンやエンゲージメントを高める施策に取り組むにあたっては、上記1.~3.の観点で、その目的やアプローチの妥当性を検証することが重要である。また、現在の組織における課題は何か、本来どうあるべきか、どの領域を優先すべきか、を判断するにあたっては、客観的な事実やデータに基づくことの重要性も改めて指摘しておきたい。

今後のVUCA時代において、仲間との信頼関係、柔軟な働き方が許容される環境、多様性と個別性を尊重する風土がある組織で働けることは、個人にとって最大のセーフティネットである。そういう組織においてのみ、個人は、高い貢献意欲を持って自分らしく働けるのではないだろうか。また、そのようなエンゲージメントの高い社員が集まってこそ、企業も競争力とレジリエンスを備えた、強い組織になれるのではないだろうか。

著者
伴登 利奈

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