マーサー「役員報酬サーベイ-2022 Executive Pay Survey」の結果を発表
日本, 23 1月 2023
過去最多の800社(日系335社・外資465社)が参加。コーポレートガバナンス・役員報酬への関心の高まりを表す結果に
- 日系企業の役員報酬は、売上高・役位が高くなるほど総額・変動報酬比率ともに高くなる傾向。売上高1兆円以上に限定すると、社長の総報酬(中央値)は約1億9,000万円、報酬構成比率は基本報酬(ABS):短期インセンティブ(STI):中長期インセンティブ(LTI)≒4:3:3
- 日系企業は「役位」を報酬水準の決定要素として重視する傾向。従業員人事制度では「ジョブ型」がバズワード化して いる中、役員報酬のあり方も「職務」や「役割の大きさ」といった、いわば「ジョブ型」視点での報酬水準の検証・設計アプ ローチが必要になる
- 取締役会の監督機能強化に向け、社外取締役人数の増加や指名・報酬委員会の設置が進められるとともに、スキル マトリクスそのものの開示がなされる等、コーポレートガバナンス強化に関する取り組みは実装されつつある。より実効的なものとするには、監督機能強化のキーである(社外)取締役個人や各種委員会にまで実効性評価の対象を拡大することや、取締役会の位置付けに照らした「ストーリー性」を意識したスキルマトリクスを作成・開示することが今後期待される
組織・人事、福利厚生・ウェルビーイング、資産運用のグローバルリーダー、マーサーの日本法人であるマーサージャパン株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長 CEO 草鹿 泰士)は、日本における役員報酬に関する市場調査「Executive Pay Survey(以下EPS)」の2022年版レポートを発表した。
組織・人事変革コンサルティング部門シニアマネージャー 役員報酬・コーポレートガバナンス プラクティスサブリーダーの河本裕也は、次のように述べている。
「2022年は、コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)第3版や人材版伊藤レポート2.0、 人的資本可視化指針等、コーポレートガバナンスや人的資本経営に関する行政からの指針が相次いで発表された年でした。 企業価値向上に向けて、行政や他社の動向を踏まえながら自社のコーポレートガバナンスを進化させていく必要性が年々高まっており、これが今回のサーベイ参加社数増加の背景と考えられます」
また、同部門 マネージャーの池田 祐介は、以下のように付け加えた。
「企業価値向上に当たっては、役員報酬を健全なインセンティブとして機能させていくことが必要です。客観性を担保しながら競争力のある役員報酬制度を設計する上で、市場報酬データの活用は有効な手段です。加えて、クローバック条項のあり方やボードサクセッション、CEO のサクセッションプラン等のコーポレートガバナンスに関する取組みについても、各社の情報開示を超えた深いレベルでプラクティスを把握しておくことは検討を進める上で不可欠かと思います。これらを網羅した本サーベイへの参加をぜひご検討いただきたいと考えています」
調査結果ハイライト
- 過去最多となる800 社(昨年比137 社増、日系335 社・外資465 社)がサーベイに参加。コーポレートガバナンス・ 役員報酬への関心の高まりを表す結果に
- 日系企業の役員報酬は、売上高・役位が高くなるほど総額・変動報酬比率ともに高くなる傾向。売上高1 兆円以上に 限定すると、社長の総報酬(中央値)は約1 億9,000 万円であり、報酬構成比率は基本報酬(ABS):短期イン センティブ(STI):中長期インセンティブ(LTI)≒4:3:3 となっている
- 日系企業のCEO 報酬は、海外企業(米国、ドイツ、英国)に比べ総報酬額では大きく劣後するものの、基本報酬額 の差異は抑制的であり、グローバルでの報酬競争力強化には変動報酬額の引上げがポイント
- 日系企業は「役位」を報酬水準の決定要素として重視する傾向。従業員人事制度においては「ジョブ型」がバズワード化 している中で、いわば「ねじれ」ともいえる現象が生じている。アカウンタビリティの観点からも、役員報酬のあり方も「役位」と いう内部に閉じた基準から「外部競争性」を意識する必要性が高まっていると考えられ、「職務」や「役割の大きさ」といっ た、いわば「ジョブ型」視点での役員報酬水準の検証・設計アプローチが必要になると考えられる。また、人的資本経営を 加速する上で、役員(CEO)報酬と従業員報酬の比率を表す「CEO ペイレシオ」も今後重要性が高まると考えられる
- ESG を意識した非財務KPI 指標は中長期インセンティブに用いられる傾向。ESG 経営の背景・ねらいは各社各様で あるため、KPI に個社性を打ち出すことが望ましい。今回のサーベイでは、各社ならではのESG 経営の深化の状況を 裏打ちするように、環境(E)や社会・従業員(S)に関する個別指標を自社で設定の上、自社評価基準を用いて 評価する例が最多であった。これに際しては、「お手盛り排除・客観性担保」が問われるため、委員会の関与や開示の 在り方も同時に検討していく必要がある
- 中長期インセンティブのビークルは、譲渡制限付株式(RS)、パフォーマンスシェア・ユニット(PSU)、業績連動型 自社株信託スキームが主流になっている。今後は、中長期インセンティブの増額による報酬競争力強化や複数のビークル の組み合わせによるインセンティブ性・株主との利害共有性の強化が期待される。その際は、クローバック条項の導入等、 過度なリスクテイクを抑制する仕組みの導入の検討も必要となる。また、中長期インセンティブ(株式報酬)の特性に 照らし、今後は社外取締役や従業員層への付与も検討していくべきと考える
- 取締役会の監督機能強化に向け、社外取締役人数の増加や指名・報酬委員会の設置が進められており、コーポレート ガバナンス強化に関する取り組みは実装されつつある。より実効的なものとするためには、監督機能強化のキーとなって いる、(社外)取締役個人や各種委員会にまで実効性評価の対象を拡大することが考えられる
- スキルマトリクスは、CG コード第3 版(2021 年)で明記されたことも受け約6 割の企業が作成済み。その一方、スキル マトリクス「のみ」の開示に留まる企業が過半数を占めている。自社取締役会の位置付けを明らかにして、それをストーリー 化したマトリクスを作成・開示することで、取締役会の実効性向上につなげることが肝要である。また、スキルマトリクス作成 の過程で定義・明確化された取締役会が継続して実効性を発揮するためには、取締役会としての後継者計画(ボード サクセッション)の取り組みを開始するべきである
- CEO の後継者計画に取り組む企業は約6 割。経営環境の不確実性の高さが声高に唱えられる今、企業経営の舵取 りを担うCEO を継続的に排出するサクセッションプランの整備は待ったなしの状況にある。より早期に候補者を選抜し育 成を図っていくことでCEO たる経験を十分に積ませ、強力なリーダーシップをもとに企業価値向上をけん引させるべきであ る
注:上記の4.以降は報酬・ガバナンスプラクティスに関するサーベイにご回答頂いた企業(120 社)についてとりまとめ
マーサー役員報酬サーベイ(EPS)について
- 役員報酬サーベイは、欧米およびアジア各国で実施されており、日本では前身のMERG(Mercer Executive Remuneration Guides)が2013 年より調査を開始
- 役員報酬に必要なデータ(基本報酬・手当・短期インセンティブ・中長期インセンティブほか)を網羅的に提供。役位の みならず、職務(CEO, CFOなど)や、役割の大きさを反映したグローバル共通のジョブザイズ(PC: Position Class) を用いた比較も可能であり、日本企業・グローバル多国籍企業の双方の視点から役員報酬分析が可能
- 役員報酬データに加え、企業のコーポレートガバナンスに関する取り組みについて調査したプラクティスデータも充実して おり、自社の取り組み改善に活用いただくことが可能
調査結果サマリーは以下からダウンロード可能です。
役員報酬サーベイ(Executive Pay Survey)の詳細も併せてご覧ください。