国籍を問わない海外赴任の仕組みづくりに向けて
バリュエンスホールディングス×マーサージャパンが取り組んだ制度設計のポイントとは?
ブランド買取「なんぼや」「BRAND CONCIER」、BtoBオークション「STAR BUYERS AUCTION」、プレオウンド・ブランドショップ「ALLU」などリユース事業を展開するバリュエンスホールディングス株式会社。近年はマーケットを広げるべく積極的に海外展開を強化しており、それに伴い海外赴任者が急増。そうした人材をモチベートするための人事制度を構築するため、マーサージャパン株式会社の協力を得たという。
今回は、バリュエンスホールディングス株式会社・執行役員の大西剣之介氏、マーサージャパンの内村幸司、同・星埜夢保による対談を実施。新制度設計においてバリュエンスホールディングスが目指したもの、そして、マーサージャパンが果たした役割についてお伝えする。(以下敬称略)
※HRプロ転載記事
バリュエンスホールディングス株式会社
執行役員 コーポレートストラテジー本部 人事部 部長
大西 剣之介氏
大学卒業後、デロイトトーマツコンサルティングに入社。株式上場支援や人事コンサルティング業務に従事。2012年、日清食品に転職。人事制度の運用・改革、組織・人材開発、HRBP、中途採用など人事領域全般に携わる。2020年、バリュエンスホールディングスに転職。人事部長として人事部を統括する傍ら、全社ESGプロジェクトにも参画。2022年から執行役員に就任。
マーサージャパン株式会社
グローバルモビリティプラクティス 日本代表
内村 幸司
大学卒業後、日系大手精密機器メーカー (香港・広州駐在を含む)を経てマーサージャパンに入社。マーサーにて組織・人事変革コンサルティング部門(中国・上海駐在での日系企業支援チーム代表を含む)を経験。現在は国籍・派遣元を問わず人材の最適活用・育成を目指す 「グローバルモビリティ」 に主眼を置き、海外派遣に関するグローバルポリシーの策定、報酬・福利厚生制度共通プラットフォームの設計・導入・運用支援他、グローバル人材マネジメントに関する幅広いプロジェクトを数多くリード。
マーサージャパン株式会社
マネージャー
星埜 夢保
大学卒業後、医療機器商社に入社。大学病院向けの営業を2年ほど担当した後、人事部に異動。人材育成・組織開発の仕組み作りを極めようと、横河オーガニゼーション・リソース・カウンセラーズに入社。2012年、マーサージャパンに統合され、現在に至る。
国ごとに異なる環境。
海外赴任者の生活基盤をどう整備すべきなのか?
内村:バリュエンスホールディングス株式会社様は、ここ数年、海外展開を加速させていらっしゃいます。その過程で我々マーサージャパンは、主に海外赴任者の処遇設計コンサルティングや給与を決める際必要になる生計費データの提供という形で関わらせていただきました。
あらためて御社が海外展開に注力されるようになった経緯をお話しいただけますか。
地球規模の「循環」を考えるなら、日本にとどまらず海外にも目を向けなければなりません。そこで2017年頃からオークションに参加してくれる事業者を海外でも探し始めました。その後、オークションのオンライン化を進めていたところコロナ禍になり、前倒しで完全オンライン化にしたことで、海外からご参加いただけるパートナー様の参加が急増。海外パートナーの開拓に加え、買い取りのための出店にも本腰を入れ始めたのが2019年から2020年のことでした。
当初は“出張”という形式でも間に合っていたのですが、出店となると、査定・買取ができる人、かつ店舗運営や現地スタッフの教育もできる社員を送り込み、一定期間、働いてもらわなければなりません。つまり“海外赴任”のためのルールが必要となったわけです。
内村:コロナ禍で多くの企業が海外赴任者を日本に帰国させました。それでも現地ではさほど問題なく仕事が回り、「そもそも海外赴任は必要だったのか?」という議論も起こっています。しかし御社の場合は、どうしても人が行かなければならないビジネスだったのですね。
大西:取り急ぎ規程を作り、等級、評価、海外赴任のルールはグローバル共通、報酬や働き方については国ごとに設計する、という方針を立てました。ただ、赴任先は香港、シンガポール、インドネシアといったアジア圏のほか、フランス、イギリス、アメリカ、ドバイと多岐に渡ります。それぞれ報酬水準、必要な手当、商習慣・法律などは千差万別です。
現地の人に実情を聞いても外国人が暫定的に居住する場合とは判断の基準が異なります。たとえばシンガポールだと、若い人は1Kの狭小マンションに住んでいて「一人暮らしだとこんなものですよ」とのこと。その基準を日本から赴任する社員に適用したら、行きたい人がいなくなります(苦笑)。
社内で議論するだけではダメだ。海外赴任者の生活基盤整備のためには、何を考えなければならないのか、生活コストのうち何を会社が負担するべきか、どのようなインセンティブを設定するのか…といった点で、マーサージャパン様にアドバイスを求めることにしたのです。
星埜:一般的には「人事制度を作って欲しい」というご依頼が多いのですが、バリュエンスホールディングス様のケースは、ゼロベースではなく、かなり綿密にお考えになった雛形をご用意されていたことが印象に残っています。
大西:はい。ベースは自分たちで考え、マーサージャパン様に対して、「何か気になるところはありますか」、「この部分はわからないので教えてください」といったアプローチで臨みました。ご教示いただいたものの中には、それまで当たり前だと思っていたのに実は不要なもの、逆に不要だと思っていたものが意外と必要なものであったりして、ひとつずつご説明いただき、必要性を議論しながら解決していきました。
公平性を担保するためのデータと 『購買力補償方式』 という手法
たとえば、大西様が例として挙げられた「住居」。日本からの赴任者、すなわち“外国人”が、その国で安全かつ安心して暮らせる住居を提供しなければなりません。あるいはレベルの高い住居を用意して、それを海外赴任への動機づけにすることもあるでしょう。そうしたフレームワークとロジックをご提供するわけです。
大西:出された “項目のフレーム” を検討し、何をどの程度処遇に反映させるのか、海外拠点の財務体力も勘案しながら検討を進めました。助言をいただきつつ、結果として、「海外赴任に起因した有利/不利の発生を回避し、かつ、海外赴任に対するインセンティブがあります」という制度を作り上げられたと思います。
内村:企業としてはコストの合理性も追求しなければなりませんが、だからといって削ってはいけないところを削るわけにはいきません。そのあたりのコンサルティングがマーサージャパンの存在意義だと自負しています。
大西:もう1つ、痛感したのはデータの重要性です。また住居の話になりますが、家賃40万円は日本ではかなり高額です。ですが「ニューヨークでは通勤に1時間半もかかる郊外にしか住めない。会社まで数十分、家族と同居することを考えると70万円は必要」という声を聞きました。ただ、言い値そのままに補助を出すと会社のPLにも影響を及ぼします。
「何にいくら拠出するか」の妥当性を検証するために、マーサージャパン様が持っているデータが必要でした。
もう1つがクライアント企業様のプラクティスデータ。各社が海外赴任者に対して、何を、いくら負担しているのか、どのように負担しているのかを調査したもので、日系企業だけでなくグローバル企業のプラクティスも参照していただきました。
赴任する国によって物価の高い安いは当然あるわけですが「東南アジア勤務なら貯金も増えそう」、「アメリカだと運が悪い」といった有利/不利をなくし、処遇に不満・疑問を抱かずに働いてもらう必要があります。そのための仕組みが、『購買力補償方式』です。各国で生活するために必要なコストのうち、会社がどの程度負担するのか、物価差などの指標をもとにデジタルに決める方法論です。これがあるおかげで、海外赴任における公平性が担保されると考えています。
そうは言っても 「海外赴任者に報酬を少し多めに設定したい」 といった方針はインセンティブスキームなどで実現していただき、ベースとなる報酬については『購買力補償方式』に則っていただくよう提案しています。制度設計のスペシャリストとして、魂を込めて作った仕組みなのです。
大西:『購買力補償方式』で算出された物価差を補償する手当分の支払い方法も新鮮でした。それまで各種手当は日本円・固定額で考えていたのですが、それでは為替レートの変動に対応できません。為替に応じて有利/不利が発生してしまいます。そこで「現地で消費する前提の支給項目は現地通貨建てで支払う」という視点を注入していただいたんですよね。
海外スタッフの処遇や国際間の異動にも適用できる、真にグローバルな人事制度
星埜:制度を詰めていきながら、「現地採用者の国際間異動も活発化する」というお話をいただきました。では、この制度を国籍/派遣元を問わず現地社員にも適用できるようバージョンアップしていきましょう、という流れでしたね。
内村:日本から派遣された社員が現地社員をトレーニングして“目利き”の力を身につけてもらう。そうして育った現地社員が今度は教える側になって他国に赴任する。日本人だけでは海外赴任者になりえる数が限られているため、現地社員も海外を異動してもらわなければならない。そんな「循環」も目指されているのですよね。
内村:国際間異動においても有利/不利が発生しないことが大原則。そうすれば異動が活性化し、地球規模での適所適材も進みます。そういう仕組みをインストールすることが、我々の仕事でした。
大西:現地社員に「日本ではこうしている」といっても通用しません。マーサージャパン様の知見を活用してルールメイクし、提供していただいたデータを用いて報酬体系を説明することで納得感が生まれました。
直近でも「香港で採用したマレーシア国籍の社員にアメリカへ赴任していただく」という案件が控えています。その際にも同じスキームで運用していくことができそうです。
星埜:人材不足の昨今、バリュエンスホールディングス様のように、グローバルな人材活用を真剣に進めようとする機運が高まりつつあります。それに応えるための海外赴任者処遇制度の重要性は、ますます大きくなるのではないでしょうか。
内村:海外赴任者処遇制度にとって大切なのは、対応力。たとえば海外赴任者の前提を「既婚男性で、配偶者と子女も連れていく」と単純化している企業の場合、その前提に合わせて制度を設計しがちです。それでは「そうではない」場合に対応できず、人によってルールを変えることになります。それが積み重なってパッチワークとなり、制度が「なぜそうなっているか誰も説明できない」ものになってしまうのです。
星埜:いまや地球規模の人材活用は待ったなしの状況ですから、2つ以上の国/都市へ人材を赴任させる、2人以上赴任させる、といった状況が見えているのなら、バリュエンスホールディングス様のように、なるべく早い段階で、関わる人たちの公平性が担保された海外赴任処遇制度を準備しておくべきだと思います。
大西:とはいえ「仕組みを入れて終わり」でもありません。国ごとの生計費は毎年変わるため、マーサージャパン様にはリアルタイムのデータを提供していただいていますし、新規海外赴任者の給与計算もお願いしています。そこでミスがあると、後々の対処が大変です。この部分の労力を抑え、万が一の手戻りも無くすことで、他の業務に回せるリソースも確保できます。
海外赴任者は現地で他社の赴任者とのつながりを持つものですが「あの会社ではこういう手当も出しているんですけれど」といったクレームはなくなりました。それもマーサージャパン様のご協力で、ロジックやその施策の目的が、あらかじめしっかりとした仕組みを作り、納得感のある説明・運用が実現できているからだと思います。
グローバルな人材活用のために今後できることを模索していく
内村:では最後に、今後マーサーに期待されることはありますか?
大西:海外にはシニア社員だけでなく25歳前後の若手も赴任しています。国内で経験を積み、査定力や接客力、店舗運営ノウハウは身についているものの、マネジメント業務やスタッフ教育の経験は不足しているため、苦労している様子がうかがえます。
ここ2、3年は海外志向の強い人を意識的に採用し、またワーキングホリデーや語学留学のために休職できる制度も導入したのですが、より“海外展開加速に資する人材”を拡充するための相談に乗っていただければと考えています。
また若手でクロスボーダーのタスクフォースを作り、オンラインで何かのプロジェクトを進めてもらえば「いずれは海外へ」という人のトレーニングになるでしょう。
さまざまな手法で海外派遣者候補プールを拡充することが必要になってくると思います。
私や星埜はグローバルモビリティを専門としていますが、マーサージャパンには他の分野においても専門チームが存在し、連携して各種の課題解決にあたっています。各種課題解決に向けた知見を持っているコンサルタントがさまざまな場面においてクライアントに寄り添っています。ぜひ「何かあればマーサージャパンに相談してみる」という関係を継続していただければと思います。
本日はありがとうございました。
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