サクセッション・プランとは?
目次
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- 後継者計画のロードマップの立案
- 「あるべき社長・CEO像」と評価基準の策定
- 後継者候補の選出
- 育成計画の策定・実施
- 後継者候補の評価、絞込み・入替え
- 最終候補者に対する評価と後継者の指名
- 指名後のサポート
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- フジクラ(2025年度)
- 横河電機(2024年度)
- マニー(2023年度)
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サクセッション・プランの定義
本記事ではサクセッション・プラン、中でも対象者のうち最重要ポジションである社長・CEOのサクセッションについて解説します。サクセッション・プラン(後継者計画)とは、「指名委員会・報酬委員会及び後継者計画の活用に関する指針 コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)別冊」(以下、「CGSガイドライン別冊*1)」によると、「企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を確保することを目的として、そこで中心的な役割を果たす社長・ CEO の交代が優れた後継者に対して最適なタイミングでなされることを確保するための取組」を指します。
ただし、その交代時期は、経営計画の達成状況等によっては当初想定を見直す必要が生じること、不測の事態により急遽交代の必要が生じることも起こり得ます。こうした状況変化・緊急事態においても、経営の安定性・持続可能性を確保するべく、平時からあらかじめ準備を進めることもサクセッション・プランの重要な要素といえます。とりわけ、緊急事態では選抜・育成にかけられる時間が限定されることから、通常時のプランとは別建てでエマージェンシー・プラン(有事対応プラン)を検討しておくことも必要になります。
また、現状の日本では経営トップを内部から登用する場合が多いものの、企業の状況によっては、外部からの招聘を検討することが適切な場合もあり得ると思われます。この場合、内部登用とは異なる時間軸・プロセスを経ることも考えられます。詳しくは「CEO後継者候補における社外人材検討の有用性」もご覧ください。
サクセッション・プランが重要視される背景
以前であれば、多くの日本企業において経営トップの後継者指名は、 現社長・CEO が実質的に一人で決定(いわゆる密室人事・脳内人事)し、取締役会はこれを追認するにとどまっていたのが実態ではないかといわれています。後継者選定が現社長・CEO の人物眼といった属人的要素に依存し、客観的基準・評価によらず、また、後継者の育成計画も現社長・ CEO の頭の中だけに存在し、明確な育成方針・プロセスは存在しなかった企業が多い*2ともいわれています。右肩上がりの安定した経営環境にあっては、一定の合理性があったと思われるものの、現代のような不確実性の高い環境下にあっては、適切な後継者指名が行われないリスクがクローズアップされるようになったと思われます。
そして、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の補充原則4-1③のとおり、「取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督を行うべきである。」として、取締役会による適切なサクセッション・プランの監督が要請されるようになりました。
取締役会がサクセッション・プランを適切に管理・監督し、後継者指名に至るプロセスの客観性・透明性を確保することで、企業の持続的成長と企業価値向上を牽引する人選が手続き的に担保されることが期待されます。加えて、客観性・透明性あるプロセスで選任された新社長・CEOの適切性について、社内外のステークホルダーの信頼感・納得感が得られやすくなり、新社長・CEOが社内の論理や前任者の意向を過度に気にすることなく、リーダーシップを発揮しやすくなることも期待されます。
サクセッション・プランの具体的な進め方
| ステップ | 主な内容 |
| 1 | 後継者計画のロードマップの立案 |
| 2 | 「あるべき社長・CEO像」と評価基準の策定 |
| 3 | 後継者候補の選出 |
| 4 | 育成計画の策定・実施 |
| 5 | 後継者候補の評価、絞込み・入替え |
| 6 | 最終候補者に対する評価と後継者の指名 |
| 7 | 指名後のサポート |
① 後継者計画のロードマップの立案
② 「あるべき社長・CEO像」と評価基準の策定
後継者候補を選出→育成→評価→指名するという一連の取組みに係る客観性の担保、取締役会・指名委員会による実効性ある監督のためには、拠りどころとなる判断軸としての「あるべき社長・CEO像」と要件定義が共有されていることが前提となります。
この「あるべき社長・CEO像」を描くにあたっては、自社を取巻く経営環境、企業文化、経営理念、成長ステージ等を踏まえることが不可欠となります。また、サクセッション・プランが中長期にわたる取組みとなることを踏まえて、策定後も定期的に確認、見直すことが期待されます。
③ 後継者候補の選出
後継者候補の選出は、上記「あるべき社長・CEO像」や評価基準に照らして選出するものの、選抜対象とする階層・人数は、企業規模やサクセッション・プランの時間軸によるものと考えられます。
まず、時間的余裕が見込まれる場合には、例えば役員レベルから数名又は数十名程度の候補者を対象として選出し、「あるべき社長・CEO像」に近づけるべく「最後の仕上げ」としての育成を行うことが考えられます。ただし、このような場合でも、不測の事態に備えて中長期的な後継者候補のみならず、短期的な後継者候補もリストアップすることが望まれます。
次に、近い時期に交代が見込まれる場合には、上級役員等から後継者候補を数名程度選出し、今すぐに社長・CEOの役割を担うことができるのは誰か、という視点で見極めを行うことになると考えられます。
④ 育成計画の策定・実施
前工程で選出された各候補者に、「あるべき社長・CEO像」や評価基準に照らして、目標レベルに到達するための育成課題を明確化の上、育成方針・計画を策定・実施することが重要となります。例えば、タフ・アサインメントにより修羅場を乗り越える経験を積ませることも一案となります。
また、社長・CEO就任から交代までという基本的なサイクルを超えて長期的時間軸で取組む場合は、若手優秀層を早期選抜し、早くから責任あるポジションを経験させる、又はOff-JTを集中的に実施する等、時間をかけて育成することで効果をより高めることも期待されます。とりわけ、社長・CEOの外部招聘がまだ少ない日本では、諸外国以上に(中途採用含む)社内での優秀人材の選抜・育成が重要になると考えられます。
⑤ 後継者候補の評価、絞込み・入替え
後継者候補の状況を定期的にモニタリングして、必要に応じて後継者候補の絞り込みや入替えを行うことが重要になります。また、後継者候補のみならず育成計画の実施状況のモニタリングも同時並行で実施し、必要に応じて育成計画の見直しにもつなげることが、実効性向上に寄与すると考えられます。
また、手続きの客観性を担保するために、モニタリング状況等を指名委員会に定期的に報告し、指名委員会に属する社外取締役の関与を得ることも有益と考えられます。そして、社外取締役と後継者候補の直接の接点を増やし、モニタリングの機会を持つことで、社外取締役によるサクセッション・プランの監督が円滑・適切に機能することが期待されます。
⑥ 最終候補者に対する評価と後継者の指名
もっとも、近い時期に交代が見込まれる場合には、④⑤のステップを飛ばすことも考えられるものの、その際にも最終評価の材料となる情報の提供を通して、実効性ある議論が可能となるよう努めることが期待されます。
⑦ 指名後のサポート
サクセッション・プランの先進事例
サクセッション・プランの先進事例として、コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー特別賞・経済産業大臣賞(社長の後継者計画に関する優れた取組を行う企業へ授与される賞)の直近受賞企業をご紹介します。
- フジクラ(2025年度)
- 横河電機(2024年度)
- マニー(2023年度)
フジクラ
フジクラについて、以下が選定基準として挙げられています。
- 計画的なサクセッションプランの推進
現社長は、前社長の体制の下で確立された「経営リーダー育成の仕組み」により、複数の次期社長候補者の中からサクセッション・プログラム(経営上の助言・指導を受ける機会の付与、経営に関する座学研修等)を経て選抜された。また、社長就任を見据えて2020年に本社経営企画部門に登用された際には、常務執行役員として「100日プラン」(上記の背景を参照)の策定・実行を主導する等、経営危機下で厳しい実務経験を積み、指名諮問委員会による面談も行われた上で 2022年に社長に就任している。
- 経営戦略と結びついたボードサクセッション
2026年度から始まる新中期経営計画の策定に併せて取締役に求められるスキルマトリクスの見直しを実施。指名諮問委員会が、社長を含む取締役の選解任議案、選解任基準の決定プロセスを検証するだけでなく、社外取締役の具体的な人選にも関与する等、「稼ぐ力」を高めるためのボードサクセッションの取り組みが実行されている。
- 戦略ストーリーを軸にした人材育成
「すべての事業で戦略ストーリーを語れるようにする」という考え方に基づいた人財育成が徹底されている。フジクラでは年代別に複数の経営人財プールを作成した上で、CEOら経営陣が「事業戦略はどう考えるか」、「経営危機からどう立ち直ったか」等を語る機会や、世代やバックグラウンドの異なるメンバーが集まり、フジクラが優先的に取り組むべき特定テーマについて多様な視点から議論を重ねる機会が確保されている。これらの取り組みを通じて、現経営陣の考え方や行動に直接触れ、実践的な課題解決に携わることで、経営者として必要な経験を早期に積み重ねることができる育成プログラムが構築されている。また、事業家育成の取り組みとして、年代を問わず社長に直接アイデアを届ける仕組みがあり、採用された際には人的・財政的支援を伴った上で社長と、「なぜこの事業が成立するのか、どのような顧客に、どういった価値を提供でき、どう競争に勝って行くのか」といった戦略ストーリーづくりを議論する場が設けられ、中長期的に企業価値を高めるための人財を継続的に育成する仕組みが整備されている。
- 実効的な取締役会構成
危機的状況下で実施した経営体制の抜本的な改革(上記の背景を参照)以降、取締役会の実効性向上を図るべく取締役会の構成等を継続的に見直しており、取締役会は社外取締役を過半とすることを原則として、現在ではグローバル企業の社長・副社長経験者を社外取締役(監査等委員でない取締役)に選任する等、経営戦略と整合性あるコーポレートガバナンス改革を志向・実行した上で、現在の体制が有する課題等も認識し、現状に満足せず、より優れた体制や仕組みづくりが目指されている。
- 優れた財務パフォーマンス
2020年以降、経営管理の継続的改善に取り組み、損益分岐点管理の高度化、限界利益率管理の徹底やキャッシュコンバージョンサイクル短縮等により収益構造が抜本的に改善された結果、2024年度の連結決算で、純利益が4期連続で過去最高を更新し、ほぼすべての事業部門が2023年度から始まった中期経営計画の目標を1年前倒しで達成する等の顕著な業績を挙げている。また、ROEやROAが上昇傾向にあるなど高い財務パフォーマンスを実現し、 高水準のPBR やTSRに表れているように市場評価を得ている。
同社は以下*3のように課・グループ長のレイヤーから候補者を選抜したうえで、想定ポジションを念頭に置いた個別の能力開発や経験獲得の機会を提供することで、安定的に経営者候補となる人材を輩出しています。
横河電機
横河電機について、以下が選定基準として挙げられています。
- 2015年の設置以来、指名諮問委員会(当時)は、次期社長や役員の選考と育成を目的とした経営者育成・評価プログラムを策定し、運用している。同プログラムでは、次期社長や役員に求められる資質や人物像を明確にするとともに、複数の候補者を選定し、研修や挑戦的な職務経験などを通じた育成や評価(外部機関を活用した第三者評価、360度評価を含む)を行っている。2019年に就任した現社長は、同プログラムの中での4年間にわたる育成や評価などの結果に基づき選定されている。また、社長の選定基準については、同委員会での議論に基づき、随時の見直しが行われており、次期社長の評価・育成・選定を含む実効的な指名プロセスが構築されている。
- 指名委員会において選定・再選定・解職の基準及びその手続を定めており、毎年、指名委員会が、単年度の業績、中期の数値目標の達成、後継者の育成、リーダーシップ(360度評価)等を含めた8項目(現在)の評価基準を用いて代表執行役社長の評価を行うこととしている。当該評価結果とサクセッションプランも踏まえて再選定に関する審議(被評価者である代表執行役社長は一時離席)を行っており、代表執行役社長の再任・不再任プロセスの客観性、透明性、継続性が確保されている。また、当該評価結果は、良い点、改善点と合わせて代表執行役社長にフィードバックされ、翌年度以降の経営執行に有効に活用されている。
- 指名委員会委員長及び取締役会議長がいずれも独立社外取締役である。また、執行側からの提案により、本年度より、指名委員会等設置会社に機関設計を変更し、経営における監督と業務執行の機能・役割を明確に分離し、監督機能を強化するとともに、業務執行については執行役として結果責任を負う体制とし、業務執行・意思決定の品質とスピードアップを図る等、コーポレートガバナンス改革を着実に進めている。
- ビジネスモデルをプロダクトアウトのモデルからソリューション型に変え、地域会社含めて事業セグメントを石油・ガス中心のものから3つのセグメント(エネルギー&サステナビリティ、マテリアル、ライフ)に改める等、ビジネスモデルの転換に全社的に取り組んでおり、その中で、設備投資等の成長投資も積極的に行う等、経営陣によるリスクテイクが行われている。また、そうしたビジネスモデルの転換について、現場の理解も深まっている。
- PBRやTSRが高水準であり、ROEやROAが上昇傾向にあるなど、高い財務パフォーマンスを実現している。
同社は以下*4のように、指名委員会の社外取締役比率を80%とした上で、社外取締役を委員長に任命し、指名における監督機能を強化しています。また、指名諮問委員会と指名委員会を合計15回行ってCEOサクセッションに基づく代表執行役社長の交代を実現しており、指名委員会が機能している様子が覗えます。
マニー
マニーについて、以下の点が選定理由として挙げられています。
- 次期CEOの評価・育成・選任を含む実効的な指名プロセスが構築されている。なお、受賞企業では、あるべきCEO像を定めた上で、以下のプロセスを構築している。
- 次期CEO候補者(複数名)が、あるべきCEO像に基づき自己評価を行った上で、自身に不足していると考える事項について自己研鑽計画書を作成し、取締役会(過半数が独立社外取締役)に提出するとともに、その取組結果について、取締役会に対して中間報告と期末報告を行い、それを踏まえて指名委員会が候補者の絞り込みを行っている。
- 次期CEO候補者(①に基づき絞り込まれた複数名)が、取締役会において、「私の経営持論」をテーマに、「私が目指す5年後、10年後のマニーの姿」と「そのために必要な戦略」について触れながらプレゼンテーションを2回行い(※)、次期CEO候補者を評価している。
※1回目のプレゼンテーションにおける取締役からの指摘を踏まえ、2回目に改善した内容のプレゼンテーションを行っている。
- CEO交代の1年前に、次期CEO候補者の自己研鑽計画書の最終報告を受け、次期CEOを1名に仮決定している。
- 仮決定後も、就任までの1年間、次期CEOが自己研鑽計画書を提出し、期待通り成長できているかについて、取締役会が最終確認を行うなど、慎重なプロセスを経ている。また、その間に次期CEOは、他の執行役と企業の将来像を議論しながら中期経営計画の作成を行うなど、十分な準備期間が確保されるとともに、スムーズな権限移譲が行われている。
同社は以下*5のように、オーナー企業としてスタートした中で、創業家自らがコーポレートガバナンスの重要性を早期から認識し、2004年から委員会等設置会社(現 指名委員会等設置会社)へ移行するとともに、取締役の過半数を社外取締役が占めるという先進的な取組みを進められてきました。また、指名委員会の実施回数も年14回と比較的多く、法定3委員会に加えて「中長期的な企業戦略についての検討と取締役への意見具申」を行う戦略委員会を設置する等、コーポレートガバナンス全般において、先進的に取組んでいることが覗えます。