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男女賃金差異は縮小傾向に ― 経年データ分析から見る傾向と今後の展望 

2025年、企業の男女の賃金差異は3年連続で縮小 変動傾向と今後求められる開示ポイント

  • 2025年7月現在、常時雇用301人以上の企業(11,579社)における正規雇用の男女賃金差異平均は75.5%。前年の74.9%から0.6%縮小
  • 直近3年分のデータ比較では、2年前に比べ6割以上の企業で賃金差異が縮小。昨年対比では差異が拡大した企業があるものの、それは差異縮小に向けた施策に伴う過渡的な拡大である可能性がある
  • 2年間で賃金差異が縮小・拡大に関わらず企業における女性管理職比率は増加傾向にあり、賃金差異の是正は継続的な努力と中長期的視点が不可欠
  • 2026年4月施行の女性活躍推進法改正を受け、より多くの企業に自社の現状を社会や市場に対して開示し、説明が求められる。今後は単なる数値公表にとどまらず、差異理由を含めて改善プロセスを示す姿勢が重要


常時雇用する労働者が301人以上の企業に対し、男女の賃金差異の公表が義務化されてから約3年が経過している。2023年・2024年に引き続き、マーサージャパンは、厚生労働省「女性活躍推進企業データベース」の2025年7月8日時点のデータを基に、男女の賃金差異について分析を行った。

全体として縮小傾向が確認でき、経年データからも2年前と比べ6割以上の企業で賃金差異が縮小していることが分かった。単年の変動では拡大した企業もあるものの、その背景には女性採用比率拡大等の積極的施策が影響している可能性もあり、必ずしも後退を意味するものではない。重要なのは、短期的な変動にとらわれず、中長期の計画をもって施策を講じることである。2026年4月施行の女性活躍推進法改正により、これまでよりも多くの企業に自社の現状を開示し説明する責任が求められることとなる。今後は数値とともに取り組みと進捗を開示し、継続的改善への姿勢を社会に示すことが肝要だ。

男女賃金差異(正規雇用/平均)は縮小傾向に

前回(2024年7月8日時点)と今回(2025年7月8日時点)の企業の男女の賃金差異(男性の賃金を100とした時の女性の賃金)を比較すると、常時雇用労働者301人以上の全企業平均で75.5%と、昨年の74.9%から0.6%ほど差異が縮まっている。2023年から2024年にかけてはデータ登録企業が大幅に増加したが、2024年から2025年にかけてはデータベース登録企業数に大きな変化は見られなかった(2024年12,414社、2025年11,579社)。また、3年間の集計でいずれもデータの登録があった企業(4,360社)に絞り、昨年と今年の平均を比較すると、正規雇用の男女賃金差異は74.2%から74.9%と全企業平均と同程度の0.7%の縮小幅となり、賃金差異は縮小傾向にあることが分かった。

業種別の傾向は例年と大きく変わらず、これまでと同様の特徴として、保険・銀行などの金融業では差異が大きく、サービス業である福祉、教育や医療では差異が小さい傾向が見られる(詳細:表2)。

男女賃金差異の経年変化:縮小企業が6割超。ただし、「賃金差異拡大すなわち後退」とも限らない

今年の分析では、3年分のデータを使用して男女賃金差異(正規雇用)の変化に着目した。2年前と比較して男女賃金差異が縮小した企業が約6割に上り、冒頭でも述べたように、全体としては縮小傾向が確認された。これは、各社が多様な施策を通じて改善に取り組んでいる成果が表れつつあることを示唆している(図1)。

図1. 2年前→今年の結果比較円グラフ

出所: マーサージャパン
また、2年前から1年前、1年前から今回の単年の変化を見てみると、2年前から1年前の変化と比較すると、1年前から今回にかけて、より多くの企業で賃金差異の数値が縮小した(図2)。

図2. 賃金差異(正規)の変化

出所: マーサージャパン
また、各社の2年間の賃金差異の変化を表1のように分類し、集計を行った結果は図3の通りである。

表1. 各社における2年間の賃金差異の分類比較

出所: マーサージャパン
全体としては2年間で賃金差異は縮小傾向にあるが、賃金差異が一時的に拡大している企業も存在し、また結果が毎年変動するケースも見られた(図3)。図2に見られるように、賃金差異が縮小した企業が増えた一方で拡大した企業も増えたということから、全体として縮小傾向にあるからといって、「良い状態」とは言えないのでは?と思われるかもしれない。しかし、賃金差異の拡大は必ずしも後退を意味するわけではなく、むしろ積極的な施策の影響で一時的に数値が動く現象も発生しうるということを考慮する必要がある。

図3. 賃金差異(正規)2年間の変化

出所: マーサージャパン

たとえば、女性管理職比率の引き上げは女性全体の平均賃金を押し上げ賃金差異の縮小に寄与するが、同時に女性社員を増やす施策として新卒採用の女性比率を大幅に高めた場合など、低い給与レンジの層に女性が多く加わると、結果として女性全体の平均給与を下げる効果が働き、一時的に賃金差異が拡大する可能性がある。このように、複数の要因が重なり合うことで短期的な賃金差異拡大が発生する場合があるが、このような変動は長期的改善に向かう過程の一部と位置づけることが適切である。

表1の分類別に2年前と今年の女性管理職比率の数値を比較し集計したところ、2年間で賃金差異が拡大したグループ(悪化継続・変動_賃金差異拡大)においても女性管理職比率の増加が一番多くを占める結果となった。また、データベースに登録されている3,238社における女性管理職比率についても過去3年間で着実に増加しており、2023年の13.2%から2025年には15.3%に上昇している。この結果からも、各社が改善に取り組んでいる様子が見て取れ、前述したように賃金差異の拡大が必ずしも状況の後退を意味するわけではない。

図4. 女性管理職比率 2年間の変化(賃金差異変化分類別)

出所: マーサージャパン
男女賃金差異の算出・評価を行うにあたっては、単年度の数値のみを見て一喜一憂するのではなく、複数年にわたる推移を観察し、施策が中長期的に改善に結びついているかを把握することが重要である。現に今回の分析でも、毎年数値が変動している企業のうち、その半数以上は2年前よりも今年の数値の方が改善したという結果が見られる(表1、期間変動のうち縮小:800社/期間変動計1,402社)。賃金差異是正に向けた取り組みそのものは一過性ではなく、継続的な努力の積み重ねであることを理解し、一時的な数値の変動を恐れることなく中長期の計画をもって施策を講じることが女性活躍推進の取り組みを進める上で重要となる。

法改正を受けて継続的に改善を目指すプロセスの開示へ

2026年4月からは、男女賃金差異の開示が現時点の301人以上から101人以上の企業に拡大され、さらに現時点では任意の開示項目である女性管理職比率が101人以上の企業に対して開示が義務化される予定である。より多くの企業に自社の現状を社会に対して開示し、説明する責任が求められることとなる。今後は「数値の開示」と「取り組みとその進捗の開示」をセットで行い、継続的に改善を目指すプロセスそのものを開示することが、ステークホルダーからの信頼獲得につながるのではないか。

本調査では、2025年7月8日時点の業種別の賃金差異水準を明らかにするとともに、男女賃金差異の変化に着目し、数値の変化を評価する上でのポイントをご紹介した。本内容が、皆様の組織における女性活躍推進の取り組みを検討する際の参考になれば幸いである。

表2. 業種別賃金差異平均一覧

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