マーサーは新たに拡大したマーシュブランドの一員となり、より一層の価値をご提供します。

定年延長をはじめとする人事課題にどう向き合うのか? 

島津製作所の『総報酬サーベイ』導入・活用に見る問題解決のヒント

2025年に創業150周年を迎えた株式会社島津製作所は、分析計測機器や医用画像診断機器などの分野で誰もが知る世界的企業だ。同社が報酬制度に関する各種課題解決のために導入したのが、マーサージャパン株式会社の『総報酬サーベイ』。産業別、企業規模別、職種・職位別、ジョブといったさまざまな切り口で、報酬データを参照・比較分析できるプロダクトだ。

今回は、島津製作所人事部の谷川直之氏、辻本真祐氏、マーサージャパンの増渕匡平、四野宮祥子の対談を通じて、『総報酬サーベイ』導入の背景や導入後に浮かび上がった新たな課題、その解決へとつながるサーベイの活用についてお伝えする。(以下敬称略)。

※HRプロ転載記事
※所属・役職はインタビュー時のものです

谷川 直之氏

株式会社島津製作所
人事部 人財戦略企画室 室長

新卒で株式会社島津製作所に入社し、人事部に配属。人事制度の企画や労働組合の対応をはじめ、人事異動や評価の運用などさまざまな人事業務を経験。2018年に韓国のグループ会社に出向し、新会社の人事制度の整備に携わる。2021年に本社に戻り、現在は島津グループ全体の人事制度や人財戦略の担当として活躍している。

増渕 匡平

マーサージャパン株式会社
プロダクト・ソリューションズ部門 代表

日系証券会社の営業部門および人事部門を経て、2010年にマーサージャパン入社。総報酬サーベイに関する、既存顧客の運用支援や新規顧客の導入支援に従事。2021年にプロダクト・ソリューションズ部門の責任者に就任。日本で3,500社を超える同部門のクライアントに対して、組織人事領域における典型的なイシューを特定し、標準化されたソリューション(プロダクト)を通じて支援している。

辻本 真祐氏

株式会社島津製作所
人事部 人財戦略企画室 グループ長

新卒で不動産会社に入社し、営業としてキャリアをスタート。その後、人事にキャリアチェンジ。2社目の半導体メーカーでは10年、3社目の化学メーカーでは5年人事を経験。2023年の9月、株式会社島津製作所に中途入社。人財戦略企画室 戦略企画グループ長として島津製作所の人事制度企画・運用、労働組合の対応を主に担当している。

四野宮 祥子

マーサージャパン株式会社
プロダクト・ソリューションズ部門 カスタマーサクセス マネージャー

新卒で日系通信会社に入社し、法人営業やパートナー営業を経験。その後、中小企業向けのICT ソリューションに関するカスタマーサクセス業務に従事。2023年10月、マーサー ジャパン株式会社に入社。総報酬サーベイをはじめとした、クライアントのデータ活用を支援している。

データの参照で自社の現状や立ち位置が見えてくる

増渕 われわれマーサーが提供する『総報酬サーベイ』は、島津製作所様をはじめ現在、日本では約 1,600企業・組織にご参加いただき、マーケットの実態把握や報酬制度の設計など、多様な場面で 「根拠ある意思決定」を支えています。 島津製作所様では、どのような目的で『総報酬サーベイ』を利用されているのか、解決したかった課 題や活用シーンについて、まずはお聞かせください。
谷川 定年延長への対応、つまりそれまでの年功的な報酬体系を見直す必要に迫られたことが 一番のきっかけです。定年延長は社会的な課題として注目され、従業員の人生設計にも関わる大きな取り組みです。ただ定年間近のベテラン社員ばかり意識した仕組みでは、若手社員たち が「自分たちの活躍の場が狭められるのではないか」という懸念を抱く可能性もあります。若手社員もしっかりとキャリアプランを描けるような制度・体系を構築しなければなりません。

辻本 人事制度全体の企画・運用が、私たちの仕事です。“報酬”だけに絞っても、さまざまな層や立場の人たちについて考えなければなりません。例えば新卒初任給や平均賃金に関しては、経済産業省や中小企業庁が発表する平均賃金/モデル賃金などを参照しながら、関西の企業間で情報交換も行っています。しかし、それだけでは不十分だと感じました。経営層に何らかの説明・提案する際にはマーケットデータが不可欠です。

ふだん接点のない業界・企業の報酬情報を得られる『総報酬サーベイ』は大きな判断材料となります。『総報酬サーベイ』は、比較対象とする企業群をピアグループとして設定でき、等級ごとの報酬レ ンジも参照可能なため、自社の立ち位置や水準を明確に把握できることに大きな価値を感じていま す。制度設計や経営への提案などにも活用しています。

 

四野宮 客観的かつカスタマイズ可能な報酬データを、何度でも抽出・比較・検証し、意思決定へとつながる議論に役立てていただく。こうした多様な活用ができる点も、『総報酬サーベイ』の価値のひとつだと考えています。

また島津製作所様にとって喫緊の課題だった定年延長に関していえば、『総報酬サーベイ』では1歳刻みから年齢別のデータを参照できますし、再雇用者の報酬を抽出することも可能です。職種も細かく設定できるため、高度な専門技術を持っていらっしゃるベテラン社員だけを見ることもできます。そうした仕様も、お役立ていただけたのではないでしょうか。

 

谷川 「定年の前後で仕事自体は大きく変わっていないのに報酬だけは見直しされている」など、アンバランスな部分が客観的に見えてきました。

辻本 もともと弊社における再雇用の報酬水準 はそれほど高くなかったため、総報酬サーベイも参考にしながら引き上げを行いました。今後は職務レベルに応じたより納得感のある報酬設定を取り入れるなど、雇用情勢に合わせた制度を検討していくことになりそうです。

課題解決への道筋を開く『総報酬サーベイ』の活用

増渕 比較対象となるピアグループは、どのようなポリシーで設定されたのでしょうか。関西・京都 という地域性についての考えもお聞かせください。

 

谷川 採用で競合となる企業のほか、労働組合が重視する同業界などを中心に設定しています。新卒は全国からの採用となりますが、キャリア採用の場合は関西エリア内での転職というケースも多いので、地域性も確かに意識している点ではあります。

 

四野宮 『総報酬サーベイ』では地域ごとの報酬水準をご覧いただけますし、職種・役割・等級をかなり細かく設定してデータを出すことが可能です。島津製作所様における職種・役割・等級との整合性を意識してデータ抽出すること、つまり、島津製作所様の制度と同じ物差しで市場を見られるようにすることが重要ですので、サポート時はその点をご理解いただけるよう詳細にご説明させていた だきました。

 

辻本 弊社と『総報酬サーベイ』内の等級レンジの比較や基準合わせについて、細かくアドバイスしていただけたことは、本当にありがたいと思いました。

 

増渕 ここ数年は人材の流動化が進み、これまでの採用競合・事業競合以外にも視点を広げる必要性が増しているのではないでしょうか。

 

辻本 基本的には同規模もしくは2倍程度までの事業規模+日系のメーカーという視点で絞りこめば、それほど大きく外れてはいないと思います。ただ弊社は事業部門が多彩なので、ひとくちに “競合”といってもどこを重視するかは悩みどころですし、業界によって報酬水準が大きく異なることもあります。比較・検証を進めるにあたって、ピアグループの入れ替え・切り替えが、もう少しフレキシブルにできればさらに助かります。

 

四野宮 ピアグループの設定では、データの機密保持の観点から、特定企業の報酬レンジを類推できないよう、複数社以上の入れ替え制約を設けています。もし作成にお悩みがある場合は、グループを組む前に比較目的やご活用の背景を事前にご共有いただければ、どんな企業で何社ほどのグループを組むべきかといった方針をご案内させていただきます。

またピアグループ設定のコツや、効率化できるツールの機能についてもアドバイスいたします。さらにデータのアウトプットについては、簡単にグラフ化できるツールもご準備しておりますので、 データ抽出の前準備から後工程まで、しっかりサポートさせていただきます。

増渕 採用したい人材が属している人材市場をどこに設定するかは、報酬戦略の出発点になります。ピアグループの設定は、報酬水準を単に比較する作業ではなく、どのような企業群・どの業界の人材と競争する前提で報酬を設計するのかを定める、戦略的な工程だと考えています。

多くの日本企業・組織の皆様が『総報酬サーベイ』に参加してくださり、弊社側でもユーザーインターフェースの日本語化プロジェクトが進み、 データ入力時や抽出・確認の操作が日本語で行えるようになりました。データそのものだけでな く、”使いやすさ”の面でも継続的に改善を図っています。

 

辻本 それは私自身としても助かりますし、今後担当者が変わった際にも馴染みやすいはずなので、大きな魅力です。ただそうした便利さ以上に、こちらが抱えている疑問や悩みを投げかけると即時に対応してくださる、という点に安心感を覚えています。

四野宮 リアクションの速さ・正しさは常に心がけているところですが、お問い合わせに対応するだけでは不十分と考えております。お客様が気になると思われるポイントを先取りしてご支援させていただくことが、われわれカスタマーサクセスの存在意義でもあります。

「給与と賞与のバランス」という問題にも データ活用が有効となる

増渕 『総報酬サーベイ』の活用法も含めて、御社の人事制度、特に報酬関連についての新たな課題や将来的な展望をお聞かせいただけますか。

 

谷川 定年延長への対応だけでなく、急上昇を続ける最低賃金や初任給、人材の流動化など、意識を向けるべきポイントは多々あります。

『科学技術で社会に貢献する』が島津製作所の社是です。さまざまなことに挑戦し、イノベーション を生み出してきたからこそ企業として150年も持続してこられたのだと思います。これからさらに 150年、と考えると、やはりイノベーションをリードしていくような人材を確保していかなければ ならないでしょう。特定の職種・人材に見合った報酬など、細かくチェックしながら制度を整備していく必要性を感じています。

 

辻本 最近では「AIエンジニア」の確保・定着も課題と感じています。そうした貴重な人材について、 既存の仕組みとは別の制度や採用手法の導入も考慮しなければならない可能性もあります。『総報酬サーベイ』を活用しながら模索していきたいと思います。

また企業の社会的責任として“報酬水準の引き上げ”は不可避だとは思うのですが、あるポイントだけでなく全体のバランスを見ながら引き上げなければなりません。業績に大きく関わることであ り、悩ましい部分です。将来的には給与と賞与のリバランスも含めて考えていくことも必要だと感じています。

 

谷川 年収における賞与の比重が比較的大きい点が弊社の特徴です。採用やリテンションなどの点から、報酬の構成を見直すことを考えなければならないかもしれません。

 

四野宮 確かに近年は報酬の構成バランスについてのご相談は増えています。弊社が2025年10 月に実施した「賃上げ動向に関するスナップショットサーベイ」でも6割の企業が「報酬の構成バランス見直しを検討している」とお答えになっていて、皆さんが悩んでいらっしゃることを肌で感じ ています。

給与(基本給)を上げれば求人票・求人広告に掲載される数字のインパクトは大きくなり、採用の面 では有利になるでしょう。とはいえ原資は限られ、賞与での調整が難しくなるというリスクもあります。

 

辻本 基本給の引き上げは残業代などにも波及しますから、給与・賞与のリバランスは慎重に検討すべき課題です。他社の動向も早めにキャッチしていく必要がありそうです。

 

増渕 皆様が悩まれることのひとつは、「限られた原資をどこに、どれだけ配分すればよいか」という点だと思います。マーサーの『総報酬サーベイ』では、基本給・各種手当・賞与など、報酬項目ごとの市場水準をそれぞれ参照できますので、どの層・どの職種に厚く配分すべきかを定量的に検証することが可能です。あわせて、市場動向の調査報告や他社事例の情報提供などを通じて、制度の持続性と競争力の両立をご支援できればと考えています。

たとえば基本給について、職種間の差を設けることで調整している事例があります。『総報酬サー ベイ』はジョブディスクリプションや等級定義の細やかさが特徴であり、どの仕事・どの役割にどれだけ配分するべきか、詳細に検証していただけると思います。

専門人材に“選んでもらえる会社”を目指して

増渕 最後に『総報酬サーベイ』の活用法に限らず、われわれマーサーにご要望があればお聞かせください。

 

辻本 人事として他社の皆様とのつながりを大切にしています。ただ、どうしても同じ業界・同じ地域に偏ってしまう傾向がありますので、さまざまな業界・業種の方々と接点を作れるような機会をご用意いただければ嬉しく思います。

四野宮 毎年『総報酬サーベイ』の結果報告会を東京・大阪・名古屋で開催しています。 その場では企業様同士の交流会も設ける予定ですので、ぜひご参加ください。

 

増渕 とはいえ私たちとしても悩ましいの が、交流の場をご用意しても、参加される皆様の属性が偏ったりバラついたりする点で す。人事の仕事は『総報酬サーベイ』に関わる領域だけでも、制度設計・企画、運用、給与計算、採用などと幅が広く、ディスカッションしたいテーマも異なることでしょう。

セミナーなどで特定のテーマに関心のある方々に集まっていただき、そこでグループワークや情報共有の時間を設けることが有効なのではないかと考えています。各種のセミナーは随時実施しておりますので、そちらへの参加もご検討ください。

また「あの企業の人事の話を聞きたい」、「インタビュー記事で読んだこの人と会ってみたい」といったお声がけをいただければ、企業様同士をおつなぎし、情報交換の場をご提供することも考えられるかもしれません。

 

辻本 「専門人材をどう育成していくか?」というテーマで、先進的な取り組みをされている企業様のお話はぜひ伺いたいところです。

 

増渕 優秀な技術者を数多く輩出され、イノベーションを起こし続けてきた島津製作所様でも、悩んでいらっしゃる部分なのですね。

 

谷川 自分がやりたいことに人を巻き込みながら取り組む。そんな熱意を持った優秀な技術者が多いのですが、その良さを育成面に生かしきれていないのが課題です。社員の自律的な取り組みが会社の持続的成長につながるよう、リードしていくのも人事の役割。専門性の高い人材の育成は非常に大きなテーマであり、育成の体系作り、技術やノウハウの継承方法、そのための場の作り方、処遇などは、ぜひ学ばせていただきたいところです。

 

辻本 専門人材の採用は難しくなる一方でしょう。“選んでもらえる会社”になるためにも、育成体制や報酬面も含めて「島津製作所で働くことには、こんなメリットがある」と感じてもらわなければ なりません。そこへ向けて、今後もさまざまなご相談をさせていただければと思っております。

 

四野宮 本日お話を伺って、『総報酬サーベイ』の活用以外にもご支援すべき部分があることがわかりました。弊社の他の部署のご紹介も含めて、ご要望にお応えしていきたいと思います。

 

増渕 長い歴史の中で積み重ねてこられた技術力と人材力を土台に、データを活用して目に見えない付加価値を見える化し、ビジネスとして提供されているというイメージを島津製作所様に抱いています。報酬水準の見直しという人事施策の面でも同様に、データ分析をもとに建設的に進めておられるのは島津製作所様らしいスタイル、『総報酬サーベイ』利用のモデルケースになる事例だと感じました。同じような課題をお持ちの企業様にも、まずは自社の報酬構造や賃金カーブを客観的な市場データと照らし合わせてみることから、次の一歩が見えてくるのではないでしょうか。

また定年延長への対応では若手とのバランスも取る、技術者を育てるための課題意識など、イノベーションに励む組織文化を維持・醸成するための姿勢も、多くの企業にとって参考になるお話でした。島津製作所様のように魅力ある会社が、悩みながらも未来に向けて歩んでいらっしゃる、それこそが“選んでもらえる会社”につながるのだと思います。

われわれマーサーも、島津製作所様が明るい未来を描いていくための一助として『総報酬サーベイ』 などでご支援させていただきたいと思います。 本日は貴重なお話、ありがとうございました。

Related Solutions
    Related Insights