三井化学が労使交渉の現場でデータを活用する意義と意味
『総報酬サーベイ』のデータ活用で 人と組織に幸せをもたらす
現在、日本で約1,600企業・組織が参加し、多くの企業から支持を得ているマーサージャパン株式会社の報酬調査『総報酬サーベイ』。この『総報酬サーベイ』のデータを、報酬制度の改定のほか、ベースアップの労使交渉にも活用しているのが三井化学株式会社だ。
今回は、同社人事部の古村達也氏、門田智充氏をお招きし、マーサージャパンの増渕匡平、浜田伸樹との対談を実施。『総報酬サーベイ』のデータを活用する意義やメリットについて詳しくお話いただいた(以下敬称略)。
※HRプロ転載記事
※所属・役職はインタビュー時のものです
古村 達也氏
三井化学株式会社
人事部 報酬・就業グループ サブグループリーダー
1992年、三井化学株式会社に入社し、本社人事部で採用・研修業務を担当。1996年から米国統括会社に駐在し、1998年以降は研究所・工場で人事労制業務を経験。2002年より本社人事部にて、事業統合プロジェクトや管理職人事制度、再雇用制度の企画、統合人事データベースの刷新などに携わる。2011年からは報酬制度や海外制度の企画・運営、報酬実務全般の管理(BPO含む)と効率化推進を担う。2023年4月の新人事給与システムの本番稼働をPJリーダーとして主導。
門田 智充氏
三井化学株式会社
人事部 報酬・就業グループ報酬チームリーダー
2016年、三井化学株式会社に中途入社。前職では工場の人事・労務業務に従事、中国上海での海外駐在も経験。三井化学入社後は、研究所の人事・労務や採用・研修に従事。2018年に本社人事部に異動し、役員・管理職・一般職の報酬制度企画、海外制度企画、労働組合窓口、事業統合プロジェクト参画などに携わる。2025年4月から報酬制度の企画と管理・運用の部署が統合し、現職。
増渕 匡平
マーサージャパン株式会社
プロダクト・ソリューションズ部門 代表
日系証券会社の営業部門および人事部門を経て、2010年にマーサージャパン入社。総報酬サーベイに関する、既存顧客の運用支援や新規顧客の導入支援に従事。2021年にプロダクト・ソリューションズ部門の責任者に就任。日本で3,500社を超える同部門のクライアントに対して、組織人事領域における典型的なイシューを特定し、標準化されたソリューション(プロダクト)を通じて支援している。
浜田 伸樹
マーサージャパン株式会社
プロダクト・ソリューションズ部門 カスタマーサクセス シニアマネージャー
新卒で日系大手印刷会社に入社し、営業として活躍。その後、日系SaaSベンダーに転職し、カスタマーサクセスを2年経験した後、2022年2月マーサージャパンに入社。総報酬サーベイを中心とした報酬・福利厚生関連プロダクトのカスタマーサクセスとして、契約されたクライアントの活用および継続支援をメインに担当。
豊富なデータ量と分析の自在性が『総報酬サーベイ』の魅力
また、当時はグローバルモビリティが加速し、国をまたいだ異動のルールや各国の労働市場を踏まえた報酬マネジメントの在り方などについて検討を重ねていた時期でもありました。
門田:現在の『総報酬サーベイ』の活用法としては、いくつかのシーンがあげられますが、一番は大規模な報酬制度改定の際で、直近では管理職の報酬制度改定において、競争力のある報酬水準の検討に活用しました。その他には、初任給改定やDX人材の報酬水準の検討などに活用しており、活用領域は拡大しています。
一般的な報酬データでは、任意のデータカットに基づき報酬水準を分析することは難しいですが、マーサーさんの『総報酬サーベイ』は、オンライン上で容易に、さまざまな観点でデータをカットし、報酬水準を分析できることが大きな強みだと思っています。
浜田:雇用の流動性が高まり、また最先端の専門知識・技能を有する人材のニーズは増大しています。報酬水準の検討・決定においては、同業他社や近しい業界のデータだけでは足りない、まったく新たな人材を採る必要もある、そんな時代になったといえるでしょう。
その点で、『総報酬サーベイ』は、職種別や年齢別など、さまざまな切り口でデータ分析が出来る他、比較対象企業の絞り込みも自由度高く行っていただけますので、幅広い報酬分析のニーズに応えられるものと考えています。また三井化学様は弊社における職務評価手法である『ポジションクラス』の考え方も取り入れてくださっておりますので、“職務等級”という切り口も合わせて、多角的に、かつ細かく報酬水準をチェックしていただけているのではないでしょうか。
市場報酬データを活用した新しい労使交渉の形を実践
増渕:近年、労使交渉の場でも客観的な市場データを活用する企業が増えつつあります。三井化学様がベースアップ交渉で『総報酬サーベイ』のデータを用いられた経緯や効果をお聞かせください。
古村:弊社では毎年、会社と労働組合がベースアップの交渉をしています。労使交渉に臨むにあたっては、社会情勢や同業他社の動向を踏まえながら、会社としての基本スタンスを決めていますが、特に同業他社の動向については、大手化学メーカー数社の動向を労使ともに重視していました。
しかしながら、雇用の流動化や人材獲得競争の激化などの社会情勢が急速に変化してきたことから、同業のみならず、業界団体や国の統計データなど、さまざまな切り口で複眼的・客観的に見ていくことが、労使双方にとって重要になってきました。そのような背景もあり、『総報酬サーベイ』のデータを労使交渉で活用することを検討し始めました。
必ずしも数値では表し尽くせない組織風土やモチベーションなどのアナログ的な要素を踏まえることの重要性は今後も変わらないと考えますが、労使交渉の場において、より客観的な報酬水準をしっかり見ていこう。そうした考えに至ったことは、自然な成り行きだったと思います。一定の客観性が担保されている複数のデータを労使とも同じ目線で見て冷静に議論する方向へ進むことにしたわけです。
門田:ただ最後に決断を下すのは人です。ベースアップ水準などは、弊社の報酬水準や業績、物価動向などを総合的に勘案し、会社と労働組合それぞれのトップが意思を込めて判断することになりますので、さまざまな角度から考えられるようなデータを意識して労使交渉で提示しています。
古村:確かに、ひとくちに“化学”といっても製品の幅は広く、プロジェクトは多岐にわたります。それぞれの事業領域で勝ち抜いていけるかという観点でも、さまざまなデータを見ていかなければならないと感じています。
門田:以前は“総合化学”という狭い枠組みの中で、同業3 ~4社で報酬水準を比較すれば十分でした。ただ、近年は人材獲得・確保競争が激化しており、弊社の場合は、比較対象企業の範囲を広くして、報酬水準を見ることが必要だと考えており、経営層も業界広く報酬水準を確認する必要性を認識しています。また、労働組合には『総報酬サーベイ』のデータを使用することで、報酬を取巻く環境は変わったということを伝えています。
具体的な比較対象については、例えば、初任給なら、採用チームに話を聞き、採用における競合企業を選定しています。報酬データベースによる「デジタルデータ」と人材獲得の最前線に立っている部署の「実感や肌感覚」を確認、統合し、報酬水準を形成しています。
データの理解、交渉での活用、そして検証へ。
継続した取り組みが重要
浜田:『総報酬サーベイ』において、ベンチマークとする企業を選択する際のポイントがいくつかあります。その1つが、まさしく「幅広く見る」という姿勢です。
その設定粒度はかなり重要で、例えば日系企業より外資系企業の方が全体傾向として報酬水準が高く、比較する産業によっても報酬水準の傾向は大きく異なる場合があります。よって、会社の現状や目的に合わせて、より有効なデータカットを探っていくようアドバイスさせていただいています。
門田:今年度のベースアップの労使交渉においては、マーサーさんの『総報酬サーベイ』のデータを使い、弊社の大卒、高卒の職務等級や年齢別報酬水準が、市場水準のどの位置にあるのかを確認するために、いくつかのデータを労働組合に提示しました。
しかし、労使交渉のテーブルにつくメンバー全員が必ずしも統計やデータに詳しいわけではありません。まずはデータの見方や意味を分かりやすく説明することが求められます。報酬水準については、「弊社のある年齢だけ、市場水準対比で低い」といったミクロ的にみるのではなく、マクロ的に全体のトレンドを見て、弊社の報酬水準のおよその立ち位置をつかむことと、1つのデータだけではなく、複数のデータを多角的にみることが大事だと思っています。
『総報酬サーベイ』をもとにして“あるべき報酬水準”を明確にすることが当面の目指すべきところとなるわけですが、まだまだ試行錯誤が必要でしょう。ベースアップの労使交渉には、データに基づき、より根拠を持った報酬水準を提示するというデジタルな取組みを進める一方で、働く人たちの想いにも配慮する必要があると考えています。
『総報酬サーベイ』のデータを労使交渉の場面で使用することは始まったばかりですので、データの見方、意味については、継続的に労働組合に伝えていく必要があり、会社、労働組合双方が『総報酬サーベイ』のデータに対し、共通認識を持つことで、議論の土台にしたいと考えております。
プロダクトの提供側と利用者は、ともに刺激し合い高め合っていく関係
古村:外部労働市場における弊社報酬水準のポジションや将来にわたるコスト競争力維持の観点からは、ベース アップする余地が限られる状況というのも当然ありえます。一方で、世間の賃上げ動向によっては、従業員のモチベーションも勘案する必要があります。
二律背反する考えの中で、われわれ人事は、会社の持続的成長と従業員の意識の双方に目配せし、バランスを取りながらも最適解を追求し続けたいと思います。
増渕:先ほど話に出た「報酬とエンゲージメントの関係に着目すべき」という視点からもわかる通り、報酬はここ数年ホットなテーマであり続けていて、多くの企業に『総報酬サーベイ』のご参加をいただいております。今後は、報酬データをエンゲージメントや離職率の傾向といった複合的な情報と掛け合わせてデータを見ていくことがより重要になっていくと考えています。
古村:マーサーさんの『総報酬サーベイ』を活用し始めてから、「このデータでさらに何ができるか?」と考えるようになりました。例えば、報酬データと職務等級毎の人員数を組み合わせることで、総人件費の効率性を確認することや、離職者の報酬を多角的に分析することなども可能であろうと思います。このように『総報酬サーベイ』の活用方法をさらに深化させていくことにより、組織の魅力向上や成長、リテンションの強化にもつながると考えています。
増渕:三井化学様は、早くから職務ベースの人事制度を整備し、データを活用し、改善を続けながら継続的に進化させてこられた先進的な企業です。制度を「作る」だけでなく、「活かす」ために改善を重ねる姿勢こそが真の強み だと感じています。私たちマーサーとしても、『総報酬サーベイ』のデータや活用法の提供だけにとどまらず、経営・ 人事の意思決定を支える知見や、国内外の最新動向などをお伝えすることで、より多くの企業がデータを通じて”人と組織がともに幸せになる仕組みづくり”を実現できるよう伴走してまいります。
本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。