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KPIとは?意味やKGIとの違い、設定方法、人事評価における重要性を解説 

目標設定や日々の業務において、「KPI」という言葉を耳にしたことがある方は多いでしょう。しかし、どのように活用すればよいのか、明確な答えを持っている方は少ないかもしれません。

成果を出し続けるためには、具体的な指標に基づいた目標設定と進捗管理が不可欠です。
KPIを人事評価に活かすケースもあり、適切な設定と運用が個人や企業全体の成長にもつながります。

本記事では、KPIの基本的な知識や設定方法、メリット、注意点、人事評価への活かし方などを解説します。

INDEX

  1. 3.1. 個々のアクションが明確になる
    3.2. 組織のモチベーションや生産性の向上につながる
    3.3. 客観的な評価基準を設定できる
  2. 4.1. 数値だけに目がいくリスクがある
    4.2. 部門間で摩擦が生じることがある 
  3. 6.1. KGIの設定
    6.2. KSF(CSF)の設定
  4. 7.1. Specific(具体的な)
    7.2. Measurable(測定可能な)
    7.3. Achievable(達成可能な)
    7.4. Relevant(関連した)
    7.5. Time-bound(期限を定めた)
  5. 8.1. 人事部門
    8.2. 参考:その他職種
  6. 9.1. ボトルネックを明らかにする
    9.2. KSFの優先順位を決める
    9.3. 定期的な評価とフィードバックを行う
    9.4. KPIマネジメント(KPI管理)を徹底する

1. KPI(重要業績評価指標)とは?

KPIとは「Key Performance Indicator」の略称で、日本語では「重要業績評価指標」と訳されます。企業や組織が設定した最終目標の達成に向けて進捗を定量的に測るための指標です。

KPIは、活動の進捗を具体的に数値で示すことで、目標達成に向けた軌道修正や改善に活かすことができます。企業の経営方針や戦略、事業の特性、部門が担う役割などによって、設定されるべき内容が変わるのが特徴です。例えば、売上を最終目標とする営業部門では「新規獲得数」や「契約単価」などがKPIとなります。

このように、KPIは部門ごとの最終目標を達成するための道しるべであり、単なる数値目標ではなく、適切なマネジメントを行ううえで欠かせない指標だと言えます。

2. KPI・KGI・KSF(CSF)との違い

KPIと共によく使われる用語に、KGIとKSFがあります。
効果的な目標設定を行ううえで、これらの違いと関係性を正しく理解することが大切です。

まず、それぞれの用語を整理しましょう。

  • KGI(重要目標達成指標):組織が達成すべき最終目標を定量的に示した指標
  • KSF(重要成功要因):設定されたKGIを達成するために不可欠な戦略や活動
  • KPI(重要業績評価指標):KSFが計画通りに進んでいるかを測定するための中間目標

ここで重要なのは、KGIとKPIの関係は相対的であるという点です。ビジネスで追うべき指標が直接KGIに紐づいたものとなるかKPIとなるかは、どの階層で目標を設定するかによって変わります。「階層」とは、企業全体や部門、個人といった組織内の異なるレベルを指します。

例えば、企業全体の最終目標(KGI)を「利益10億円達成」とした場合、これを達成するためのKSFとして「新規市場の拡大」や「既存顧客との関係強化」のような戦略が立てられます。これらのKSFが順調に進んでいるかを測る中間指標(KPI)として「年間売上50億円達成」などが設定されることになるでしょう。

これを営業部門に落とし込むと、企業全体のKPI「年間売上50億円の達成」が、今度は営業部門にとっての KGIとなります。この部門 KGIを達成するため、営業部は新たなKSFを立て、その進捗を測るKPIとして「市場シェア30%獲得」や「新規顧客獲得数」などを設定します。

このように、ある階層のKPIが、その下の階層の KGIになるという構造が生まれることも珍しくありません。それぞれの関係性は目的や組織の階層に応じて変化する相対的なものであると理解することが大事です。

3. ビジネスでKPIを設定するメリット

では、ビジネスでKPIを設定するとどのようなメリットがあるのでしょうか。
ここでは、主なメリットをご紹介します。

 3.1. 個々のアクションが明確になる

KPIを設定するメリットの一つは、個々の従業員が取り組むべき具体的な行動が明確になる点です。

KGIだけでは、日々の業務で何をすべきか具体的にわかりにくい場合があります。中間指標であるKPIが設定されると、目標達成に向けた進捗状況を客観的に把握でき、「今、何をすべきか」が明確になります。
例えば「月間20件の新規商談を獲得する」といったKPIがあれば、そのために必要な具体的な行動計画を個人レベルで立てやすくなります。

さらに、KPIの進捗を追うことで、計画通りに進んでいない原因を解明し、改善策を講じられる利点があります。

 3.2. 組織のモチベーションや生産性の向上につながる

KPIは「明確で測定可能な指標」として設定されるため、組織全体のモチベーションや生産性向上に効果があります。

KPIの設定・共有により、プロジェクトの具体的な目標数値や達成度が可視化されることで、従業員は目標達成への手応えを感じやすくなり、やる気の向上につながります。

また、KPIによって業務の進捗や成果を客観的に評価しやすくなるため、個々の改善点がわかるようになります。従業員一人ひとりの作業効率が上がり、組織全体の生産性も向上するでしょう。

 3.3. 客観的な評価基準を設定できる

KPIは、客観的で公平な評価基準にもなります。具体的な目標数値を定めることで、主観に左右されず、客観的なデータに基づいた評価が可能になります。

これにより評価の透明性が高まり、評価制度に対する従業員からの納得感も得られます。自分が何を達成すれば評価されるかがわかるため、従業員の目標設定やキャリアパスを考えるうえでも役立つでしょう。

4. ビジネスでKPIを設定する注意点

KPIは目標達成に有効な指標ですが、設定や運用方法を誤ると逆効果になる可能性もあります。主な注意点としては以下の2点です。

 4.1. 数値だけに目がいくリスクがある

KPIを設定する際の注意点の一つは、KPIとして設定した数値の達成自体が目的化してしまうことです。例えば「新規顧客の獲得数」をKPIに設定した場合、数値を追い求めるあまり、強引な営業を行うケースもあるかもしれません。これは、長期的な視点で見ると、顧客満足度の低下やブランド価値の低下につながるリスクがあります。

こうした事態を避けるためには、数値目標の達成度だけでなく、目標達成に向けて行っている取り組みも評価する視点が不可欠です。企業理念に基づいた行動がとれているか、顧客と良好な関係を築けているかといった「定性的な評価」を、バランス良く取り入れることが重要になります。

具体的には、以下のような定性的な評価を組み合わせるとよいでしょう。

  • 状態の定義による評価(達成すべき理想の状態にどれだけ近づいたか)
  • 行動プロセスの評価(どのように目標を達成したか)
  • 多角的な評価(バリュー評価・コンピテンシー評価・360度評価)

このように、数値だけではなく、行動の中身を踏まえた評価を行えば、従業員のモチベーション維持と健全な組織運営を両立しやすくなります。

 4.2. 部門間で摩擦が生じることがある

KPIの設定方法を誤ると、各部門が自部門の指標達成のみを追求する事態に陥り、部門間の摩擦や対立を引き起こす可能性があります。これはKPIそのものの問題ではなく、組織全体の目標を、各部門の目標へ一貫性を持って分解できていないことが原因です。

例えば、営業部門に「アポイント獲得数」というKPIを設定したとします。しかし、その後の顧客対応を行う部門の体制強化や配慮がなければ、サポート部門は対応に追われ、結果的に会社全体の顧客満足度や収益性はむしろ低下しかねません。

このような事態を防ぐためには、組織全体の目標との整合性を踏まえてKPIを設計する視点が不可欠です。まず、全部門で共通のKGIを共有し、そのうえで各部門のKPIが互いにどう連携し、貢献するのかを整理しましょう。これにより、各部門は自部門のKPIを追うことが、他部門や会社全体の利益にどうつながるのか理解できます。部門間の健全な協力体制を築くことで、組織全体の力を最大化できます。

5. KPI設定における人事部門の役割

企業の目標達成において、KPIを設定し達成に向けて日々の活動を管理するのは、事業を推進する各ビジネス部門(ライン)の重要な役割です。一方で、人事部門の専門性が発揮されるのは、設定されたKPIを人事制度、特に評価制度へと組み込み活用する段階です。

ここでは、現場のラインマネージャーを支える「パートナー」としての役割が求められます。人事部門の主な役割は、ビジネス部門が設定したKPIを評価に落とし込む際に生じうるリスクを予見し、適切な助言を行うことです。さらに、プロセスや行動の質といった定性的な側面もバランス良く評価できる、公平で納得感のある評価制度を設計・提案することが、人事部門の重要なミッションです。

6. 人事部門における目標・KPIの設定方法

人事部門におけるKPIを設定する場合、まずは組織全体の最終目標であるKGIを明確にし、その達成に必要なKSFを特定します。そのうえで、各KSFの達成度を測るKPIを設定するのが一般的な流れです。
このようにKGI→KSF→KPIの流れで目標と指標を定義することで、従業員は自分の業務が組織全体の目標にどう貢献しているかを理解しやすくなります。

人事部門がKPIを設定する際にはバランススコアカード(BSC)の視点を用いることも有効です。BSCは財務の視点だけでなく、顧客の視点、業務プロセスの視点、学習と成長の視点の4方向から総合的かつバランス良く分析する手法です。人事部門がバランススコアカードを活用する際、それぞれの視点で以下のようなKPIを設定します。

  1. 財務の視点
    →KPI例: 労働生産性、人件費率、ROI(投資対効果)など

  2. 顧客の視点
    →KPI例: 部署別の離職率、従業員満足度調査スコアなど

  3. 業務効率化の視点
    →KPI例: 採用リードタイム、デジタル化率、労務トラブル発生件数など

  4. 学習と成長の視点
    →KPI例: スキル充足率、次世代リーダー育成充足率、資格取得者数など

このようにBSCを活用すれば、人事評価が多面的になり、従業員の行動が企業の成長にどう貢献するのかを捉えやすくなる利点があります。

 6.1. KGIの設定

人事部門においてKGIを設定する際には、経営戦略や事業目標と連動していなければなりません。そのためには、「人材の質」「人材の量」「人件費」という3つの重要な観点から、「組織能力をどう最大化し、会社全体のKGI達成に貢献できるか」を定義することが不可欠です。

例えば、会社全体のKGIが「3年後に売上を20%向上させる」だとしましょう。この目標に対し、営業力の強化が不可欠であるものの、様々な事情から大幅な増員は難しい場合、既存の営業担当者一人ひとりの生産性をいかにして高めるかが重要となります。

現時点での労働生産性を分析した結果、仮に営業担当者が見積書作成などの直接的な顧客価値に結び付きにくい業務に多くの時間を費やしている場合には、その業務を専門のオペレーション部門に集約するといった体制や組織の見直しが必要となるでしょう。

このように、人事部門におけるKGI・KPI設定の本質は、事業課題を解決するための人事的に必要な取り組み事項を考え、その実行プロセスを可視化することです。単に人材を獲得するだけでなく、採用後のアフターフォローや人材の定着や育成、生産能力の向上に向けた取り組みまで考えることが求められます。

 6.2. KSF(CSF)の設定

人事部門におけるKSFの例としては、「優秀な人材の安定的な確保」などが挙げられます。安定して人材を確保するには「応募者数」の指標が必要です。

しかし、応募が多ければ良いわけではなく、優秀な人材となると、求める人物像に合致しているかも指標になります。判断材料となるのは「書類選考通過率」や「内定承諾率」です。

このように、KSFを具体的な要素に分解し「なぜその指標を追うのか」を明確にすることで、人事部門がどの活動にリソースを集中すべきかが明らかになり、より実効性の高いKPI設定へとつながります。

7. KPIにおける目標設定で活用できる「SMART」の法則

KPIの視点も取り入れつつ、目標を設定する際に役立つ考え方として「SMART」があります。SMARTとは、以下に挙げる5つの重要な要素の頭文字を取ったものです。そもそも、KPIを設定する本質的な意味は、目標を明確なもの(Specific)にし、その測定を可能(Measurable)にすることにあります。特に、達成度を客観的に把握するためには、定量的な指標が不可欠です。

これらの要素を満たすようにKPIを設定することで、目標がより具体的になり、達成度を客観的に把握しやすくなります。

 7.1. Specific(具体的な)

Specificは「誰にでも同じ意味に解釈できる明確さが必要である」という考え方です。 例えば「来期中に、販売担当の従業員10名が販売士の資格を取得する」のように、対象者や内容、達成レベルを具体的にする必要があります。

反対に避けるべきは、個人の主観に左右されやすい抽象的な目標設定です。目標が抽象的だと、何を目指せばよいのかが不明確になり、具体的な行動計画が立てにくくなります。

 7.2. Measurable(測定可能な)

Measurableは「達成度を客観的に数値で測れるようにする必要がある」という原則です。例えば「顧客満足度を向上させる」という目標に対しては、「顧客アンケートの満足度を平均80点以上にする」といった具体的な数値で測定できることが重要です。

人事領域であれば「従業員の研修参加率を前年比10%向上させる」「新規採用者の3ヶ月以内離職率を5%未満に抑える」などが考えられます。

反対に避けるべきなのは、どのように測定するかが不明確な指標です。また、測定が非常に困難であったり、測定に膨大なコストや時間がかかったりするものも実用的ではありません。

 7.3. Achievable(達成可能な)

Achievableは「従業員が努力すれば達成できる範囲で設定する必要がある」という原則です。

例えば「未経験の新卒社員を半年でプロジェクトリーダーにする」といった目標は、本人の努力だけでは乗り越えられないこともあり、現実的とはいえません。プロジェクトリーダーという役割は、深い知識やマネジメントスキル、周囲からの信頼などが必要となります。これらは、短期間の研修や個人の努力では身に付きにくく、数年単位の実務経験を通じて習得できるものです。本人の素質ややる気が高くても経験の壁を越えることは難しいでしょう。

このような達成が難しいKPIは、現場に過度な負担をかけるだけでなく、従業員のモチベーション低下の原因にもなります。
そのため、「3ヶ月以内に全従業員と面談し、うち半数について個別育成計画を策定する」のように、期間や範囲を調整し現実的な目標をKPIにするとよいでしょう。

 7.4. Relevant(関連した)

Relevantは、「最終的に、会社全体のKGIや経営戦略と結びついている必要がある」という原則です。組織の目標と関連性の薄いKPIを設定しても、努力が全体の成果につながらず、活動の方向性がぶれてしまう可能性が高くなります。

例えば、会社のKGIが「組織全体の生産性向上」である場合、従業員が仕事への熱意や貢献意欲を高めれば、個々のパフォーマンスが向上し、組織の生産性に直結します。また、従業員の能力を正確に把握し、最大限に発揮されるポジションに配置することも、生産性向上に欠かせません。

この時、「社内研修の実施回数を増やす」「全社員の面談実施率を90%にする」など、活動量にフォーカスしたKPIを設定すると、表面的な数字は達成できるでしょう。しかしそれだけでは、本来目指すべきエンゲージメントや従業員のスキル・能力の向上、会社全体のKGIへの貢献が見込めない可能性があります。

従業員エンゲージメントの向上を目指す場合は「定着率」が指標となるので、「入社3年以内のコア人材の定着率を90%以上に維持する」などが望ましいKPIとなります。会社に魅力を感じている社員は採用候補者の紹介に積極的な傾向があるので、「全採用数に占めるリファラル採用の割合を20%にする」なども指標にできます。

 7.5. Time-bound(期限を定めた)

Time-boundは「いつまでに達成するのかという期限を設ける必要がある」という原則です。期限が設定されていなければ優先度が低くなり、後回しにされてしまいがちです。

例えば「新しい評価制度を導入する」とするだけではなく、 「半年後に試験運用を開始する」のように、具体的な期日の設定が欠かせません。

反対に避けるべきなのは「可能な限り早期に研修プログラムを改善する」といった、具体的な完了時期がないKPIです。達成状況を把握しづらく、評価が難しくなります。 逆算して詳細なスケジュールを立て、進捗管理をしやすくするために、期日をしっかり定めましょう。

8. 人事評価に活かせるKPIの設定例

人事評価にKPIを活用することで、より客観的で納得感のある評価制度の構築が可能です。ここでは、人事部門の主要な業務と、参考としてその他の代表的な職種におけるKPI設定例を具体的にご紹介します。

 8.1. 人事部門

人事部門におけるKPIは、企業の最も重要な経営資源である「ヒト」に関する方針を具現化し、その進捗と成果を客観的に測る羅針盤となります。
また、組織の活動効率や有効性を測定し、メンバーの貢献度を評価できます。
種類 KPI指標の具体例
人材採用
  • 応募者数
  • 書類選考通過率
  • 面接通過率
  • 内定承諾率
  • 充足率
  • 採用コスト
人材活用
  • 重要ポジションの後継者充足率
  • 社内公募制度による異動決定率
  • 上位評価者層の定着率
  • 業務内容の満足度

人材育成

  • 研修コスト
  • 研修の受講者数
  • 研修の満足度
  • リーダー、管理職候補の輩出数
  • 習熟度テストの合格率

労務管理

  • 残業時間
  • 有休消化日数
  • 育休取得日数
  • 労災発生数
  • 退職者数

 8.2. 参考:その他職種

続いて、人事部門以外の職種のうち、「営業」「マーケティング」「カスタマーサクセス(CS)」のKPI指標を紹介します。
種類 KPI指標の具体例
営業
  • 売上高
  • 新規獲得件数
  • 客単価
  • 営業訪問数
  • 契約継続数
マーケティング
  • インプレッション数
  • 新規リード獲得数(会員登録など)
  • 費用対効果(1リードの獲得にかかったコスト)
  • コンバージョン数
  • フォロワー数

カスタマーサクセス(CS)

 

  • 解約数
  • 顧客維持数
  • 契約更新数
  • 追加契約数
  • 解約を阻止した数

9. 人事評価にKPIを組み込む際のポイント

KPIを人事評価制度に組み込み、メリットを最大限に引き出すためには、以下のポイントを押さえる必要があります。

 9.1. ボトルネックを明らかにする

KGI及び業務と的確に紐づいたKPIを設定・運用することで、目標達成を阻害している「ボトルネック」や、最小の努力で最大の結果を生み出すことができる「レバレッジポイント」が特定しやすくなります。関連性を明らかにしないままKPIを設定しても、日々の活動が成果に結びつかず、根本的な課題解決には至りません。

ボトルネックを突きとめられるようなKPIを設定するためには、まずKGIを達成する過程を細かく分解し、それぞれがどのように連携しているのか分析します。分析にあたっては「KPIツリー」を利用してフローチャートで考えるとわかりやすいでしょう。

KPIツリー作成にあたっては、最上位にKGIを置き、そこからKGI達成に不可欠な「KSF」を洗い出しましょう。
さらに、それぞれのKSFを達成するために必要な活動や成果を、測定可能なKPIとして分解し、枝を広げていきます。この際、因果関係を明確にしながらツリーを構築するのがポイントです。

併せて、漏れがなく、重複もない状態を指すMECE(ミーシー)「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の考え方で要素を整理することが欠かせません。

例えば、採用活動において応募者数は多いものの内定承諾率が低い場合、選考プロセスや条件提示にボトルネックがあると考えられます。

 9.2. KSFの優先順位を決める

KPIツリーなどを用いてKGI達成までの構造を可視化すると、目標達成に影響を与えるKSFと、それを測るためのKPI候補が複数洗い出されるのが一般的です。

しかし、企業が持つリソースは有限です。全てのKSFに対して、同等の力で取り組むことは非効率であり、かえって成果を遠ざけることにもなりかねません。ここで重要になるのが、どのKSFを優先的に取り組むべきかです。

優先順位を決めるうえで重要な基準は「そのKSFの達成が、KGIに対してどれだけ貢献するか」と「緊急性」です。もちろん、KSF同士が相互に連携している場合は、複数のKPIを同時に追いかける必要も出てくるでしょう。

 9.3. 定期的な評価とフィードバックを行う

KPIは設定して終わりではありません。
評価においては、KPIの達成度合いだけでなく、 なぜKPIが達成できたのか、その過程でどのような課題があったのかを深掘りしましょう。
過程の側面から分析すれば、より適切かつ具体的なボトルネックへの対策が可能です。

また、達成状況の定期的な評価と従業員へのフィードバックを実施し、改善を重ねていくことも大切です。

このサイクルを効果的に回すために、OKR(Objectives and Key Results:目標と主要な成果)やMBO(Management by Objectives:目標管理)がよく活用されます。

OKRとMBOは、どちらも目標を設定し達成度を評価するという点では共通していますが、以下のように目的や運用方法に違いがあります。

比較項目 OKR MBO
目的

定めた方向性へのチャレンジ

定められた目標の達成
目標達成の期待水準

60~70%で成功とみなす

原則として100%の達成

評価のタイミング

1週間〜1ヶ月に1回

半年〜1年に1回
目標や評価の共有範囲 社内全体から個人まで幅広い 本人と上司など限定的
測定方法 定量的 定量・定性両方
これらをそのまま導入するのではなく、自社の文化や事業特性、従業員の成熟度に合わせて、よい部分を取り入れたりカスタマイズしたりなどで評価・フィードバックの仕組みを構築することが重要です。

 9.4. KPIマネジメント(KPI管理)を徹底する

KPIを人事評価で役立て、組織全体の目標を達成するためには、KPIマネジメントも欠かせません。

KPIの管理を徹底することは目標達成の確度を高め、従業員のモチベーション維持や課題の早期発見など、多くのメリットを生みます。だからこそ、KPIを設定したら「あとはよろしく」と放置せず、うまく機能するように継続的にサポートしていく必要があります。

具体的には、従業員がKPI達成のための必要なリソースを確保できるよう、目を配ることが求められます。リソースとは、「ヒト・モノ・カネ」「情報」「時間」など、目標達成を支えるあらゆる要素です。

例えば「ヒト」であれば部門横断プロジェクトにおける協力者の割り当て、「モノ」であれば必要なツールや設備の提供、「カネ」であれば活動に必要な予算の確保などが該当します。

「情報」の面では、市場の最新動向やノウハウの提供、成功事例や実績の紹介などが考えられます。社内研修を実施して全社的な質向上を図ることも有効でしょう。

一方、「時間」に関しては必要に応じて業務配分の調整を行うことが挙げられます。また、KPIの設定や運用が従業員のエンゲージメントにどのような影響を与えているかを常に観察し、もし過度なプレッシャーとなっていたり、逆に形骸化していたりする場合には、設定や運用方法の改善を検討することも重要です。

そして、KPIが未達成だった場合は、単に評価を下げるのではなく、原因をともに分析し、次に活かすためのアドバイスを行います。組織の戦略や環境の変化に合わせて改善の必要性を探る視点も大切です。

10. まとめ

KPIは目標を数値化するだけでなく、組織全体の方向性を統一し、従業員一人ひとりの具体的な行動を促し、モチベーション向上につなげる強力な指標です。特に、KPIを人事評価に適切に組み込むことは、従業員のモチベーション向上や信頼関係の構築、ひいては企業全体の持続的な成長にとって不可欠といえます。

しかし、自社の状況に合ったKPIを設計し、目標管理やOKRなど評価の仕組みに適切に組み込んだうえで運用するのは容易なことではありません。本記事で解説したSMARTの法則の活用や、ボトルネックの特定、KPIの優先順位付けといったポイントを押さえて「KPIマネジメント」の質を向上させましょう。

KPI設定や運用、特に人事評価制度の設計にお悩みで、専門的な知見や客観的なアドバイスが必要な際は、組織人事コンサルティングのマーサージャパンにぜひお問合せください。お客さまそれぞれの組織に合った経営戦略の実現に向け、確かなデータとメソドロジー、豊富な実績・知見を活用して、人事制度の変革を支援します。

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