マーサーは新たに拡大したマーシュブランドの一員となり、より一層の価値をご提供します。

地域金融機関における人的資本経営のこれから ~トップランナーに学ぶ組織・人事課題への対応~ 

マーサー ジャパン株式会社・草鹿泰士代表取締役社長より開会の挨拶

皆さん、こんにちは。 本日はご多忙の中、多くの皆様にウェビナーにご参加いただきまして、まことにありがとうございます。

最初に弊社の紹介を少しさせていただければと考えております。

私どもマーサーはアメリカの「マーシュグループ」の1事業体です。昨年12月末までは「マーシュ・マクレナングループ」というグループ名でしたが、2026年1月1日よりマーシュグループとなりました。とはいうものの、業務内容は以前と同じです。私どもマーサー、企業リスクを軽減させる保険を扱うマーシュ、戦略コンサルティングのオリバー・ワイマン、そして再保険のガイ・カーペンターの計4社のグループです。

そのグループ内において、私どもマーサーは、組織・人事のコンサルティング、そしてデータソリューション、つまり企業内外のデータを集め、分析、可視化する業務を主に行ってきました。また、資産運用、福利厚生、ウェルビーイングの分野でも広くビジネス展開しています。英語でいうところの「People and Investments(人財と資産運用)」と解釈していただければよろしいかと思います。

さて、このウェビナー・シリーズは本日が第1回です。 そのスタートに大変ふさわしい、素晴らしいゲストをお招きしました。FFG(ふくおかフィナンシャルグループ)の五島久取締役社長です。 福岡銀行取締役頭取も兼務される五島社長に、じっくりとお考えをうかがえればと思います。

地域金融機関の皆さまには、2025年12月に金融庁より、地域金融力強化プランが公表されました。少子高齢化とそれによる労働力不足をはじめ日本企業は課題山積です。地域金融機関の皆さまに期待される役割も大きく変化しています。 従来の融資に加え、事業承継、M&A、経営人財の獲得、DX、スタートアップ支援……など多岐にわたる課題がイメージできます。その前提での地域経済への貢献は皆さまにも求められていることでしょう。

 一方、ガバナンス、リスク管理、マネー・ロンダリング、AML(アンチ・マネー・ロンダリング)、そしてサイバーリスク……などディフェンス面でも大変厳しい時代です。

ふり返ると2000年代から、地域金融機関業界においてさまざまな動きがありました。そのプロセスで、提携、合併、統合、再編が起こりました。まさに金融庁の地域金融力強化プランにもある通り、もはや単純な規模の追求ではないと考えています。

そんな時代だからこそ、銀行の組織能力、組織文化などが問われているのではないでしょうか。その意味で、まさに本日のテーマ――人的資本経営が問われる時代です。

先ほど申し上げた通り、このウェビナーはシリーズで今回が第1回です。今後、人的資本経営、組織能力、組織文化など銀行の皆様の未来をさまざまな切り口から考える場にしていきたいと願っております。

それぞれの金融機関の皆様が置かれている地域特性、規模、ビジネスモデルは当然異なるでしょう。しかし、だからこそ、他行の取り組み、トップの姿勢など、おたがいのヒントになるのではないかと考えています。

ではいよいよFFGの五島社長に登場していただき、お話をうかがえればと思います。 皆様にとって有意義なお時間になることを心から願っております。

成功体験より失敗体験から学んできた

山内 本日はここ、九州福岡、FFG様の特設スタジオからお届けさせていただきます。東北、関東から、関西、沖縄まで全国規模で、特に地域金融機関の皆さまを中心にご視聴いただいております。五島社長はすでに業界内でも広く知られた存在ですが、最初に少しだけご経歴をお話いただけないでしょうか。

五島 はい。出身は鹿児島県伊佐市です。非常に自然に囲まれたのどかな町で高校まで育ちまして、そこから福岡に出てきました。

※以下、五島社長略歴

1985年   九州大学法学部卒業
       福岡銀行入行
                北九州営業部~行橋支店~宇美支店~大分支店~人事部~総務
                広報部~総合企画部~東京事務所~営業推進部と異動。
2017年 同常務執行役員
2020年 同取締役専務執行役員
2021年 FFG取締役執行役員
2022年 同取締役社長
    福岡銀行取締役社長
2023年   全国地方銀行協会会長(2024年まで)

 このように、最初の10年間を営業店で過ごしました。北九州、行橋(ゆくはし)、宇美(うみ)、大分、4つの支店でさまざまなお客様とお付き合いさせていただき、銀行の業務を覚え、本部に異動しています。本部では人事部がもっとも長く12年在籍しました。その後も本部業務をさまざまに経験し、役員としてもさまざまな所管を持ち、今に至っています。

その過程で、2023年から1年間は地銀協の会長としてさまざまな銀行の課題も勉強させてもらい、地域ごとに多種の課題があること、身に染みて感じる体験ができました。

プライベートでは、社内の軽音楽部に属しバンド活動もやりました。毎年5月、ゴールデンウィークに開催される博多どんたくでも演奏しています。2025年7月には福岡を拠点とする、九州で唯一のプロの本格的なオーケストラ、九州交響楽団の理事長になりました。財務面が非常に厳しいなか九州にしっかりオーケストラを残し、文化芸術面でも貢献したい。改革プログラムをしっかりと実施しながら、持続の可能性を高めています。

山内 今日はぜひFFGの経営、人的資本経営をテーマにお伺いさせてください。同時に五島社長のパーソナリティもお許しいただける範囲でお話しいただきたいと思っております。

数々のご経歴の中で印象的だったご経験、 ターニングポイントはありますか?

五島 主に2つ思い当たります。

1つ目は行橋支店でのことです。銀行は当然お客様本位。お客様の課題を共有し、解決することこそがビジネスです。その原点を再認識できました。

というのも、担当していた歯科医のお客様に「もう来なくていい」と言われたのです。今でいうところの「出禁」です。理由は、若かったことで私本位の営業を行っていたからでした。当時の私は、定石通り、こちらが勧めたい商品、融資ばかりを提案していました。

ところがある日、お客様に言われたのです。

「君は何もいい情報を持って来てくれない。それならば来てくれなくていい」

お客様本位という基本を見失っていたことに気づかされました。

2つ目は人事部時代です。職務の重要度や難易度で評価する職務等級制度を採用しました。ところが運用が伴わず、職務の遂行能力で評価する職能資格に戻したことです。

行橋支店、人事部、どちらも成功体験ではありません。負の体験もしっかり意識して経営に取り組んでいます。

経済的・物質的・精神的にゆたかな地域社会を創る

山内 人を資本としてとらえその価値を最大限生かし、企業価値を高める人的資本経営の背景には、会社として目指す理念・ビジョン、経営戦略があり、それを人財戦略とどのようにつなげていくのかがポイントになるかと思います。まずは、FFGが重視している経営理念やビジョン、戦略をお伺いできますか。

五島 2025年4月に制定し公表しているFFGの理念体系は大きく次の3つです。

①   わたしたちの価値観「あなたのいちばんに。」

②   FFGの存在意義「一歩先を行く発想で、地域に真のゆたかさを。」

③   創りたい社会「経済的・物質的・精神的にゆたかな地域社会」

通常、優先順位はミッション、ビジョン、バリューですが、私たちは価値観と存在意義を同等に最重要の概念として定義しています。

これらを社内でしっかりと共有し、日々の営業はもちろん、さまざまな事業活動に取り組んできました。5つの銀行、23のグループ会社の社員一人ひとりが価値観と存在意義を意識して、自分のこととして日々の仕事に生かそうと努めています。

山内 地域金融機関では、地域経済の成長が企業としての存在意義や収益基盤に大きく関わってくると思います。その点についてはいかがでしょうか。

五島 地方銀行ですから、地域経済の成長なしに自分たちの成長もありません。私たちが地域の経済成長にどう貢献できるかが生命線です。

地域経済の成長については、次の3つを意識しています。

①   地域の産業振興(企業のDX・GX支援、スタートアップ支援、M&A・事業承継支援など)

②   人々のゆたかな生活(人生100年時代の金融経済教育とライフプラン支援)

③   国内外からの投資を呼び込む

地域の産業振興をしっかり行うことで、地域の企業は持続的に成長します。すると地域の雇用、賃金、成長投資にもお金が回り、地域の消費、投資につながり、地域の人々のゆたかな生活につながります。この循環をしっかりとつくっていきたい。

同時に国内外の投資を九州に呼び込み、エコシステムとして回していきたい。

山内 九州には半導体関係の産業集積が進み、いま世界的にも注目されています。FFGの取り組みはいかがでしょうか。

五島 世界最大の半導体受託製造企業、TSMC(台湾積体電路製造)の熊本進出のときに、子会社のJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)の幹部と意見交換する機会があり、彼らもエコシステムをつくってほしいと話していました。 エンドユーザー、ICデザインの企業、製造装置の企業、素材供給するサプライヤーが地域に集積し、それを中心にTSMCやJASMが製造する。こういうエコシステムが必要でしょう。

山内 地域が発展すれば、地域金融機関としてビジネスチャンスも増え、FFGの存在意義につながります。そのためにどんな戦略を展開するのでしょうか。

五島 私たちが目指す真にゆたかな地域とは、理念にもある通り、経済的、物質的、精神的にゆたかな社会です。 経済的なゆたかさだけではなく、物質的なゆたかさ、ひいては心のゆたかさまで意識しています。人々が「幸せだな」と感じるようになるまで私たちは貢献したい。銀行としてどこまでやれるかは、チャレンジです。

その現実化にさまざまなマテリアリティをしっかり解決する。 そして、ビジネスとして成立させて収益を上げ持続する。かつて、渋沢栄一が『論語と算盤』に書いたように、つまり思想や道徳と利益は両立できます。

その骨組みは、次の3つです。

①   既存ビジネスの変革

②   新たな価値創造

③   新たな収益の獲得

これら大きな3つの柱の実現は、FFGだけでは難しい。地域のパートナー企業、お取引先の協力なしにはできません。ともに努力してくれる人たちを呼び込むアプローチの改革も必要です。そのためのエコシステムでもあります。

そのシステムを動かすのは、社員一人ひとりであり、組織がきちんと機能し、組織力を発揮することでもあります。強靭な基盤をつくらなくてはいけません。

だから、次の2点も大切でしょう。

④   アプローチの改革

⑤   強靭な基盤づくり

これら5つを私たちは長期戦略の5本柱として具体的な施策に落とし込み進めています。

MUFG、メルカリとのBaaS

山内 地方銀行業界の株式市場での評価では、長年PBR(株価純資産倍率)1倍割れ問題がありました。しかしこの数年間株価が伸びて、1倍を超えていますね。

五島 現在は1.2倍くらいです。

山内 FFGは地銀業界でも上位だと思いますが、1倍割れから1.2倍へ成長したプロセスをうかがえますか。

五島 まず、FFGの存在意義、長期戦略をしっかり理解してもらう必要がありました。「社会課題を解決しますよ」と言うだけでは投資家は前向きな気持ちにはなりません。実際にビジネスを成長させ、収益を上げ、ステークホルダー(利害関係者)の皆さんに還元し、成長投資し、FFGがさらに成長するビジョンを誠実に説明しています。これはかなりハードルの高い作業です。

山内 PBRを高めていく上ではROE・PERが大切ですが、PERは今後の成長期待に大きく左右されるので、地銀業界でいうと、やはり人口が増えている地域が有利になりやすいと思います。首都圏などと比較すると、九州は少しハードルが高いのかもしれません。そんな環境下、新しい成長ストーリーをどうつくっていくか、どう市場に伝えていくのか。それがポイントではないでしょうか。そのあたりはどうお考えですか?

五島 国内の投資家にも、海外の投資家にも訪問して説明させていただいています。もちろん、実績も見せないと信じてもらえませんが。

山内 投資銀行部門の強化が中核のテーマの1つだと思います。そこに向けてはどんな工夫をされているのでしょう。

五島 投資銀行のなかでストラクチャードファイナンスは、もう20年近くやり続けています。若手を出向させて勉強させ、成果をあげ始めました。

ファンド投資も含めた返済義務のないエクイティの部門にも力を入れながら、メザニンやデットの部分全体のアレンジにもしっかり取り組んでいきたい。そこも人財育成も含めて行う必要があると思います。

山内 日本初のデジタルバンクとして、金融に限らずさまざまな業種がその機能を共有するBaaS(Banking as a Service)では、三菱UFJ銀行をはじめあらゆる企業と連携を進めていらっしゃいます。

五島 三菱UFJ銀行にはデジタルネイティブなシステムの使いやすさを評価していただいたのでしょう。2025年の年末にはメルカリとも連携しています。FFGのみんなの銀行をメルカリバンクに組み込みました。こちらは、金融サービスを非金融サービスのプラットホームに融合する組込型金融のスタイルです。このケースは今後増えていくのではないでしょうか。

山内 パートナー企業との連携やBaaSなどの新展開は企業としてもともと持つDNAでしょうか? あるいはここ5年、10年力を入れて強化してきたのでしょうか?

五島 進取の気性のある会社ではあるものの、自社の限界も自覚していました。ビジネスを大きくしていこうとか、成長させたい、 パートナー企業と新しい事業を育てたいという思いありきではあります。

タウンホールミーティング、支店訪問、ブランドブックで対話を増やす

山内 トップになられて4年、FFGの理念体系の明確化にはかなり力を入れてこられたとうかがっています。そのあたりをあらためてお話しいただけますか。

五島 2025年4月に理念体系をつくって、飾っておくだけでは意味はないので、正社員で約8,000人、パートタイマーを含め約12,000人に浸透させなくてはいけません。どんなに立派な理念体系があっても、実践する人たちの意識が伴わなくては企業の動きとして本物になりません。それに今機能するだけではなく、持続させなくては意味がない。何を柱に、何を私たちの北極星にしてやっていくのか。それがとても大切です。

今、タウンホールミーティングを行っています。2025年には19回、各銀行、グループ会社含めたFFG全社で、700人の幹部社員が参加しました。その場で考え方は説明しますが、一方的に話すだけでは理解度が低い。そこで、30~40分くらい質疑応答の時間を設けています。お客様を訪ねる合間に時間を見つけて支店訪問も行っています。懇親会も開く。対話の機会を増やすように努めています。

理念を言語化したブランドブックもつくりました。パートタイマーも含め12,000人に配り、各支店、各部署に私が訪れて内容を話しています。これは私の思いであると同時に12,000通りの受け止め方もある。従業員が内容を自分事とし、同じ方向を見て努力を重ねることが重要です。

山内 ブランドブックの中で、意識的によく話す内容はありますか?

五島 地域の好循環をつくること、産業振興によって地域がゆたかになる話はもちろん、それらをなぜ私たちがやるのか、FFGのためなのか、お客様のためなのか、ほかにもあるのか、それはよく話しています。

このブックの内容をみんなで行うことが、自分のゆたかさにもつながるという話もしています。 ブックの最後にはこう記しています。

「このブランドブックは、
FFGで働くわたしたちが、
変わることのない理念(ありたい姿)を共に持ち続けるため、
そして、日々の仕事の目的や価値を見失わず、
一人ひとりの人生をゆたかにするためにあります。」

 また、

「FFGが目指す方向と、あなたの目指す方向が重なっていく。
日々の仕事や生活の中に、そんな感覚を抱いてほしい。」

とも書きました。

山内 トップが自らの思いを自らの言葉で書くと伝わりますね。タウンホールミーティングや支店訪問は台本ナシのぶっつけ本番ですか?

五島 訪問することを事前に伝えることも、アポなしも、ケース・バイ・ケースです。私の側が耳の痛いことを言われることもありますよ。

シングルプラットフォーム・マルチブランド

山内 次にシングルプラットフォーム・マルチブランドについてうかがいます。各地銀グループもホールディングス制で、マルチブランドでやるケースは多い。 そのメリット、チャレンジ、課題として克服しなければいけないことがあれば教えていただけますか。

五島 まず、地域によって課題は違います。たとえば福岡と熊本、熊本と長崎、それぞれ異なります。地域課題と真摯に向き合うには、これまでの歴史も含め各銀行のブランドでお客様と向き合うことが大事でしょう。

ただし先ほどから申し上げているように、企業として、ビジネスとして、収益を上げながらやり続けるには、全体としてのガバナンスはもちろん、戦略・戦術も高度化する必要があります。資本政策も同様です。生産性向上のためにはシステムもガバナンスもできるだけ統合して効率的に行うべき。だから、シングルプラットフォームと言われます。

集約できるものは全部集約する。特に本部業務の集約はどんどん進める。ただし地域課題に向き合う営業戦略・営業戦術は、各銀行が真摯に取り組むべきでしょう。

ここが課題ですが、マルチブランドを強めると遠心力が働きます。シングルプラットフォームを強めると求心力が強まります。そのバランスは日頃から各頭取と話し合っています。

山内 今日のテーマでもある人財という観点では、各行での採用・育成が主軸だと思います。研修や育成の場の理念の共有や人財交流で力を入れていらっしゃることはありますか。

五島 理念の共有・浸透は、関連子会社も含めて全社共通です。私は福岡銀行だけではなく、FFGの社長として熊本銀行にも十八親和銀行にも福岡中央銀行にもみんなの銀行にも行きます。

新入社員研修は1週間ほどです。全社合同、約500人集まって行っています。2年目、3年目の社員にも集合研修を行います。

人事交流については、FFGに機能を集約しているので、それぞれの銀行からFFGに来てもらう。FFG内で本部業務に携わるケースもあります。

熊本銀行から十八親和銀行、福岡銀行から福岡中央銀行など人事交流も行ってきました。とくに、みんなの銀行はFFGがつくった銀行。かなり混成チームの状況になっています。

山内 世の中どこでも共働き世帯が主流となる中、転居を伴う転勤は運用が難しくなってきていますが、そのような中でも、人事交流は重視してこられたのですね。

五島 各銀行、各ブランドでしっかり働くことは基本です。それでも異動によって気づくことは少なくありません。経験したほうがいいでしょう。

企業の成長と個人の自己実現の共存

山内 いよいよ人的資本経営です。人財面でどんなことを目指されてきたか、とくにトップになられてから力を入れてこられたこと、「FFGの人財戦略」をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか。

五島 まず、事業ポートフォリオをつくりました。10年後にこうなっていたいという具体的な目標を明確にしたわけです。その事業ポートフォリオから逆算して、今度は戦略的人財ポートフォリオをつくりました。

事業ポートフォリオと戦略的人財ポートフォリオはセットで機能するということです。事業ポートフォリオの前に優れた人財を採用して育てなくては机上の空論になってしまいますから。戦略的人財ポートフォリオのポイントは3つです。

①      多様な人財の採用

②      戦略を実現する人財育成

③      最適かつ柔軟な人財配置

以上3点、採用、育成、配置の施策の高度化が大切です。これをまず実践しています。

さらに戦略のなかでは、従業員のエンゲージメントも重要です。こちらはFFGに貢献したいという従業員の自発的意欲のことで、やはり3つあります。

①   FFGへの共感

②   処遇・仕事内容への満足

③   働き方の多様化

この3つの要素の向上を目指しています。

企業を動かすのはいうまでもなく、人と組織です。その向上には、相互理解としてのエンゲージメントが必要でしょう。共感を得るベースには、理念体系の共有が必要。日々の仕事で実践しなくてはいけません。それが自己実現、成長実感につながっていく。

給与・賞与・福利厚生の満足度も大切ですが、衛生要因以外の働くモチベーションも必要です。FFGが目指すものとなりたい自分が重なるとエンゲージメントは高まるはずです。

山内 従業員一人ひとりの自己実現を尊重する意思が伝わってきます。銀行業界は他業界に比べ、比較的組織と個人が一体化していると感じているのですが、五島社長は個への眼差しを持ち続け、強化している印象が強くあります。そこに至ったプロセスや背景をお伺いできますか。

五島 人事に12年いたことが大きいかもしれません。最初の仕事は不良債権処理でした。バブル経済崩壊後の非常に厳しい時代。企業財務上も非常に課題が多かった。もう人事制度を変えるしかない、と。退職給付制度を変える検討も行いましたが、うまくいきませんでした。つきつめると、モチベーションの共有や共感できていませんでした。

2007年からの経営統合で大切なのはPMI(Post Merger Integration)。つまりプロセスです。制度の整備はもちろん、人の融和が重要です。「FFGで働いてよかった」と思ってもらえることに腐心した人事部時代でした。どうしたら一人ひとりが高いモチベーションで働いてくれるのか。どうしたら組織のパフォーマンスが上がるのか。組織力の向上は企業の論理。でも、やるのは人です。

ひと昔前なら企業ロイヤリティで、滅私奉公(めっしぼうこう)でやったと思います。でも今は通用しません。自分たちの成長実感、自己実現につながるから頑張るという環境をつくらなくてはいけません。それが組織の中で上手く回転し、企業と個人の好循環がつながっていく。

そのつなぐ役目は私が担わなくてはいけません。社長ですから。各銀行の頭取、支店長などの“長”の役割だと社内では話しています。

ブランドブックにはFFGの目標と各社員の目標が重なることへの期待を書いています。

山内 人財に関するビジョン、目指すものの具現化として新しい人事制度を導入されたと理解しております。新人事制度としてなにを狙いとして、今どこまで来ているのでしょう?

五島 マーサーさんにも随分お手伝いいただきましたが、2026年4月から新しい人事制度がスタートします。銀行に限らず経営環境は変化し、加速します。あるいは振れ幅がもっと大きくなる。すると、組織のスピードアップが必要です。専門性の高度化も必要。適所適材もさらに重視しなくてはいけません。年功序列ではなく、仕事にフィットして成果をあげられる人に頑張ってもらう。若手、シニア、女性の活躍の場も設けなくてはいけません。なおかつ、何度も言うように自己実現にもつなげていきたい。そういう人事制度を運用する必要があります。

ただし、ここは日本です。 欧米のようなジョブ型雇用をそのまま活用するとリスクもあるので、「メンバーシップ型のよさを残しつつ」とブランドブックには書いています。

山内 FFG内で若いころから育っていく社員も、外部から経験を持って来られる社員もいて、会社をつくっていくということですね。キャリアの違いによって仕事の進め方が違うとか、社内常識が違うとか、中途採用を最近始めたなかには社内の融合に苦戦する会社もあるようです。FFGは自然に融合されていますか?

五島 各所属の長は苦労しているはずです。でも、会社の姿勢は一貫しているので、採用される側と採用する側の相互理解は進んでいるでしょう。すでに幹部になっている中途採用の社員もたくさんいます。

人的資本経営の真髄

山内 話は尽きませんが、今回の視聴者の皆様から事前に頂いた質問にお答えいただきたいと思います。

1つ目です。広い意味での人的資本経営によってトップ自身一番時間を使っていらっしゃること、あるいは情熱をかけてやっていらっしゃることをうかがえますか。

五島 論語と算盤という意味では、理念から長期戦略へ、地域とFFGの成長へ、というストーリーを具体的な戦略・戦術に落とし込みたい。それにはどうすればいいのか。たとえばAIが日に日に進化するなか、ビジネスモデル自体を見直す必要があります。では、なにを見直すのか――、早くキャッチアップしなくてはいけません。そういう戦略・戦術のアップデートは大きなテーマです。

算盤面では、定量的な企業価値、具体的には株価、時価総額、PBRなど、FFGの成長ストーリーの説明をしっかり行うことでしょう。

なおかつ、先ほど申し上げた企業の好循環、個人の好循環がシンクロすることに尽力しています。具体的には、先ほど申し上げたブランドブックを介した対話です。職場でそれを日々行い、FFGの仕事を自分事としてとらえてもらうように腐心しています。それが人的資本経営の真髄というか、根源じゃないかなと考えています。

個人が目指す地点と企業が目指す地点がシンクロすれば一番強い。そのためにどうすればいいのか――、最終的には一番大切なテーマだと思います。

山内 「AI」というキーワードが出ましたけれど、五島社長ご自身は結構AIを使われていますか?

五島 毎日使っています。1日に何度も利用しています。

山内 あるメガバンクの人事部門幹部から、社内で順調に出世してきたマネジメント層ほど、AIに懐疑的という話を聞きました。幹部には部下がいるので、AIに頼らなくても資料はつくれます。リーダー層でAIの浸透が難しいという状況はありませんか?

五島 現実的なことをお話すると、かつて担当スタッフに資料を頼むと、2~3週間かかっていました。通常業務を行いながら、限られた時間で資料をつくらなくてはいけませんから。でも、AIを利用して私が調べればすぐできます。AIでつくったたたき台に自分の考えを加えればあっという間です。戦略・戦術レベルまでやれますよ。

それに、私も今さら人に聞けない基本的な疑問もある。それはAIとの対話でほとんど解決します。ですから、自分のためにAIを使うケースも多いです。

山内 トップみずからAIを率先して使われる姿勢、素晴らしいですね。

座右の書は『論語と算盤』『少しだけ、無理をして生きる』

山内 2つ目の質問です。時間の関係で、参加者からの質問はこれが最後になります。

五島社長の「座右の書」、推薦する書籍をご紹介いただけないでしょうか。

五島 何冊かありますが、ここでは2冊ご案内しましょう。

1冊目は、ここでも話題にした渋沢栄一の『論語と算盤』(筑摩書房、KADOKAWAなど)です。ビジネスの真の目的は社会や人の役に立つこと、やり続けることです。それには収益を上げることは必須。道徳と利益の調和という基本理念を渋沢栄一は徹底して述べています。この本は私の経営の一番大きなガイドラインになりました。いくつもの出版社から出版されていて、わかりやすく現代語に翻訳されたものもマンガ版も出版されています。

2冊目は、城山三郎の『少しだけ、無理をして生きる』(新潮文庫)です。広田弘毅、浜口雄幸、渋沢栄一という城山が小説の題材にした人物の魅力について書かれています。この本にある、中山曽平氏についての記述が私にとって印象的でした。

“そっぺいさん”と言われて親しまれた日本興業銀行元頭取ですが、この人は「箱から出なくちゃいけない」と言っています。自分で自分の限界をつくってはいけない、と。限界を意識すると、人はそれが終点になります。でも限界をもうけずにチャレンジを続ければ、どこまでも努力できます。それまでとはまったく違う景色が開けます。そういう内容が書かれていて、すごく勇気づけられました。

先進性、人間味、関係構築力

山内 最後に、地域経済に貢献する金融機関として大事にされてきたこと、これからも大事にしていくことについて、メッセージをいただけますか。

五島 今日も何度かお話しましたけれど、FFGが20年近くやり続け、今後もやり続けることは3つです。

①   先進性を持つ

AIエージェント、ガバナンスのようなものには積極的に取り組むこと。

②   人間味を大切にする

AIをはじめデジタルでいろいろなことが簡単にできる。それが正しいのか正しくないのか。考えながら行う習慣が大切。アナログのフェイス・トゥ・フェイスでしっかり相手の思いを理解して行う大切さを忘れず、そのために人間味を磨く。

③   関係構築力を磨く

社会も個人も専門性が高くなりビジネスの幅が広がると、自分の手でできることは限定される。だからこそ関係構築力を磨き、複数の力で取り組む環境を意識する。

山内 まさにトップ自ら、その方針を日々実践されているわけですね。本日は素晴らしいお話をありがとうございました。

五島 ありがとうございました。

 

話し手

五島 久(ごとう ひさし)様

株式会社ふくおかフィナンシャルグループ 代表取締役社長CEO  兼 株式会社福岡銀行 代表取締役頭取

鹿児島県伊佐市出身。1962年2月3日生まれ。九州大学法学部を卒業後、1985年に福岡銀行に入行。4つの支店勤務の後、人事・企画等の本部業務を経験し、特に人事部門ではふくおかフィナンシャルグループ設立時の人事制度統合を担当。役員就任後も、人事・リスク管理・営業など様々な分野を担当し、2022年にFFG社長・福岡銀行頭取に就任。就任時に社内外に宣言した「お客さま本位を徹底する」「人と組織の活力を引き出す」「収益を上げ続ける」の3つに注力しながら、真にゆたかな地域社会づくりとFFGの持続的成長の同時実現を目指している。趣味はバンド活動(ドラム)

 

聞き手

山内 博雄(やまのうち ひろお)

マーサージャパン株式会社
取締役 組織・人事変革部門 代表

日系銀行、米系戦略コンサルティングファーム、大手サービス業経営企画担当執行役員などを経て現職。国内外における大手企業への組織・人財戦略策定・人事制度設計、HRトランスフォーメーションなど数多くのプロジェクトをリード。早稲田大学ビジネススクール非常勤講師(2020~22)、内閣府 新しい資本主義実現会議 労働市場改革分科会委員(2023〜24)などを務める。各種メディア取材/寄稿・執筆、外部講演等多数。東京大学経済学部経済学科卒

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