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ジョブ型人事制度とは?導入でどう変わる?メリットや企業事例を解説
近年、働き方の多様化や人材獲得競争の激化を背景に、「ジョブ型人事制度」への注目が高まっています。多くの企業で導入が検討される一方、「従来の制度と何が違うのか」「自社にも導入すべきか」といった疑問をお持ちの人事担当者や経営者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、そのような疑問や不安を解消するため、ジョブ型人事制度の基本的な意味合いや、そのメリット·デメリット、具体的な導入方法、国内企業の成功事例を紹介します。本記事を通じて、ジョブ型人事制度への理解を深め、今後の組織運営を考えるうえでの一助としていただければ幸いです。
INDEX
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3.1. リモートワークにもなじみやすい
3.2. 新卒学生や従業員の価値観が変化している
3.3. 優秀な専門人材の獲得競争が激化している
3.4. 個々のリスキル・アップスキルが必要になっている -
4.1. 職務が明確化される
4.2. 戦略的な人員配置がしやすくなる
4.3. 社員のキャリア自律につながる
4.4. ダイバーシティに配慮しやすくなる -
5.1. 採用プロセスを見直す必要がある
5.2. リテンションリスクが高まる
5.3. 業務範囲が固定化されてしまう
5.4. 一律の能力開発や育成が難しくなる
5.5. 会社都合の任用や異動・配置が難しくなる -
6.1. ジョブ型人事制度の適用範囲を定める
6.2. 職務を定義し、必要に応じて職務記述書を作成する
6.3. 職務ごとの職務価値を評価する
6.4. 等級区分に応じた報酬水準を設定する -
7.1. 自社に合った人事制度を見極める
7.2. 職務や求められる成果を明確にし、状況に応じて職務記述書を見直す
7.3. 各階層が人事制度を理解しておく -
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9.1. KDDI株式会社
9.2. 東洋合成工業株式会社 -
1. ジョブ型人事制度とは?
ジョブ型人事制度とは、企業が定めた「職務」を基準として人材を配置し、その職務の責任や成果に応じて評価や報酬が決まる仕組みです。この制度は、「人に仕事を割り当てる」のではなく「仕事に人を割り当てる」という考え方が基本となります。
企業は経営戦略を達成するために必要な職務を定義し、その業務内容や目標、求めるスキルなどを「職務記述書」などで明文化します。そのうえで、職務に適した人材を配置するのが特徴です。勤続年数や個人のポテンシャルを重視する従来のメンバーシップ型とは異なり、あくまで職務の価値そのものに焦点を当てる人事制度となります。
2. ジョブ型人事制度とメンバーシップ型人事制度の違い
3. ジョブ型が注目される背景
3.1. リモートワークにもなじみやすい
3.2. 新卒学生や従業員の価値観が変化している
近年の学生たちや若手の従業員は、特定の分野でスキルを活かしてキャリアを築きたい、そのようなスキルを活かせる場で活躍したいと考える傾向が強まっています。
そのため、就職・転職活動の段階で職務内容を明確に提示する「ジョブ型採用」を導入する企業が増えています。これは、自分のキャリアプランに合う企業で専門性を磨きたい、自分のエンプロイヤビリティ(雇用される力)を高めたいという、学生や若手従業員側の意思の表れと言えるでしょう。
優秀で意欲の高い人材を確保するという採用戦略の観点からも、ジョブ型人事制度への移行を考える企業が増えています。
3.3. 優秀な専門人材の獲得競争が激化している
DX領域をはじめとする、高度な専門性を持つ人材の獲得競争が激化していることも、ジョブ型人事制度が注目される理由として挙げられます。専門人材は、自分のスキルを活かせる職場・職務において活躍することができ、自分のスキルや市場価値が正当に評価され、報酬に反映されることを強く求める傾向があります。
そのため、勤続年数などで給与を決定する従来のメンバーシップ型では、このような専門人材に魅力的な条件を提示することが難しいのが現状です。一方、ジョブ型人事制度では、職務の価値に応じて報酬を決定することができるため、市場価値の高い専門人材に対して競争力のある条件を提示することができます。
3.4. 個々のリスキル・アップスキルが必要になっている
ビジネス環境の変化が激しくなり、終身雇用や年功序列といった従来の制度の維持が難しくなっている中、すべての従業員層において、自律的にキャリアを考え、新しいスキルを習得する「リスキリング」の必要性が高まっています。
ジョブ型人事制度では、経営戦略の変化に応じて、組織や職務が設計され、職務で求められるスキルや成果が評価の対象となるため、従業員一人ひとりが主体的にリスキルやアップスキルに取り組む必要があります。結果的に、従業員の学びや成長、チャレンジを促す文化が醸成されるという効果が期待できます。
4. ジョブ型人事制度のメリット
4.1. 職務が明確化される
従業員は自分の役割を正しく理解し、何を達成すれば評価されるのかを明確に把握できます。また、企業は社内外から人材を募集する際、職務内容を明確にすることでその職務に合った人材を採用することにつながります。さらに、職務内容やスキルなどに応じて、市場の報酬水準を参考に適正な報酬水準を提示・設定しやすくなります。結果として、評価の公平性や透明性、報酬水準の妥当性の向上につながります。
4.2. 戦略的な人員配置がしやすくなる
メンバーシップ型においては、長期的に人材を雇用するという観点から、一括採用した新卒を、会社主導で定期的にジョブローテーションさせながら、様々な職務経験を積ませるということが一般的です。
一方ジョブ型では、事業計画に応じて「この事業には、この専門性を持つ人材がいつまでに何人規模で必要だ」という考え方で人材を確保したり、リスキルを促したりします。例えば、新規事業の立ち上げの際は、必要なスキルを持つ人材を即戦力として迅速に社内外から採用することが可能です。
そのため、新規事業を推進するために最適なチーム組成が可能となり、新規事業を迅速に軌道に乗せる可能性が高まります。また、事業の優先順位に応じて人材を「適材適所」に配置できるため、重要度の低い業務に人件費をかけすぎるといった無駄をなくし、経営資源を最も効果的な形で投資できるようになります。
ただし、専門性の高い人材を確保できるジョブ型では、一人当たりの報酬水準が高くなる傾向があります。求められるスキルを持つ人材を確保し、そのスキルを活用して生みだした価値に対して対価を支払うという考え方が基本となるため、必ずしも人件費の抑制につながるわけではない点には注意が必要です。
4.3. 社員のキャリア自律につながる
ジョブ型人材マネジメントに通底する考え方として、個人は職務において貢献する、会社はその貢献に報酬で報いるという意味において、職務を介して会社と個人は対等な関係になります。会社が一方的に社員のキャリアを決めるのではなく、個人がどのような職務に就きたいかを考え、企業と合意のうえで決定します。
したがって、キャリア形成の主体が会社から個人へと移ることになります。社員は自分の専門性を高めるため、現在の職務で成果を出すことはもちろん、将来に向けて新しいスキルを自律的に学ぶようになります。こうした一人ひとりの自律的な成長意欲が、組織全体の競争力強化にもつながります。
4.4. ダイバーシティに配慮しやすくなる
ジョブ型人事制度は、ダイバーシティの推進にも有効です。働き方改革関連法が施行され、国内でも働き方の多様化が求められています。メンバーシップ型では、職務や勤務地が会社主導で決まることが多く、育児や介護と両立したい女性やシニア、文化の異なる外国人などが働きにくいという側面がありました。
一方、ジョブ型では職務内容が明確に定義されているため、個々の事情に応じた柔軟な働き方が可能です。リモートワークにもなじみやすいうえ、年齢や性別、国籍といった属性ではなく、その職務を遂行できるかどうかで評価されるため、様々な活躍の機会を得やすくなるのです。
5. ジョブ型人事制度のデメリットや注意点
5.1. 採用プロセスを見直す必要がある
ジョブ型人事制度を本格的に導入する場合、従来の採用プロセスを見直す必要があります。ポテンシャルを重視して新卒を一括で採用し、時間をかけて育成するメンバーシップ型とは異なり、特定の職務の内容を明確にし、それを遂行できる人材を採用時に見極めることが求められます。
そのため採用活動は、職務を限定しない新卒一括採用中心から、中途・新卒を問わず必要なスキルを持つ人材を通年募集する採用へとシフトしていくことになります。また、採用担当者も各職務の専門性やスキル等、現場の人材ニーズをよく理解し、候補者を適切に見極める能力が不可欠です。
5.2. リテンションリスクが高まる
企業は、時間とコストをかけて育成した優秀な人材が競合他社に流出する事態を防ぐため、報酬のアップや、働きがいのある企業文化の醸成、チャレンジングで魅力的なキャリアパスの提示など、流出を防ぐ対策、さらには優秀な人材をアトラクトするような対策を講じる必要があります。
5.3. 業務範囲が固定化されてしまう
ジョブ型人事制度の下では、個々の職務が明確になる一方、その職務を固定的に考える可能性があります。自分の担当業務以外の仕事に対して「それは私の仕事ではない」という意識が生まれやすい傾向があるのです。
そのため、部門間の連携が取りにくくなったり、誰も担当しない「グレーゾーン」の業務が発生したりする可能性があります。このような事態を防ぐためには、職務記述書などの記載に一定の柔軟性を持たせたり、他部署との連携を職務に組み込んだり、チームでの目標達成を評価に組み込んだりすることにより、業務の隙間を生まないよう工夫が必要です。
5.4. 一律の能力開発や育成が難しくなる
個々の社員が職務を遂行するために必要なスキルや能力を身に着けようとすると、社員全員を対象とした一律の能力開発や人材育成が難しくなります。
メンバーシップ型では、将来の幹部候補を育てるために、階層別の研修や定期的なジョブローテーションの実施などが一般的です。
しかしジョブ型では、個々が特定の職務の専門家として採用され、自律的なキャリア形成が求められるため、育成もその職務や専門性に応じて、自らが必要と思うスキルを身に着けることができる研修プログラムを選択することが中心となります。
個々のキャリアプランに基づいた育成計画を策定することや、eラーニングなどを活用し、必要なときに必要なことを学べる環境を整備することなど、育成体系そのものの見直しが必要となります。一方、将来の経営幹部候補人材に対しては、これまで以上に計画的に幅広い経験を与えられる、選抜型の人材育成プログラムを考えることも重要です。
5.5. 会社都合の任用や異動・配置が難しくなる
メンバーシップ型では、会社をとりまく事業環境の変化や、会社の人員計画や育成計画に基づき、長期雇用を保障する代わりに、会社都合により人事異動を命じることが可能でした。
ジョブ型人事制度では、社員は特定の職務内容で雇用契約を結んでいる、または社員は特定の職務を遂行するために当該ポジションに任用されているため、本人の同意なく、会社都合で異なる職務への異動を命じることは難しくなります。そのため、事業計画を実現するために、どのような職種やスキルをもつ人材が、何人規模で必要なのか、または不足するのかを見通すために、より戦略的な人材ポートフォリオを検討する必要がありますし、それに基づいて計画的に人員を採用・育成する必要があります。また、必要な人材を確保するために、社内公募制度や本人意思による手挙げ式の異動制度などを導入する企業も増えています。
6. ジョブ型人事制度の導入方法
6.1. ジョブ型人事制度の適用範囲を定める
ジョブ型人事制度を導入する最初のステップは、制度を「どの範囲に適用するか」を決定することです。全社的に一斉導入するのか、それとも特定の部門や階層から始めるのかによって、難易度や進め方が大きく変わります。
考えられるパターンとしては、全従業員を対象とする「全面適用」と、専門職や管理職などに限定する「部分適用」の2つがあり得ます。それぞれのメリット・デメリットを比較し、自社の組織風土や経営戦略に合った方法を選択しましょう。
6.1.1. 全社的にジョブ型を適用する
全社員を対象に一斉に導入する方法です。
人事評価や報酬体系がすべて変更されるため、全社的な変革をスピーディに進められる一方、導入のリスクは高くなります。
従来の働き方に慣れた従業員から不満の声が上がったり、制度の急な変更に現場が混乱したりする可能性があるため、慎重な検討と丁寧な説明が不可欠です。
6.1.2. 一部の職種・役職のみに適用する
影響範囲を限定するため、従業員の意見を汲み取りながら段階的に導入することができます。スモールスタートで課題を洗い出し、改善を重ねながら徐々に適用範囲を広げることもできるため、多くの企業で採用されている方法です。
6.2. 職務を定義し、必要に応じて職務記述書を作成する
職務を定義し、必要に応じて職務記述書を作成する
適用範囲が決まったら、次に行うのが各職務の具体的な内容を定義する「職務分析」です。現場の従業員へのヒアリングや業務の観察、アンケートを通じて、個々の仕事内容や責任、必要なスキルなどを洗い出すとよいでしょう。
そして分析結果をふまえ、必要に応じて「職務記述書」を作成します。職務記述書に記載するのは、主に以下の項目です。
- 職務の名称、所属部署
- 職務の目的と役割(ミッション)
- 具体的な業務内容
- 責任と権限の範囲
- 必要な知識、スキル、資格
ただし、職務記述書の維持・管理にはコストがかかります。そのため、重要ポジションのみで作成するなど、職種別の等級定義で代替する方法もあります。
6.3. 職務ごとの価値を評価する
職務記述書を作成したら、記述書に基づいて各職務の「価値」を評価します。職務の重要度や難易度を客観的に測定するため、職務評価ツール(下記の点数法に基づく)を活用することも考えられます。
職務評価は、公平で納得感のある等級体系(序列)を構築するうえで不可欠なプロセスです。「なぜあの職務は自分の職務より給与が高いのか」といった疑問に対しても、客観的な根拠があれば説明しやすいでしょう。
主な評価方法には以下の4つがあります。
6.4. 等級区分に応じた報酬水準を設定する
職務価値の評価が完了し、各職務の等級が決まったら、等級区分に応じた報酬水準を設定します。その際、労働市場における報酬水準とのバランスが重要です。
調査会社が提供する報酬サーベイのデータなどを活用し「この等級(またはこの職務)なら〇〇円〜〇〇円」といった具体的な報酬範囲を決定しましょう。これにより、従業員の納得感を高め、採用市場で戦える魅力的な報酬水準を確保することができます。
7. ジョブ型人事制度の導入にあたって失敗しないためのポイント
7.1. 自社に合った人事制度を見極める
ジョブ型人事制度の導入を成功させる最初の鍵は、自社の事業や文化に適しているかの見極めです。ジョブ型に移行している会社が増えているからという理由だけで導入すると、現場の混乱を招き、かえって生産性を落としかねません。
企業のおかれた環境や事業のあり方によって、ジョブ型とメンバーシップ型のどちらの親和性が高いかは異なります。以下の比較を参考にしてください。
一般的に、ビジネス環境の変化が激しく、高い専門性が求められる業界では、ジョブ型との親和性が高いとされていますが、すべての企業でジョブ型が向いているわけではありません。
例えば、長期的な人材育成による従業員の習熟が製品の品質を支えている企業や、穏やかな社風を強みとしている企業の場合、メンバーシップ型の方が適している可能性があります。 デジタル化やグローバル化の影響が比較的小さく、安定した収益を上げており、また、学習意欲の高い従業員が多い企業では、ジョブ型導入の必要性をあまり感じないかもしれません。
しかし長期的な視点で見ると、少子化による労働人口の減少や、働き方の価値観の多様化により、多くの日本企業でメンバーシップ型の前提が崩れつつあるのも事実です。また、なかにはジョブ型の要素とメンバーシップ型の要素を組み合わせた人事制度を導入するケースもあります。
ただ、こうした人事制度改革は、単に制度の体裁を整えるだけでは成功しません。従業員の意識改革や評価者となる管理職のトレーニング、新しい制度を運用するためのITシステムの整備など、乗り越えるべきハードルは数多く存在します。
これらを自社の人事部門だけで推進するには、多大な労力と時間が必要となるでしょう。
もし、「自社に最適なジョブ型雇用の形がわからない」「導入プロセスに不安がある」といった課題をお持ちなら、外部の専門家に相談されることもおすすめします。
7.2. 職務や求められる成果を明確にし、状況に応じて職務記述書を見直す
ジョブ型人事制度を形骸化させないためには、職務内容の定義と求められる成果の明確化が重要です。定義が曖昧なままでは、評価者の主観や印象で評価が決まってしまい、従来の年功序列的な運用と変わらなくなってしまいます。
また、求められる成果が不明確だと、従業員は何をすれば評価されるのかがわからなくなり、制度への不満や不信感につながりかねません。この透明性こそが、従業員の納得感とモチベーションを高め、制度を正しく機能させるのです。
ただし、職務記述書のメンテナンスは多くの手間がかかるという側面もあります。 すべての職務に対して厳密な運用が難しい場合は、まずは重要ポジションに限定して詳細な職務記述書を作成・見直しを行ったり、職種別の等級定義で職務範囲や求められるスキルを代替したりするなど、企業の状況に応じた柔軟な運用も検討すると良いでしょう。 見直しの頻度は企業によってさまざまですが、事業環境の変化が激しい場合は、頻繁な見直しも視野に入れる必要があります。
7.3. 各階層が人事制度を理解しておく
ジョブ型人事制度を円滑に導入し、組織に根付かせるためには、経営層から一般社員までが、目的と仕組みを正しく理解し、納得している状態を作ることが不可欠です。それぞれの立場で求められる役割や意識改革が異なるため、階層別に丁寧な啓発活動を行う必要があります。
それぞれの階層で理解しておくべきポイントをまとめました。
7.3.1. 経営層
経営層の最も重要な役割は、ジョブ型人事制度の導入が会社の成長を実現するための経営戦略であるという強いメッセージを発信し続けることです。
「なぜ変革が必要なのか」「会社を将来どのような姿にしたいのか」といったビジョンを語り、変革への覚悟を示すことで従業員の不安を払拭し、組織を一つにまとめていきます。
7.3.2. マネージャー(管理職)
管理職は従来のメンバーシップ型における「面倒見役」ではなく、部下の職務遂行を支援し、成果を正当に評価する立場です。職務記述書とそこで求められる成果を理解し、適正に評価を行い、部下への適切なフィードバックとキャリア自律を促すコミュニケーション能力が欠かせません。
また、職務記述書の内容を定期的に見直し、実態に合わせて更新していく運用責任もあります。
7.3.3. 一般社員
一般社員は、自分の職務と求められる成果を正しく理解する必要があります。「会社がキャリアを用意してくれる」という受け身の姿勢から、「自分のキャリアは自分で切り拓く」という自律的な意識への転換が必要です。
自分の市場価値を高めるための学びを継続する姿勢も欠かせません。主体的に考えて行動することが、個人の成長と会社の成長につながります。
7.3.4. 人事部門
人事部門は、制度を現場に導入し円滑に運用していくための「変革のパートナー」としての役割を担います。経営層への進捗報告、管理職への評価トレーニング、一般社員からの質問対応など、各階層へのきめ細やかなサポートが不可欠です。
また、労働法規との整合性を確認し、制度変更にともなう法務リスクに対応するなど、専門性の高い知識と実行力も求められます。
8. ジョブ型人事制度の導入による人事機能の変化
ジョブ型人事制度を導入することにより、人事部門の役割は、従来の管理的な機能を中心とした組織から、経営と一体化した「戦略的パートナー」へと大きく変わる必要があります。
これまで人事機能は、新卒一括採用や階層別一律の研修、会社主導の人員配置といったオペレーションが中心でした。しかしジョブ型人事制度では、経営戦略、そしてそれに基づく要員計画をふまえ、それぞれの人事機能がより専門的かつ戦略的な内容へと進化します。例えば、採用活動は、職務ごとに専門人材を獲得する戦略的な「リクルーティング」へと変わり、ビジネスサイドや現場との連携がより必要となってくるでしょう。
また、人事企画が担っていた機能は、後継者計画や社員のキャリア自律を促す「タレントマネジメント」、そして職務遂行による貢献度をより客観的に評価する「パフォーマンスマネジメント」へと高度化します。社内外の優秀な人材を惹きつけ、モチベーションを高め、リテンションするためには、報酬や福利厚生のあり方も、より戦略的に考える必要があります。
様々な人事施策の実施状況や進捗、そして投資対効果を、「ピープルアナリティクス」によるデータ分析に基づき適切に把握し、意思決定していくことや、「組織開発」により従業員エンゲージメントを向上させるといった新たなミッションも加わります。人事担当者は、より経営に近い立場で事業を支援するとともに、ビジネスサイドに寄り添い人材ニーズを把握し人材獲得や育成を支援する、そして、定型業務はシェアードサービスセンターに集約されるなど、人事機能全体が再編されることとなります。
9. ジョブ型人事制度の導入成功事例
9.1. KDDI株式会社
KDDI株式会社は、事業領域を拡大するなかで、多様で高度な専門性を持つ人材の獲得・育成を目指されていました。そこで、全総合職を対象に「プロを創り、育てる」ことを目的に、自社の強みを活かした人財育成方針のもと、職務の専門性を重視する「KDDI版ジョブ型人事制度」を導入しています。
この制度では、まず30の専門領域を定め、領域ごとに必要なスキルや役割を「専門領域定義書」として明確化しています。社員はこれをもとに自分のキャリアプランを策定し、上司との1on1を通じて成長を目指す仕組みです。
評価は「成果・挑戦」「能力」「人財レビュー」で行い、挑戦する姿勢や組織への貢献といった「人間力」も評価されます。この改革により、若手や中途採用者でも職務の価値に応じて早期に高待遇を得られる可能性が生まれ、キャリア自律を促す文化が醸成されています。
また、報酬体系を管理職と非管理職共通とし、等級ごとに幅広い報酬レンジを設定しています。昇降給はその都度の評価と報酬レンジ内のゾーンに応じて決まり、同一等級内でも報酬額のメリハリがついています。
導入の結果、エンゲージメントサーベイのスコアが毎年上昇し、特に「自己成長」や「キャリア機会」に関する項目が大きく伸長しました。また、2021年から3年間で40歳未満の管理職数が2.6倍に増加するなど、実力ある若手の抜擢が進んでいます。
9.2. 東洋合成工業株式会社
東洋合成工業株式会社は、技術力を強みとする一方で、人事機能が限定的で中長期的な人材育成が課題でした。創業社長から現社長への交代を機に、組織の機能強化と人材育成を目的に、管理職を対象としたジョブ型人事制度を導入しています。なお、非管理職については育成段階にあると考え、幅広い経験を積ませるためにジョブ型は導入していません。
制度の特徴は、管理職の役割を「組織目標の達成50%、部下の育成50%」と明確に位置付けた点です。管理職の職務記述書を作成し役割を定義するとともに、マネジメントとプロフェッショナルの2つのコースを設け、専門性を評価するキャリアパスも用意しました。
また、部下の育成を重視し、マネジメントコースの報酬水準をプロフェッショナルコースよりも高めに設定しています。報酬レンジは、ベンチマークしている他社の動向も踏まえ、採用競争力で劣らない水準としています。
この結果、経験者採用で優秀な人材を獲得できるようになり、また社員の育成を最重要視する文化が社内に浸透し、会社の業績向上にもつながっています。
同社の取り組みについてまとめた下記ページもご覧ください。
関連記事:東洋合成工業の成長を支えた改革の軌跡
10. まとめ
ジョブ型人事制度は、変化の激しい現代において、企業の競争力強化や従業員の自律的なキャリア形成を後押しする有効な手段となり得ます。同時に、人事機能全体の変革や企業文化の変革をともなう大きなプロジェクトです。
職務の定義や評価、報酬設定など乗り越えるべきハードルは多く、他社の仕組みをそのまま導入してもうまく機能するとは限りません。特に、日本企業に根付いたメンバーシップ型からの転換には、多くの困難がともないます。
貴社でジョブ型人事制度の導入や移行を検討しており、どのように進めるべきか迷われているのであれば、マーサージャパンへご相談ください。貴社の事業特性や組織文化に合わせた人事制度の設計から導入、運用までを一貫してサポートします。