新たな章のはじまり

年金制度改正法案が衆議院通過 - 企業型DCへの影響とは? 

02 7月 2025

DCレター No.5

概要

  • マッチング拠出の制限緩和:これまでの「加入者掛金の額は事業主掛金の額を超えることができない」というDCマッチング拠出の制約が廃止されます(施行時期:公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日)。

  • 情報開示の強化:企業年金の運用の見える化として、業務報告書等の記載事項のうち一定事項を厚生労働省が公開することになります(施行時期:公布の日から起算して5年を超えない範囲内において政令で定める日)。

  • iDeCo(個人型DC)の加入可能年齢の引上げ:現在は60歳(一部は65歳)まで加入可能ですが、今後は加入可能年齢が70歳まで引き上げられます(施行時期:公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日)。

  • DC拠出限度額の引上げ:2024年の税制改正大綱にて月55,000円から月62,000円*への引上げが示され、今回の法案でも拠出限度額の拡充等の措置を講じる必要性について記載されています。今後の政令改正を注視していきましょう。

  *企業型DCのみ実施の場合

マッチング拠出の制限緩和 

マッチング拠出は、企業の掛金に加えて、従業員が任意で追加拠出できる効果的な資産形成の手段であり、所得税・住民税の節税効果を享受できる点が特徴です。この点はiDeCoも同様ですが、両者には運用面でいくつかの違いがあります。企業型DCのマッチング拠出では、会社拠出と本人拠出を一つの口座、すなわち一つの財布で管理できることに加え、口座維持等の事務費用も企業負担であるのが一般的です。
 
一方、iDeCoでは会社の制度とは別口座での管理となり、事務費用も原則として加入者本人の負担となります。そのため、企業型DCを通じたマッチング拠出を優先的に活用するのが合理的といえるでしょう。しかし「加入者掛金の額は事業主掛金の額を超えることができない」という制限があったため、企業の掛金額が少ない従業員は、マッチング拠出の限度額がiDeCoの拠出限度額を下回るという事象も発生していました。そのため、節税メリットの最大化を図る従業員の中には、あえてiDeCoを選択していたケースも想定されます。
 
今回の規制緩和により、マッチング拠出の自由度が高まります。これにより、これまでiDeCoを選択していた従業員にとっても、企業型DCに再び目を向ける好機となるでしょう。企業としては、改めて制度の周知・従業員への情報提供を強化し、説明会等の設定を行うことが推奨されます。

図. マッチング拠出の限度額のシミュレーション(公布の日から3年以内)

注記: 企業型DCのみ実施している場合

情報開示の強化

資産運用立国実現プランにおける議論を基に、厚生労働省が報告を受けた業務報告書等の内容を集約し、公開するスキームが規定されました。施行後は制度別、企業別、運営管理機関別にオンラインで誰でも閲覧・比較ができるようになる見込みです。開示内容の詳細については、今後定められるとされています。

iDeCo(個人型DC)の加入可能年齢の引上げ

就労期間の長期化等を受け、資産形成期間の延伸は社会的要請とも言えます。会社員や公務員などの厚生年金加入者なら「65歳未満」まで、フリーランスや専業主婦(夫)などは「60歳未満」までとされていたiDeCoの加入可能年齢がいずれも70歳へと引き上げられます。なお、老齢基礎年金やiDeCoの老齢給付金を受給していない方が対象となることに留意が必要です。 

DC拠出限度額の引上げ

2024年12月に閣議決定された税制改正大綱において、企業型 DC の拠出限度額については、賃金上昇の状況を勘案し、月額55,000円から62,000円に引き上げる方針が示されました。具体的な金額や引上げの時期等については、注視する必要があります。

企業ご担当者様への示唆:定期的なDC制度運営体制の見直しの検討を

DCは、加入者数の増加とともに主要な企業年金制度の一つとして定着していますが、制度導入後の運営や従業員による活用状況は依然として改善の余地があると考えられます。DCでは、従業員自身がマッチング拠出や運用指図の判断を行う必要がある一方で、企業には制度を導入した後も、継続的な投資教育の提供や、運用商品・運営管理機関の評価・見直しを通じて、制度の質を維持・向上させる責任があることが法令やガイドラインで示されています。

マーサーでは、中立的かつ客観的な立場から、以下のような幅広いご支援を通じて、企業のDC制度運営をサポートしています。

  • 運用商品ラインナップの評価・構成見直し
  • 運営管理機関の評価
  • 制度活用状況の分析と改善施策の策定

従業員の資産形成を支援する制度として、DCの価値を最大化するためには、継続的な運用改善の視点が欠かせません。DC制度の運営や見直しに関してお困りのことがあれば、ぜひマーサーにご相談ください。

なお、本稿は2025年6月10日時点で執筆しています。

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永島 武偉
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