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やってはいけない研修 ― 育成を体系的に考える 

17 2月 2026

研修のありがちな課題

階層別研修をはじめとする研修体系を整備しコンテンツを充実化する企業は多い。しかし、「我が社の研修効果に満足している」「研修を受けたことで社員が変わり、現場や事業に好影響が生じている」と自信を持って言える企業はどれ程であろうか。

研修に限らず各種施策の最終ゴールは、企業の経営・事業戦略の実現だ。最終ゴールに向け、研修は社員が必要な知識やスキルを獲得して行動につなげて成果を出すことを支援する取り組みだ。しかし、“研修を受けて終わり”になってしまい、意識・行動変容にはなかなか至らないという声は少なくない。

本稿では、意識・行動変容につながる効果的な研修設計のポイントをご紹介したい。自社の取組がポイントを満たさない「やってはいけない研修」になっていないかも併せて確認されたい。

求める人材要件から逆算された研修設計となっているか

ポイントの1つ目は、自社が求める人材像・人材要件が明確で、その人材要件から逆算される形で研修コンテンツが設計されていることだ。人材要件の獲得・体現に必要な知識・スキル学習につながるコンテンツが必要だ。

昨今のVUCAと呼ばれる変化が激しい環境下では、今までとビジネスの進め方・スピードが変わり、求められる人材要件も過去から変動している場合が多い。あるいは、人材要件自体が社内で言語化/共通認識化されていないケースもある。いずれにせよ、まずは人材要件の明確化が必要で、経営層へのインタビューや外部の人材要件フレームワーク等を通じて定義することが多い。

次に、その人材要件から逆算された研修設計が必要だ。しかし、人材要件がコンピテンシーや各等級の評価基準として社内で明確化されていても、研修と連動していないケースも多い。研修に限らず、採用、育成、配置、評価、処遇等の人材マネジメント全体が一貫して人材要件と連動している必要がある。継続的に、連動性はあるか・個別最適に陥っていないかという検証が必要である。

育成の“7:2:1”を考慮しているか

ポイントの2つ目は、育成の「7:2:1」全体に対するアプローチを描いた上で研修設計を行うことだ。

ロミンガーの法則として著名な「7:2:1」の法則とは、人が成長するには7割が仕事上の経験、2割が他者からの助言やフィードバック、1割が研修などのトレーニングから学ぶという考え方である。研修は短時間でありながらも1割を占める重要なパーツであるが、研修の学習だけでは限界があることも事実である。育成施策を検討する際には、「1」の研修だけでなく、残りの「7と2」に対するアプローチ方法も含め体系的・統合的に検討することが重要だ。今回は2つのアプローチを紹介する。

 

アプローチ例(1):

「7と2」を内包した研修設計の手法がある。「1」の知識インプットを座学で行った後に、「7と2」のフォローアップを定期的なグループコーチングで行う形式で、以下のように進める。

  • 必要な知識・スキルを座学研修で学ぶ
  • 座学研修の学びも踏まえ、個々人が日々の仕事で強化・改善すべきアクションプランを設定
  • グループで、仕事におけるアクションプランの進捗状況確認・相互助言を実施 ※半年等の一定期間において月次で設定

研修後に受講者の変容がない大きな理由は、研修後に現場へ戻ると業務に追われ、学びを意識的に実践する/実践を促す機会や仕掛けがないことである。そのために、実践状況を定期的にチェックする場をグループコーチングとして設定する。

しかし、実践するだけでは意味がなく、パフォーマンスの改善・強化や能力伸長に結びつくことが重要だ。うまくいかなかった原因を特定し改善・成果へつなげるためには何をすべきか、うまくいったポイントを言語化・抽象化して他の場面でも再現できるようにするにはどうすればよいか等を、多角的な視点・高い視座に立って整理することが重要だ。これらの振り返り・整理をグループ内の相互コーチングで行う。

グループは同階層の社員4~5名で設定することが多く、他社員の助言や取り組みを知ることで、一人だけでは見出しにくい気づきの発見やモチベーション・刺激につながることが多い。また、グループにはコーチとして上位階層の社員や外部のコンサルタントを関与させるとより効果的だ。同じ会社の同階層同士では気づきにくい視点の獲得や視座の引き上げを行いやすいからだ。

実際にこの取り組みで効果を生んでいる事例がある。プログラム受講当初は他責思考で自らの意識・行動を変えることに前向きではない社員がいた。しかし、同階層のメンバーやコーチからの多角的なコメントやメンバーの取組に刺激を受け、部下とのコミュニケーションスタイルを大きく変えて部下の主体的な動きを引き出す行動を起こすようになった。このような意識・行動変容事例が多くの社員で見られた。

 

アプローチ例(2):

「7と2」が現場で行われるよう管理職向け研修を特に注力する形式もある。管理職は、部下に対してタスク配分等を通じ仕事経験を提供し仕事を進める中での助言やフィードバックを与える役割を担うため、「7と2」成功のキーパーソンであるからだ。

しかし、管理職の「7と2」遂行に課題を感じている企業は多い。プレイヤーとして優秀ではあっても「7と2」を効果的に行えるマネジメントスキルを身に着けた人材が登用されていない、身に着ける機会がない、管理職自身が「7と2」を行う意識がない等、様々な課題はあるだろう。課題解消に向けて、管理職に対して、「7と2」の主体者であることの意識付け、仕事の任せ方・助言やフィードバックの進め方等の知識・スキルをインプット、ロールプレイ等を通じたインプット実践等の研修プログラムを提供する。

近年、管理職にコーチングスキルを指導する取り組みが増えているが、「7と2」を強化する取り組みの一環としても位置づけられるだろう。

 

複数の事例やアプローチを紹介したが、重要なのは研修単体ではなく、育成や人材マネジメント全体を見据えて体系的に考えることだ。
研修は自社が求める人材像・人材要件を体現する社員を育てることであり、そのためには人材要件から逆算したプログラムが必要である。
また、「7:2:1」の法則を踏まえると、「1」の研修だけでは成長・行動変容にはつながりにくい。残りの「7と2」へのアプローチも含めて整理した上で「1」の研修が設計・実行されることが有効だ。

「やってはいけない」研修から効果が出る研修へシフトしていくことが、人的資本経営やリスキルにもつながっていく。
加えて、研修は費用面だけでなく、社内の運営者や受講者の貴重な時間を投じる面からも“安い買い物”ではないため、今までの踏襲やアップデートではなく批判的・体系的に検証と検討を行うべきだ。

著者
森本 麻子
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