新たな章のはじまり

ハードシップに対する施策の最新動向 

23 10月 2025

今年の夏は異例の暑さとなり、国内で40℃以上を観測した日数が過去最多になった。ハードシップ手当は「暑さなどの気候」の一項目だけで決まらないものの、ここまで暑いと派遣者だけでなく日本で勤務している人たちにもハードシップ手当が必要ではないかと思えるほどである。

さて、ここ最近海外派遣者のハードシップに対する施策についてお問い合わせをいただくことが増えている。内容としては「ハードシップ手当をどのように設定すればよいか」といった手当額に関することや、「特定の都市においてどのようなハードシップへの対応を行うのが好ましいか」といった手当以外の対応についての問い合わせである。今回のコラムにおいてはハードシップについて考え方の整理をしつつ、2025年8月に実施したアンケート調査「ハードシップ対象都市における施策(517社参加)」の結果にも触れながら最新の動向について紹介したい。

ハードシップに対する施策の考え方

海外派遣者のハードシップに対する施策の定義としては、海外赴任における困難な生活条件、肉体的苦難、不健康な環境に対する企業側の配慮となる。そのため、手当の支給金額を検討する前に、まずは現物支給を含め物理的な解決を試みる必要がある。その上でどうしても解消することができない事象に対して手当支給となり、ハードシップ手当と呼ばれている。ここで重要なのが、海外派遣者が任地における辛さや環境差をどのように感じているかをしっかりと捉えた上で、手当支給と物理的施策を行うことである。

ハードシップ手当において重視されている要素

まずハードシップ手当の設定にあたっては、会社として「何に」「いくら払うのか」の2点を検討することが必要になる。どの要素をハードシップとして捉えるのか、重視するかについては各社の考えによるもので正解はない。「ハードシップ対象都市における施策」のアンケートによると、ハードシップ手当の設定時に特に重視している要素(複数回答可)において、「治安」「身辺の安全」が最も多く、次に「衛生」「医療」が多い結果であった。海外派遣者の命に直接かかわる項目が重視されていることが伺える。コンサルティング会社による指数化されたハードシップデータを参照しつつ、企業独自の考え方を反映する場合、①重視する項目の点数のみを使う②点数を加点する③独自に重視する項目のウエイトを設定して合計点数を算出し、それを基にハードシップ手当のテーブルに当てはめるケース等がみられる。一方で独自に調整を入れるあまり、都市間の序列について納得感が損なわれる場合もあるためその点について注意が必要であり、マーサーではハードシップデータご購入者に対して、運用方法の提案も行っている。

なお、同アンケートにおいて「直近1年間で派遣者から問い合わせがあった都市と理由」も確認しているが、目立つ回答としては「治安の悪化」となっており、企業側が重視している要素と派遣者が不安に思っている内容は一致していた。

ハードシップ手当の設定の際に特に重視している要素を最大3つまでお選びください(複数回答)

出所:マーサー「ハードシップ対象都市における施策について(2025年8月)」

ハードシップ手当以外の施策

ハードシップに対する施策で手当以外に考慮しているものとしては、「日本食」の物資送付を筆頭に「運転手の確保」「買い出し休暇の付与」「一時帰国(回数などを優遇)」が目立った。ハードシップ度合いが高い都市においては物資の調達、特に日本食の調達は難しい環境であることが多く、会社として日本食の物資送付を考慮しているのもうなずける。日本食の物資送付の運用時に参考とされるのが、コンサルティング会社のハードシップデータにおいて「日本食の調達」における評価であり、日本食の物資送付有無や利用可能な回数等の上限を決める際に利用されている。

また、同アンケート内で“ハードシップ手当”以外の好評な施策についても確認しているが、やはり「日本食」の物資送付が一番の多い回答である一方で、回答企業数517社のうち「【物資送付・現物支給】日本食」と回答している企業は154社にとどまっており、日本食の物資送付施策を行うことで派遣者の満足度向上への取り組む余地があると言える。

ハードシップ対象都市における処遇で、手当以外に考慮しているものを教えてください (複数選択)

出所:マーサー「ハードシップ対象都市における施策について(2025年8月)」

おわりに

ハードシップ手当を設定する上で企業としても派遣者としても重視しているのは「安全」に関連する項目であり、手当以外の物理的施策では「日本食の送付」を行っている企業が多くかつ好評である。いずれも従前から重視されてきていたものが変わらず今も重視されていることがアンケートにより分かった。

ハードシップに対する施策は手当、物理的施策共に各社の想いを持って自由に決めることができるものである。海外派遣者にとっては自身が感じている派遣の辛さを理解してもらいたいとの思いがあり、会社としても派遣者が感じているハードシップを把握し、しっかりと報いていることを海外派遣者に対して伝えるべき項目である。派遣者の実際の声や感覚を反映したより納得度の高い制度設計が、企業と派遣者双方の信頼関係を築く上で不可欠になる。ぜひ自社のハードシップに対する施策について再考してみてはいかがだろうか。

マーサーは任地の環境について派遣者がハードシップをどう感じているかを捉えて指数化した「日本人世界生活環境レポート」や、自社のハードシップ手当金額が市場水準と比較してどの立ち位置か確認しつつ妥当なハードシップ手当水準を把握できる「Hardship Allowance Benchmark」も提供している。ハードシップについてお悩みがあればお気軽にご相談いただきたい。

著者
大久保 孝晴
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